5、やっちゃったぜ☆
「…………これは」
「やっちゃったぜ☆」
現場に着いたスカイは啞然として大破した祠を眺めた。
見事に屋根が破壊され、まるで砲撃でもされたかの様だ。内部に祀られていた、一部の生徒から「キモかわいい」と人気があった蛙の像は木っ端微塵に砕け散っていた。
なるほど、中にはルーシーが言っていた様に、『この祠、ネクロディアの封印所なり、壊すべからず』って書かれた禍々しい模様のお札が貼ってあった。本来祠の奥に貼ってあったそれは、屋根が砕けた事で外部からも見れる様になっていた。
そりゃ、こんなお札を見たらビビるだろう。
「……警告文なら、外から見れる場所に貼っといてほしいんだが」
「警告文の意味ありませんね、これ」
隣で惨状を唖然としながら眺めているエリザベスも同調する。
「それにしても、ネクロディアねぇ……。元々はブラックバニア近辺で信仰されてた、生贄を要求する女神だね。だが、生贄を要求する事が嫌われ、やがて信仰は国家宗教に奪われていった。今はこういう場所に、ひっそりとかつての信仰の跡が残っている程度の、マイナー土着神にまで落ちぶれている」
セラフィーナが解説した。さすが大学生だけあって、中高生よりは知識量は豊富だった。
「…………祟りとか無ければ良いんだが」
「スカイ、物騒な事言わないで」
「この科学の時代にそんなもの無いと思うけどねぇ」
レベッカとアリスはそう言うと、壊れた祠の状態をチェックしはじめる。
そして、大破した祠の前にいたのは二人の女子生徒。二人とも女子ソフトボール部『アポカリプスグース』のユニフォームを着ていた。
「いや〜、サマンサが投げた球を私がカキーン! と打ったら場外ホームランして祠に直撃して、パキーン! と中の蛙像に命中するなんてね!」
「……これ、弁償とかしなきゃいけないやつですか?」
ヴィクトリア・ストライクイーグルとサマンサ・シーガル。アポカリプスグースの団員2名が今回の犯人みたいだった。
「……え、何、ソフトボールの球でこれをぶっ壊したの?」
頭を抱えつつ、スカイは状況を整理した。
学校の練習場で部活をしていたアポカリプスグース。練習中に、サマンサが投げたボールをヴィクトリアが場外ホームラン。かっ飛んで、フェンスを飛び越えたボールがこの祠に直撃したらしい。中のご神体の蛙像も木っ端微塵。
「サマンサァァァ! またお前かァァァ!校則違反8回の上、器物損壊とか良い度胸だなァァァ!」
「ひぃぃぃん! 今回は私悪くないもん! 打ったのキャプテンだもん!」
涙目になっているサマンサの両頬をつねるオードリー。……彼女達には、なにか因縁がある様だった。
それについてはともかく、まずはこの状況をどうするか、だ。
「いや〜♪ 美しい弾道だったわね。まるで大砲の砲撃みたい」
「こいつはこいつで開き直ってるし……」
ドヤ顔で語るヴィクトリア。女子ソフトボール部の部長だけあり、肝は据わっている。良くも悪くも。
「ま、当たったのが人じゃなくて良かったけど……」
「……でしょ? 故意じゃないし、お咎め無しって事で……」
「シーガル家は名ばかりの没落貴族で、貧乏ですから弁償は何卒……オードリーちゃん、ほっぺつねるのやーめーてー」
「……ちょっとそれについては保留」
ヴィクトリア……彼女も大概トラブルメーカーサイドだが、今回は見事にやらかしてくれた。




