プロローグ 戦争とは別の世界で
「スカイ……君に、託そうと思うんだよ」
「何をですか?」
「生徒会長」
「えっ……」
これは、別の世界で「この世の地獄」と呼ばれた内戦が『起こらなかった』世界。
***
スカイ・キャリアベースは美男子である。『スカイ』の名前通りの青い瞳に、雲のような白い繊細な髪。頭頂部から触角の様に生えた二本のアホ毛がチャームポイント。そして、顔の作りは上品で、一見女の子にすら見える。
そんな極上の『男の娘』である彼は、訝しむ様な視線を、一人の女性に向けた。
ここはこの『アポカリプス学園』の生徒会室。そこの生徒会長の椅子に、ちょこんと座っている女性が一人。
「あの……そこ、僕の椅子なんですけど」
「細かい事気にしていると、ハゲるわよ?」
そういって、お茶を飲むのは、彼らの先輩にして、この学園の元生徒会長のOB。セラフィーナ・ラグナロック先輩。
「まだ15なのに……」
ハゲるなんてそんな酷い。この雲の様な白髪、結構気に入ってるのに……。
ブラックバニア民主主義王国。その工業都市ハマン市ダラ通りにあるこの学園は、中高一貫。学力は中の上くらい。まあ、よくある学校である。
そこで、生徒会長を務めるのが、彼、スカイ・キャリアベース。15歳。
まだ、中等部3年。にも関わらず、生徒会長なんて大役を任されているのは、他ならぬ、セラフィーナの鶴の一声が原因だ。
お人好し気味な性格でよく、他人のトラブルに介入しては解決してきたお陰か、元々変な人望があった事。そして、伝説の有能生徒会長として評判のセラフィーナの推薦。その二つが、学園での彼の立ち位置を決定付けた。
今ではついたあだ名は『トラブルバスター隊長』。皆会長では無く、『隊長』と彼を呼ぶのは、内心何だかなぁと思うけど。
「というか、先輩。大学って暇なんですか?」
スカイは生徒会長席を占領し、実効支配しているセラフィーナにジト目で聞いた。彼女は軽く笑うと指で輪を作り、それを覗く。
「単位は取れる様にしているから大丈夫だよ。それより、今は可愛い後輩達を観察したいんだ」
「観察……ねぇ」
「そうそう。幸せな青春の日常ってやつを覗くのが好きなのよ。私は」
セラフィーナは、今度は指で拳銃の形を作る。
「世の中には君みたいな歳で徴兵されて、戦地に立っている少年兵が沢山いる。君達の日常ってのはとても尊いんだ。そして、それは観察する価値がある」
「何か、重い覚悟で人間観察してるんですね。疲れません?」
「疲れないねぇ。面白い面白い。青春だねぇ」
セラフィーナは微笑み、続ける。
「このブラックバニアだって、歴史上、いくつかのボタンのかけ間違えがあれば、今ごろ戦争してたかもしれない。そう考えながら生活すると、平凡な日常がとても大切に感じられる。良い考えかただと思うよ、これ」
「このあきれかえる程に平和なブラックバニアが戦争ですか……正直、あまりピンときません。この平和な国が戦争ねぇ……」
「例えば、100年前に市民革命で、王政が立憲君主制に変わっていなかったら、とか、近代化に際し、東洋の列強、天照皇国の文化や制度を真似しなかった、あるいは失敗してたら、とか。今の平和は奇跡の上にあるんだよ」
「なんというか、難しい話ですね……」
「ふわっと聞いてて良いよ。私もふわっと話てるから。……案外血みどろの内戦やってるパラレルワールドとかが存在してたりして。こちらがPIECEのP世界線、そっちがWARのW世界線とか名付けよう」
可愛い顔して物騒な事を言うセラフィーナ。こんな変人に分類出来る人だが、仕事は非常に出来るのが妙なギャップだった。




