16、666の悪魔
レベッカはすでに隣で寝息を立てていた。スカイはぼんやりと自身の手を見る。手は物理的には汚れていない。だが、分かる。自分の手はもう血まみれだ。
* * *
―― 今日までに700人以上、死んだ。名前も、顔も、全部覚えてる。
ある子は敵に撃たれ、ある子は爆撃でバラバラになり、また、ある子は逃げようとしてオードリー達に撃たれた。
俺自身の手で、死刑判決を……懲罰部隊に放り込んで最前線で使いつぶした子もいる。
けど……泣くのは全て終わってからにしよう。また、俺が泣いたら今度こそ部隊が崩れる。
俺に着いてきた奴だけが、生き残ってる。
それは偶然じゃない。俺に従順で、有能で、周囲との和を乱さない利口な奴を優先して生かしてきた。
可愛いだけで、反抗的だったりやる気の無い連中を生き延びさせられる程、俺の能力は高くない。
……今残っている彼女達は俺に従うという『正解』を選んだ。だから、俺はこれからも『正解』でなきゃいけない。
「全員は救えない」
ぽつりと呟く。
これは戦争じゃない。この世の地獄だ。女子中高生の学徒兵部隊。それも、裏の目的はクソ邪神への餌。そんなものが誰も反対しない、出来ないで公然と採用されてしまう時点で、この国はもう全員狂ってる。
そんな狂った大人達によって作られた鳥篭の中に入れられた、1000人の少女達を全員を生き残らせることなんて出来るわけがない。だから、最初に戦死者が出た時、選んだんだ。
――守る順番を。……低い順に切り捨てていった。
レベッカ。横で眠る最愛の幼馴染。
お前だけは、絶対に守る。
お前の笑顔がなきゃ、この大隊は軍じゃなく地獄になる。
……俺も、まだ人間でいられる。
…………その分、苦労と悲しみばかり背負わせている。
なんとまぁ自分勝手な男だろう。……だが、彼女に甘えっぱなしな事は俺自身が一番分かっている。
アリス。
正直、お前が一番危ない。俺の弱さに気づいてる。獣性を知って肯定してくる。
だけど……それが今は、救いだ。
壊れてるのはお互い様だろ? お前の企み……俺がレベッカを捨てたら、しれっと自分がその位置につこうとしてる事くらい分かっているぞ?
そうはさせない。
それに、そんな気の長さがあるんだ。お望み通り、死ぬまで俺のわがままに付き合わせてやるよ。
エリザベス
いつも冷静な俺の右腕。……最近は変なテンションの時も多いが。
レベッカが私的な相棒なら、お前は公的な相棒。ここまで俺の無茶ぶりに答え続けてくれた事、感謝してるんだぜ? それに、内心じゃ俺に怯えつつも、見捨てずに付いてきてくれた事も。
マリー、アレクサンドラ、グレイシー
お前達は最初は俺の敵だった。けど、俺を選んだ。
敵が味方になった以上、使い尽くしてやる。全力でな。
……それに、こう見えて、身体も心も貪りつくした負い目だってあるんだぞ。
エレナ、フローラ、マルタ
ヤンデレ気質だが、あいつらは俺の言う事をきちんと聞くし、他人に攻撃もしない出来た子達。
戦後も近くにいたいっていうなら、全員娶ってやる。
……一番にしてやる事は出来ないが、悪い男に惚れた代償だ。……すまん。
オードリー、イヴリン、ルーシー
従順で、よく動く。俺の命令ひとつで命を張る忠犬達。
皆馬鹿みたいにまじめで、仲間思いで、本来、督戦隊なんてやらせてて良いような子達じゃない。それでもこの汚れ仕事をしてくれる子達。
だからこそ、冷静に必要な場所に配置してやる。感情は……後だ。後で必ず幸せにしてやる。
ジュリア、オリヴィア、ヴィクトリア
666大隊のトップエース達。自分から残った以上、今後もキリキリ働いてもらうぞ。だが、その分、補給と称賛は惜しみなく与えてやる。
この世界は、俺達に優しくなんてしてくれない。
でも、だからこそ、そんな中で俺を選んだ100人だけは――せめて、報いたい。……お前たちは必ず生かす。
いっそ、残ったのがレベッカと、アリス達と、エリザベスとオードリー達だけとかなら、ここまで重い決意する必要もなかったんだがな。……まぁ、自分に都合の良い人間ばかり優遇してきた事への報いみたいなものだ。こちらも、覚悟を決める。
彼女達の俺に対する気持ちが「好き」だろうが「利用」だろうと関係ない。抱いてほしいなら抱いてやる。責任とって結婚して欲しいなら、全部終わった後でしてやる。…………まぁ、俺の一番にはしてやれないが。
宗教家の先生方は美辞麗句で自己犠牲を煽るだけ。自分達は前線になんて絶対来やしない。
ネクロディア以外の神様には何度も「この地獄から救ってくれ」と願ったが、ついぞ救ってくれる事は無かった。
無条件で救ってくれる神様とやらは頼りにならん。俺の中に住んでるクソ邪神の方がまだ良いアドバイスをくれる。
神が職務放棄してるんじゃ、邪神を抱えた俺が、彼らの代わりになるしかないじゃないか。
だから。俺は誰よりも冷酷に、誰よりも優しく、彼女たちのために「666」の数字を背負った悪魔になる。
……どんな汚い手を使ってでも、どんな残虐な手段を用いても、この大隊の100人だけは守る。例え、それが悪魔に落ちる道だろうが。
悪魔にでもならなきゃ、誰も守れない。これがこの世界の現実だ。
* * *
夜が明ける。
バンデット作戦成功で、当面の危機はしのげたが、根本的な解決にはなっていない。やること、出来ることは沢山ある。
「よし。次の戦場に行こうか。……諸君、今日も『生き残る』ぞ」
そう、彼は独り言をぽつりと呟いた。
補足のおまけ Wスカイの生存ランキング
SSS レベッカ 幼馴染にして正室。精神的支柱。彼女が死んだらスカイも後を追う。ヤンデレでは無いが愛は重く、共依存状態。
SS アリス 第二夫人。レベッカが受け止めきれないスカイの心の闇を受け止めてくれる全肯定ヤンデレ。ヤンデレの癖に知性と忍耐力極振り(ついでに推しが唯一選んだ女の子=レベッカにも興味津々)なので、自分からレベッカに手を出す事は絶対無いが、同時にレベッカがスカイと破局する日を何十年でも虎視眈々と狙う。若干バイの気もある為、破局したらレベッカ「も」娶るつもり。
S エリザベス 参謀。恋愛感情は無い(現状)だが、その分冷静な会話が出来る。実務的な右腕。なお、無意識に不遇だった母親と重ねている節があり、一線超えた場合、スカイ「が」ヤンデレ化し、ランクもSSSSランクに跳ね上がる。
ーーここまで絶対防衛圏ーー
A+愛人達(マルタ、フローラ、エレナ、マリー、グレイシー、アレクサンドラ)。浮気相手だが、スカイ君が愛が重すぎる+極度の依存気質+悪い意味で責任感強い子な為、全員幸せにしたいと本気で思ってる。
A 上記以外の1章3話以降まで残った666大隊員。逃げる選択肢もあったのに自分を選んでくれた以上、全力で守る。今までどのランクにいようがここまで残った時点で、ここまで格上げ。
ーーここまで防衛圏ーー
以降物語開幕前
B 従順で有能
C 従順で無能
D 中間層
ーーここまで戦死したら曇るラインーー
E 有能だが反抗的、人格に難、周囲の和を乱す
F 無能で反抗的、人格に難、周囲の和を乱す
ーー死刑判決の壁ーー
Z 懲罰部隊 死んで来い♡
※スカイ君は命令を素直に聞くか、周囲との和を乱さないか、を重視する(あと愛が重い子が好き)ので、性格悪い娘はもちろん、ツンデレやメスガキ属性ほど危ない。逆に(従順な)ヤンデレや信者系ヒロインほど生き残れる、という普通のラノベヒロインレースと逆転現象が起きる。かくして666大隊はファンクラブ化するのである。たちの悪い事にこのアイドル、自分のガチ恋推し活女子を全員幸せにしようとしてる……。
ついでに人格的に問題無くても、スカイくんの事を影で嫌ってたり、ファンクラブのノリについてこれない子達は王都陥落後の4日間で脱走したので、マジでスカイくんのガチ恋勢か、「隊長について行けば生き残れる!」っていう信者勢か、666しか居場所が無い勢しか残ってない……。
***
さーて、次章の第666大隊は〜?
オードリー・フェロンだ。ふと思ったんだが、私達の初登場シーンでさらっと登場した『督戦隊』ってマイナー軍事用語。あれ、何割の人が流さず私達の正体がヤベー部隊だって分かったんだろうな……?
一応解説すると、『督戦隊』っていうのはビビって脱走した味方兵の粛清を行う処刑部隊だ。そう私達が撃つのは『敵兵』と『逃げる味方』の二種類だ。有名なのは『エースコンバットzero』のシュヴァルツェ隊とかだな。私のインスピレーション元、まんまあの部隊だし。ちなみに、赤髪と黒軍服はシュヴァルツェ隊仕様のMiG31のオマージュだ。
……普通のハーレム戦記には出てこなくて当然だな。督戦隊。まぁ、そんな部隊が当然の様に部隊にいる時点で……大隊長殿は『そういう人だった』って事だ。
さて、次回の666大隊は
・このまま盗賊続けちゃう?
・珍しくまとも(?)政府正規軍部隊
・お姉ちゃん登場!?
の3本だ。諸君、次回また見てくれよな〜
………えっ?内戦が起きずに私達が平和に学園生活してるシリーズも同時進行でやる?次回は学園回?知らなかったそんなの




