12、突入
「エヴァンゼリン、もうすぐゴール」
部下にして、このアーマード補給車のクルー。ジェニファー・フェニックスが叫ぶ。彼女の道案内は今回も正確で、きちんと突入予定時刻通りについた。エヴァンゼリンは、そのままブレーキを踏んで、愛車の速度を緩めた。
「はいよ! 皆、舌を噛むなよ!」
物資集積所についたアーマード補給車は、前部に取り付けられたドリルを用いて、集積所のフェンスを無理矢理こじ開けると、内部に侵入する。
すでに、抵抗は散発的になっていた。内部は一言で言うと地獄絵図である。至る所で撃たれた敵兵が倒れて血溜まりを作って、燃え上がる炎がそれを照らしていた。
「流石我らが666大隊の戦友達。仕事が早い」
ダイアナ・ハープーンはそう言うと、火器管制システムを操作して、荷台から機関砲砲塔をせり出させると、まだ抵抗する地点に向けて、機銃掃射を行う。
30㎜機関砲の暴力的な弾幕が、あっという間に残った敵の抵抗を沈黙させていく。コンクリートの壁など、こいつにかかればコーンフレークみたいなものだ。
「このまま、備蓄倉庫まで行く!」
機銃掃射を続けながら、補給車の皮を被った装甲車は、集積所の中を走り続ける。
「もうすぐそこ!」
ジェニファーが、正面の倉庫を指さした。そこはオウル隊第3小隊の事前の偵察で地点を特定した第2倉庫。燃料、弾薬、食料の備蓄がある。さながら宝の山だ。
「……あそこか!」
すでに倉庫のドアは破られていた。火炎放射器の餌食になったのか、黒焦げの警備兵の死体が辺りに転がっている。燃えた燃料の匂いが辺りに充満してひどい有様だ。
「流石ですわ、お嬢様方。結構なお点前ですこと」
倉庫の前に車を止めたエヴァンゼリンは、少し焦げ臭い匂い……それも、ただ物が燃えるのではなく、死体が燃える時の独特の匂いに少し顔をしかめつつ、運転席から降りる。だが、不快感などおくびにも出さずに、サイドワインダー家の執事だった父親譲りの完ぺきな礼をする。
「あなたも、お茶会していく? お茶の代わりにあるのは敵兵の血だけど」
「生憎、私は吸血鬼じゃありませんので……」
倉庫の前で、銃を構えながら待機していたのはイーグル隊第1小隊。オリヴィア・ランサー率いる直属の小隊だったから。いずれも、高位貴族の元令嬢……現戦鬼達である。彼女らの瞳は、輝きつつもどこか戦争の熱狂に染まっている。
オリヴィアに、グレース・トーネード、アンナ・ライトニング、ナタリー・ラストーチカ。いずれも、本来ならこんなところに居て良い者達ではない。だが、従軍経験は良くも悪くも彼女達を変えてしまった。彼女らの銃の構え方からして、もはや「女子供に鉄砲を持たせただけ」などとは口が裂けても言えないだろう。
(本来、シャーロットもここにいる方達と同格くらいの身分だったんだけどね……)
エヴァンゼリンは心の中では思ったが、それについては言わなかった。
「見事な手際です。オリヴィア嬢。さすがの火炎放射器さばき」
「……世辞は良いわ。それより、ここは死守します。早く荷物を積み込んでくださいまし」
「仰せのままに、お嬢様。……全員、片っ端から積み込んでいくよ!」
エヴァンゼリンが号令をかけると、3人の部下達、ジェニファーとダイアナと護衛のアデル・ポラリスは仕事に取り掛かった、エヴァンゼリンもそれに混じって積み込み作業だ。燃料、弾薬、そして食料。かっぱらうものは多い。手早く確実に行わなければ。満載まで積み込み次第、残った物資にブービートラップの設置だ。やることは多い。




