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9、『正室』の苦悩

「隊長、なかなか良い演説をする。即興で考えたにしては、よくアジが効いている」


「……多分、漫画か何かの受け売りですよ。あの人にしては、過激すぎます」


 キャサリン・トマホークとエリザベス・ラプターが、ひそひそと会話を交わしていた。


 キャサリンは率直に感嘆し、エリザベスはどこか引っかかるような面持ちで返す。


 レベッカ・シューティングスターはその様子を少し離れた位置から見つめていた。


 彼女たちとレベッカは、スカイの側近――いや、正確には『側近兼抑え役』と言ったほうがいいかもしれない。レベッカに関しては…………それ以上の関係でもある。


 彼と触れ合った体の奥には未だに暖かさを幻覚する。彼がこの部隊の大隊長ではなく、ただの幼馴染の男の子だったら、どれほど良かっただろうか。


「……レベッカ。どうした?」


 キャサリンの低い声が現実へ引き戻してくる。わずか五日間の付き合いにもかかわらず、何度も窮地を共にした、元クロウ隊の猛者。この五日間は短い。だが、あまりにも濃密だった。


 戦友と呼ぶには、十分すぎるほどの時間だった。


 自分が呆然としていたことに気づき、レベッカは慌てて姿勢を正した。


 遠くでは、オリヴィア・ランサーやアリス・アリゲーターら――コーモラント第1小隊の『ヤンデレ四天王』が、まるでアイドルを讃えるかのようにスカイに熱狂していた。


 特にアリスを見ると……スカイが、自分だけのものではないと痛感させられる光景に、彼女の胸の奥が微かに軋む。


 レベッカは、二人の元へと足を向けた。


「今回は……いや、今回『も』、隊長は前線に出るそうだ。レベッカ、護衛に付くぞ」


「……また、ですか」


 思わずため息がこぼれる。


 スカイは、常に前に立つ。それが隊長としての責務と信じて疑わないのだろう。


 けれど――戦術眼も、戦闘技量も備えた人材が、真っ先に敵陣に突撃することに、彼女は毎回、心が凍るような思いをする。


「……スカイは、自分の立場を理解しているの? 彼が死んだら、この部隊は終わりだよ……スカイの事信じて残った100人なんだから」


「わかってるさ。でも、あの人は『安全地帯に留まる』ことができない。いや――『我慢できない』タイプだ。だからこそ、私たちが支えなきゃな」


 キャサリンはもう、クロウ隊時代から愛用しているS100サブマシンガンを手にしていた。


 その構え、その静かな気配からは、頼もしさと――戦場を潜り抜けた者だけが纏う風格がにじみ出ていた。


 レベッカは、視線を下げる。


 いつの間にか、ぽつりと呟いていた。


「……違うよね……? これは戦意高揚のための方便。そう……演出。演技、だよね……?」


「……レベッカ?」


 エリザベスが、珍しくこちらを心配そうに見つめていた。彼女の眉間には、普段見せない険しさが刻まれていた。


「……あの演説を聞いたら、不安になってしまって……。本気じゃないって信じたい。だって、スカイは冷静で、リーダーとしての自覚もあるし……」


 でも、脳裏をよぎるのは、ここ最近の“変化”だ。


 作戦のたびに深くなる突撃癖。いや、元々、ゲリラ部隊の隊長として、部下と共に真っ先に突撃して行く様な人ではあったが、最近はそれを差し引いても、異様な熱狂を感じる。


 戦場で、まるで喜びすら感じているような目の輝き。その背中を、私は何度も追ってきた――時には、彼の隣で、自分と同年代の敵の少年兵や、命乞いする敵兵に引き金を引きながら。


 そして、今日の演説――


 もし、あれが『本音』だったとしたら? もし、彼が戦争そのものに恋して、呑まれつつあるのだとしたら――


「……殿下も、限界に近いのかもしれません。私たちが……その一線を超えさせてはいけない」


 エリザベスも少し彼の変化に違和感を感じている様だが……。まだ、それが確信には至っていない様だ。


「……でも……でも……」


 レベッカは、視線を彼へと向けた。


 兵たちの歓声と熱狂を背に、スカイは一人、静かにその場を離れようとしていた。


 誰にも見られていないとでも思ったのか、その横顔に一瞬、微かな笑みが浮かんだ。


 それは、勝算を見越した自信の表れか。あるいは――戦場に立つこと自体を楽しむ、戦争狂の微笑か。


「……今の、あの顔……」


 昔、あの顔に似た顔をしていた記憶がある。あれは確か……貧民街時代にガキ大将をやっていた頃、隣町の連中のグループと抗争をする前にしていた顔と同じだった。


「…………昔から、戦争が好きだった?」


 嫌な予感がする。もしかしたら、自分は彼の『本質』について、とんでもない思い違いをしているのではないか。もっとも近くにいたはずなのに……それゆえに彼に理想を求めすぎていた?


 ……それに、彼の母親。


 レベッカとも面識のある。平民出身ながら軍学校に入学して、首席卒業を果たした。ゲリラ戦の天才。


 国王にスカイを妊娠させられた事で、その才能を発揮する事はついぞ無かったが、彼女の教えが呪いとなって彼の心を戦場へ駆り立てているのだとしたら……。


 ……今はただ、作戦に集中するしかない。


 レベッカは、担いでいたファルコン隊時代から使い続けている愛銃――


 あの忌まわしき脱走事件で、かつての戦友を撃ち抜いた、R77アサルトライフルを手に取った。反動は強いが、整備が簡単でどんな環境でも動く凄いやつだ。


 特徴的なバナナマガジンを装填し、深く息を吐く。


 戦場は待ってはくれない。


 そして、あの人は今日も――誰よりも早く、最前線へ向かう。


 ――守る。そして、どこまでもついていく。


 彼を守り、彼に付き従う。……それが幼馴染として、彼の護衛として、そして、正室として彼女が自分に課している役割だった。

補足 大隊の主な武器

R77アサルトライフル=AK47(大隊員の主兵装)。33式(=56式)、RB777(=ブラックバニア製ライセンス生産品 粗悪)が混在。 少女兵には反動が強いので主にセミオートで撃つ事が多い。

s100サブマシンガン=MP5(キャサリンおよび、ウッドペッカー隊の近接戦、軽装備時の主兵装)

MG778重機関銃=MG3(ウッドペッカー隊の主兵装。3人で操作。重装備の為侵攻作戦ではs100に持ち替える )

RL65ロケットランチャー=RPG7(イーグル第二小隊が主に使用)

type55=M21(ヴァルチャー隊の主装備)

type46=M16(隊では唯一テレサがカスタム仕様を愛用。理由はアサルトライフルと狙撃銃の機能両方が高い次元でまとまってるから、というゴルゴみてぇな理由)

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