8、よろしい、ならば戦争だ
作戦開始前、廃村にて。
「殿下より訓示です。殿下、お願いします」
エリザベスの声を受けて、スカイが一歩前へ出た。
風は静まり返り、少女兵達の視線が彼に集まる。
スカイは一拍置き、満場を見渡して――
「諸君――俺は戦争が好きだ。
諸君――俺は戦争が好きだ。
諸君――俺は……戦争が、大好きだ。」
声は静かに始まり、徐々に熱を帯びていく。
「殲滅戦が好きだ
電撃戦が好きだ
打撃戦が好きだ
防衛戦が好きだ
包囲戦が好きだ
突破戦が好きだ
退却戦が好きだ
掃討戦が好きだ
撤退戦が好きだ
平原で 街道で
塹壕で 草原で
凍土で 砂漠で
海上で 空中で
泥中で 湿原で
この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ」
少女兵士たちは息を呑む。もはやこれが訓示なのか、祈りなのかすら分からない。
「戦列をならべたグース隊の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ
空中高く放り上げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどる
イーグル隊第二小隊の操るRPG-7が敵戦車を撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵をMGでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった
銃口先をそろえたウッドペッカー隊員の伏兵隊が敵の隊列を蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える」
スカイの口調は既に狂気と紙一重の熱狂に染まっていた。
「敗北主義の逃亡兵達をウッドペッカー第2小隊の面々が撃ち抜いていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ捕虜達が俺の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるMG3にばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ
哀れな少年兵が雑多な小火器で健気にも立ち向かってきたのを、AK47アサルトライフルの1943年式7.62mm弾が、ヘルメットごと頭蓋を木っ端みじんに打ち砕いた時など、絶頂すら覚える」
一部の兵士が思わず拳を握る。熱に浮かされて、頭ではなく魂で聞いている。
「反政府軍の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に守るはずだった大隊が蹂躙され学徒兵が殺されていく様は、とてもとても悲しいものだ
反政府軍の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ
攻撃ヘリに追い回され、クソ邪神から「早く吸収しちゃいなよ〜」と煽りちらされるのは屈辱の極みだ
諸君 俺は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる
諸君 俺に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?」
スカイの叫びに、数人が応えた。オウル隊第一小隊。中隊長マリー・ホーネットが直接率いる小隊だ。最初は小さく、やがて波のように広がる。
『クリーク! クリーク! クリーク!』
オウル隊第1小隊の、普段、いかにも大人しい優等生といった感じの、マリー・ホーネット、グレイシー・フロッガー、アレクサンドラ・サンダーボルトの三人から熱狂が始まる。
『クリーク! クリーク! クリーク!』(オウル第1小隊に続くノリの良い大隊員達)
「よろしい ならばクリークだ」
「我々は満身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ
だが、王都を奪われ、5日もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!
大戦争を!!
一心不乱の大戦争を!!
我らはわずかに一個大隊 百人に満たぬ敗残兵に過ぎない
だが諸君は一騎当千、否、一騎当万の古強者だと俺は信仰している
ならば我らは諸君と俺で総力100万と1人の軍集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう
連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる
天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる
百人の少女達で集積所を燃やし尽くしてやる
そうだ あれが待ちに望んだ食料だ
俺は諸君らを約束通り連れて帰ったぞ あの懐かしの戦場へ あの懐かしの戦争へ」
その瞬間、大隊が爆発したような歓声をあげた。
『殿下! 殿下! 隊長! 隊長殿! 大隊指揮官殿!!』
『殿下! 殿下! 隊長! 隊長殿! 大隊指揮官殿!!』
「そして籠の中の鳥達は、ついに森を越え丘へと登る」
ここで、スカイは必殺技を放つ。
彼には『普通のハーレム主人公』の様なチート必殺技は無い。だが、それにも劣らぬ武器がある。
「第666大隊各員に伝達 大隊長命令である
さぁ みんな〜
地獄を創るよぉ〜♡♡♡」
「ウオオオぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そう、スカイの最大の武器、圧倒的顔面偏差値。公式で作中一番の美少女(♂)顔。
隊の中でも一番の美貌を持つスカイの勝ち気な笑み+キラキラ目のコンボの前にグラッと来ない隊員は、彼のファンクラブと化した今の第666大隊には存在しない。
少女達はたちまちのうちに歓喜の声を上げ、士気は最高潮になった。
その興奮の中、ドン引きしている者が約三名。一人はエリザベス。一人はレベッカ。そして、もう一人は……。
「……言いたかったことって、これ?! 某吸血鬼漫画のパロディで1話使ったの?!」
ネクロディアが脳内で絶叫した。
普段はツッコミ役のスカイがこのテンションの演説をやるとは、彼女にとっても想定外だった。
スカイは笑った。
「いや〜、一回はやってみたかったんだよね、これ。ハッハッハッ……まあ、666大隊ってそもそも『あの大隊』がモデルの一つだし。リスペクトってことでさ」
そして――ふと、口元が静かにゆがむ。
「……ま、いくらかは本音も混じってるがね」




