7、邪神の囁き
(……さて、どう切り出すべきか。全体の士気を下げず、真実は隠さず、だが希望を捨てない言葉を……)
スカイ・キャリアベースがオリヴィアを追い出し、ひとり思考の深淵に沈みながら、演説文の草案を組み立てていたその時。
脳内に、うっとおしいほど艶っぽい声が割り込んできた。
「ねぇスカイくぅん? 前々から思ってたけど――君、ほんっっっっと顔だけは良いよねぇ」
「……今度はお前か。ネクロディア」
「惜しむらくは、君が男じゃなければなぁ。生贄として、ドストライクだったのに。うん、今でも結構アリだけど?」
「そりゃどうも。生贄にされずに済んで何よりだよ、マジで」
「ほらほら、最近ちょっと天狗になってない? 戦果あげてチヤホヤされて、女の子たちにも囲まれて。ふふ、そりゃあ『この環境』にも染まっちゃうよねぇ。わかるぅわかるぅ~」
「…………お前、ほんと性格悪いな」
「ねぇ、思わない? いっそブサイクだったら、周囲もここまで依存しなかったかもしれないのに。なのに作者がさぁ、よりによって『逃げ若』ハマって以来男の娘主人公良いよね……ってなってるからって、こんな美少女じみた外見にしちゃうから……結果、みんな君に精神的に寄りかかっちゃってる。ちょっとヤバいよ? この状況、健全じゃないって」
「うっせぇや。こちとら主人公なんだよ。作者の歪んだ愛情を全身で浴びてんだよ」
スカイは、脳内の邪神に悪態をつきつつ、ペンを手の中で回した。
いい感じのフレーズが思いつかない。政治家というのは、選挙の度にこれをやっているのか……。貧乏人には貧乏人の、金持ちには金持ちの大変さがあるんだなぁ。
「…………肝心のネタが思いつかねぇや。やる気の出る魔法の言葉とか無いかな」
「いっそ、今まで言いたくても言えなかったことをぶちまけてみたら? どうせ、負けたら全部終わりなんでしょ? 『全員好きだ! 全員俺の子供を産んでくれー!』とか」
「茶化すな……っていうか、絶対言わねぇよそれは」
「ふふん、でも言えなかったこと、ってのは意外と、効くよ? 誰かの心を救ったり、誰かの心を壊したりするけど」
「……言いたくても言えなかったこと、ね」
「おっ? なにか思いついた顔。よろしい、ではそのひらめき代として、お助け料に生贄一人。レベッカちゃんとか、今なら特価で――」
「冗談でも二度と言うな。あいつにだけは絶対に手を出させてたまるもんか。…………前から気になってたけどさ、お前ってなんでそんなに『ギブアンドテイク』にこだわんの?」
「ん? 人の思想信条にケチつけるわけ?」
「別にケチじゃない。ただ、なんとなく……神様とか救世主って、もっと『無償の慈悲』とか『人々を導く』みたいな存在だと思ってたんだよ。今のところ底意地悪い悪魔って感じしかしねぇけど」
「………………」
「……なんだよ、その間」
「強いて言えば……ただで救ってやっても、人はやがてそれを当たり前と思うようになって、無限に調子に乗るからかな……」
「……お前、昔、何かあったのか?」
「あとは、君たちみたいな若い子が楽しそうにしてると腹立つから、絶望させてやりたい」
「なんだよ……それ……急に心の闇カミングアウトするなよ」
「疑問符投げて来たのはスカイ君だろぉ? 神様にもいろいろあるんだよ。……そのへんは、作者にやる気があれば、そのうち掘り下げるかもね。やる気が起きなきゃ掘り下げないかも」
「メタすぎるだろ」
「私、邪神だから」




