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6、幼馴染

「ねーえ、エヴァンゼリーン〜。構って〜」


「やめなさい、シャーロット。暑苦しい。くっつくな。あと私はノーマルだって何度言わせるの」


「いけず〜」


 廃村の一角。瓦礫を押しのけて整備された空き地に、一台の異形の車両が鎮座している。


 それこそ人呼んでアーマード補給車。

 

 第666大隊が誇る、補給の要にして、突撃の象徴。

 

 元は政府軍の採用したグラフグラード製の補給トラックだったが、コーモラント第1小隊が手を加え、装甲車両顔負けの武骨な怪物と化していた。


 鋼鉄の外装、追加された機銃とドリル。荷台にはシェルツェンまで備え、見た目はもはや怪物である。


 今、そのアーマード補給車を囲むのは、出撃を目前に控えた、実際に乗り込むスワロー隊第2小隊と、整備を担当するコーモラント第1小隊の面々。最終点検の真っ最中だった。燃料は往復でギリギリ。この一台に大隊全員の命がかかっている。


 そして、その車両の運転手でもあり、小隊を率いるのが――

 

 エヴァンゼリン・スティンガー。18歳。スワロー隊2番隊の小隊長である。


「生き別れの幼馴染なんだから、もうちょっと優しくしてくれても良いじゃない〜」


「シャーロットは目がいやらしいの!」


 そう口を尖らせるエヴァンゼリンと、にやにや笑いながら抱きついてくるシャーロット・サイドワインダー。2人は、王都時代からの幼馴染だった。


 貴族令嬢だったシャーロットの家に仕えていたのが、執事だったスティンガー家。同い年ということもあり、幼少期は姉妹のように育った2人だったが――


 シャーロットの家が政争に巻き込まれ、当主だった父が処刑。一家は没落。エヴァンゼリンとは生き別れとなり、そのまま長く音信不通だった。


 時を経て、軍学校を経由し、補給部門に配属されたシャーロットと、徴兵され前線送りとなったエヴァンゼリン。


 まさか、この地獄の大隊――第666特別大隊で再会するとは、どちらも思っていなかった。


「ちょっと勘弁してよ。自分の棺桶くらい、最後に綺麗にさせてよ」


 エヴァンゼリンは、冗談めかしながらも、手を振り払い、車体を布で丁寧に拭っていた。


「……棺桶?」


「そう。棺桶。今回は、マジで帰ってこられないかもしれないし」


 そう言って、彼女はアーマード補給車の側面を一度、ぽんと叩いた。


 この頑丈な車体も、敵の対戦車兵器にかかればひとたまりもない。ましてや、今回は敵地深くへ突入する奇襲作戦だ。


「……やだ。絶対に帰ってきなさい。私の百合ハーレムに、貴女を入れるのが夢なんだから」


 軽口だが、その声には確実に「帰ってこい」という思いが混じっている。


「ノーマルって言ってるでしょうが! 直属の部下の女の子たち三人から『お姉様』って呼ばれて、それでも足りないの!?」


「ふふふ……新たに迎え入れるのもアリだと思って」


「はーなーせー!」


「嫌よ。棺桶掃除なんてさせないわ。貴女は必ず帰ってくるのだから」


 シャーロットの腕が、強く、しかしどこか震えるように、エヴァンゼリンの肩を抱きしめる。


 ふざけた調子の裏にあるのは、本気の想い。互いに、それを分かっているからこそ、拒絶もできない。


 シャーロットはエヴァンゼリンの耳元で囁く。


「……帰ったら、ちゃんと話してあげる。目がいやらしい理由、3つくらいあるから」


 エヴァンゼリンはそのまま振り返る事もせず、シャーロットの頬を軽くつねった。


「楽しみにしてるわ、お姉様!!」


「絶対楽しみにしてないでしょ!」


 アーマード補給車のシェルツェンはピカピカに磨かれていた。

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