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2. 未育成

 ――生徒会室の夕暮れは、今日も平和である。


 スカイのマリル◯が、断末魔のような鳴き声とともに画面の外へ吹っ飛んだ。


 マリル◯は たおれた!


「……十一連敗……?」


 レベッカが思わず額を押さえる。


 横でアリスがケタケタ笑いながらスカイの肩を小突いた。


「ねぇスカイ、今日だけで一生分負けてない?」


「うるさいわ! 奇襲禁止縛りが悪いんだろ!」


「でも今回は普通に殴り合って負けたよね?」


 レベッカの静かな追撃。スカイはガクンとうなだれた。


「……セラフィーナ先輩、強すぎません?」


「いやぁ? ただ正々堂々戦っただけだよ?」


 勝者のセラフィーナは、勝利画面を眺めながら鼻歌まじり。


 画面には彼女の草タイプのエースが誇らしげに立っている。


「……先輩、ハンディキャップください」


 とうとうスカイが折れた。


 エリザベスが「あっ」と声を漏らし、眼鏡を押し上げる。


「言っちゃった……」


「仕方ないねぇ。で、何がいいの? 特定の技禁止とか? すばやさ種族値縛る?」


 セラフィーナは余裕そのものだ。


 しかしスカイは、そこで一呼吸置く。まるで軍議で決定的な命令を口にする前の、あの緊張感。


「……こうしましょう」


「うむ、申してみよスカイ隊長(笑)」


 スカイは真顔で宣言した。


「その辺の序盤草むらで捕まえられるポケモ◯縛りで!」


「性格厳選禁止! 努力値振り禁止!」


「レベル上げも禁止! 以上です!」


「ファッ?!」


 セラフィーナの声が裏返った。レベッカは固まり、アリスは爆笑し、エリザベスは呆然として言った。


「……プライド捨てたってレベルじゃない……」


「お前は何を言ってるんだ……?」


「いや、勝てばよかろうなのだー!」


 スカイは胸を張った。


 どこか誇らしげに。いや誇らしげでいいのだろうかこれは。いや、よくない(反語)。


「……そんな無育成野生縛りで勝てるわけないじゃん……」


「お願いします先輩。可愛い後輩のお願いなんですよ……?」


 スカイは上目遣いで見上げた。ぽふっと頬を赤らめるセラフィーナ。


「ぐ……そういう顔やめろ……ほんま可愛いんだよ君……! 分かった分かった! やるよ!」


「やった!」


「適当に揃えてくるからちょっと待って」


 周囲の女子は「先輩優しいなあ……」としみじみつぶやく。


 こうして、凄惨な条件の殴り合いが始まった。


 セラフィーナの手持ちが開かれる。


 コイキン◯ Lv.5

 コラッ◯ Lv.6

 オ◯チLv.5


「いやもう戦う前から負けてるじゃん!?」


 レベッカのツッコミが飛ぶ中、スカイは操作ボタンを押す。


「いっけええええマリル◯! じゃれつく!」


 画面の中で青い生物が跳ね、回転し、可愛らしい動作とともにコイ◯ングに体当たりした。


 コイキン◯はたおれた!


 その勢いで、青いウサギは残りの2体も無慈悲に殴り倒した。


「勝ったーーーーーー!!」


 スカイが椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。生徒会室の窓がガタガタ揺れる。


「勝てるわけないだろこんなのwww!」


 セラフィーナがテーブルに突っ伏しながら笑い転げる。


「いや、そりゃその辺から連れてきた少年兵に精鋭部隊ぶつけるようなもんだよ……」


「しかも努力値ゼロなの、本当に勤労奉仕の学徒兵レベル……」


 アリスとエリザベスの冷静な分析が入る。


「で、スカイはそれでいいの……?」


 レベッカが恐る恐る聞く。


 スカイは胸を張って親指を立てた。


「勝てばよかろうなのだーーー!!!」


 夕焼けの生徒会室に、馬鹿みたいに明るい声が響いた。


 少女たちは呆れ、笑い、肩を叩き合い、


 そしてスカイだけが、戦場の英雄のように勝利宣言していた。


 ここには血も涙もない。


 失敗しても死なず、勝てばただ笑える。


 そんなどこかの内戦している世界線に比べ、残酷なほど優しい世界線の放課後だった。

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