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15、砂塵の中で

 反政府軍視点

 

 新編第13旅団の旅団長であるセラフィーナ・ラグナロックは頭を抱えていた。ブラッディ・ダラで失った左手の代わりに移植された鋼鉄製の義手をギチギチと鳴らす。

 

 半年前に機械の腕になってから出来た、イライラした時の癖だった。

 

「案の定だ。やっぱり燃料が途中で足りなくなった」

 

 副官であるエルザ・バーディゴに恨めしげに愚痴る。

 

 第13旅団は乗っていた兵員輸送トラックがガス欠を起こし、砂漠に通った道を徒歩で行軍させられていた。脇には燃料切れを起こして放棄されたトラックや戦車が列をなしている。

 

「まさか、こんな砂漠を歩かされるとは思いませんでした……」

 

 エルザは泣き言こそ言わないが、顔には苦悶が混じっている。

 

「現場を知らないお花畑の理想主義者の上層部の政治屋共が、こんな作戦立てるから……しかし、軍学校出身者はともかく強制動員された学徒兵には、ちときついな」

 

 第13旅団の内訳と言えば、8割がその辺の学校から拉致同然に連れてきた少年少女兵達。残りの2割は軍学校を繰り上げで卒業させられた新兵。部隊の平均年齢は15、6歳という現在の反政府軍の実態を象徴する部隊である。

 

 慣れない砂漠行軍に、歩みは亀の様に遅かった。

 

 頭上からは直射日光が容赦なく突き刺してくる。水分補給は小まめに取っているが、油断したらすぐに脱水症状だ。

 

 汗をかいてもすぐ乾いてしまうから不快感はそこまででもないのが、せめてもの救いだった。

 

「言っただろ? これが反政府軍の実態さ、エルザ。悪い王族貴族をやっつける正義の反乱軍なんて理想、まだ持ってるかい?」

 

「…………1時間前に蒸発しました」

 

「だろうな。素直な奴は嫌いじゃないよ」

 

 率直に言った副官に、セラフィーナは苦笑した。無理もない。本来の計画では、13旅団は今ごろ戦闘を開始しているはずだったのだ。

 

 だが今やカークに行くだけでも、どれだけ消耗するかは未知数である。

 

「ああああ! もう嫌だ! こんな地獄!!」

 

 そんな中、部隊から叫び声が上がった。見ると一人の少年兵が錯乱状態で、隊列から離れ突然走り出した。歳はまだ15歳ほど。彼は今まで来た道を引き返そうとする。

 

「貴様! 止まれ! 敵前逃亡は銃殺だ!」

 

 セラフィーナは叫んで警告するが、彼は止まる気配無く走り続ける。部隊の中からは彼に続いて逃げ出そうとする兵士の姿も見えた。

 

「ちっ」

 

 セラフィーナは舌打ちすると、アサルトライフルを構えて発砲するが、利き腕が義手ではまともに狙いなどつけられず、弾は虚しく脱走者を避けていく。

 

 その時である、隊列から一人の少女兵が抜け出し、即座に脱走兵に向けて銃を構えると、躊躇無く引き金を引いた。

 

 彼女の放った弾丸は見事に脱走兵の心臓に吸い込まれた。彼はそのまま倒れ、ぴくりとも動かなくなった。

 

「……脱走兵は銃殺刑だ。全員、分かったな?」

 

 セラフィーナの言葉に、他の少年少女兵達は戦慄したのか、黙って隊列を整えた。

 

「良い腕だ。あいつを見逃したら部隊全体が崩れてた。……お前、名は?」

 

 セラフィーナは脱走兵を仕留めた少女兵に声をかける。少女兵は歳は16くらい。メガネをかけたいかにも文学少女といった雰囲気で、こんな狙撃を行うのはギャップを感じる。

 

「カーリー。カーリー・ライラックです! 旅団長」

 

「カーリー・ライラックか。覚えておこう。今度、貴官にはアサルトライフルではなく、正式な狙撃銃を支給しよう。……ま、補給が届けば、だがね」

 

「ありがとうございます!」

 

 そこまで言ってセラフィーナは「無責任な事を言ったかな」と少し後悔した。まともに補給がくる保証も無いというのに。

 

「進軍を再開する」

 

「進軍再開ー!」

 

 エルザの声を合図に第13旅団は再び歩み始めた。

 

 目的地のカークまでは、まだ遠かった。


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