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13、九☆股

 朝──


 川岸の夜明けの空気は冷たかったのに、テントの中だけやけに生温かった。

 

 レベッカは膝を抱えて座り込み、呆然とつぶやく。

 

「……ノリと勢いで四人でやってしまった。何とは言わないけど、弟子と愛人と旦那でやってしまった……」

 

 スカイも無言。妙に清々しい顔をしている。

 

 アリスだけは平常運転で、先ほどからレベッカに抱きついている。

 

「ほら、クリスティーナだって言ってるじゃん。大隊は家族。私達は竿姉妹☆」

 

「黙れよこの面白イリエワニ」


「イリエワニ?!」

 

 そんな二人のやり取りをしり目に、ナナはテント隅で毛布にくるまり、瞳から生気が抜けていた。

 

「もう……もうお嫁に行けない……いや婚約者もう死んでたか」

 

 軽く自己ツッコミしてる辺り、精神的には一周回って落ち着いてきているのかもしれない。

 

 スカイがゆっくり立ち上がり、ナナの前に跪く。そして――

 

「ナナ。成り行きとはいえこうなった以上、お前のことは俺が守る。必ず」

 

「良いんです。隊長の重りになりたくないですから……今夜のことは四人だけのワンナイトの秘密ってことで……」

 

 スカイの青い瞳がすっと細くなる。

 

「……逃がすとでも思ってるのか?」

 

「えっ」

 

 空気が変わる。


 あの戦場で部下を庇うときの優しさではない。


 もっと深い。もっと濃い執着がそこにあった。

 

「お前はもう俺の女だ。責任を取るとはそういうことだ。俺から離れる道はない。……安心しろ、幸福にする。自由はないが」

 

「えっえっえっ!?(笑って誤魔化せない状況になってきた)」

 

 レベッカはため息。

 

「また始まった。スカイの悪い癖」

 

 アリスがにっこり。

 

「おめでとう、ナナ。今ので正式に保護対象だね。…………つまり、将来の選択肢はスカイの嫁以外に無くなったよ」

 

 アリスの発言で「あ、なんかヤな予感」と思ったナナ。その時、スカイが彼女の肩にそっと触れた。

 

 その手は優しい。だが──つかんだ瞬間、逃げ道を封じる鉄の扉にもなる手。

 

「ナナ。安心しろ。俺はお前を捨てない。戦争が終わろうと、世界が変わろうと、そばに置く」

 

「えっ、それって」

 

 青い瞳が、まるで深海に沈めるような静けさと、檻に閉じ込めるような熱を帯びていた。

 

「……お前は今日から俺の所有物だからな」

 

「いや言葉!!言葉の選び方!!!」

 

 ナナ、慌てて毛布で自分をぐるぐる巻きにする。

 

 レベッカは頭抱えた。

 

「出たよ。抱いた相手に必ず『所有物宣言』するやつ。メンタル死ぬからやめてよほんと」

 

 アリスは楽しそうに笑う。

 

「まー、あそこまで本音出てるスカイは久しぶりじゃない?むしろ安心しな、ナナ。スカイは女癖最悪のクズで浮気はするけど、捨てる事はしないから。逆に絶対逃がしてくれないけど」

 

「それ慰めになってないです!!」

 

 スカイはゆっくり立ち上がり、テントの幕を開けかけ──だが、ふっと思い出したように戻った。

 

「ナナ」

 

「ひゃいっ?!」

 

 そして、突然 額にキス。

 

「生き延びて、ちゃんと俺の妻になるまで、死ぬな」

 

「…………っ!!」

 

 ナナは思った。「あ、これ軽い気持ちでとんでもない獣を起こしてしまったかもしれない」と。

 

 その時、スカイの中のネクロディアがニヤリと笑った気配がする。

 

「おー、ついに『九人目確定』! 九股かけてる主人公とか割と前代未聞じゃない」

 

 スカイは脳内の怨霊幼女の声を無視し、ナナを手をがっちりと掴んだ。美少年にあらざる握力だった。

 

「戦争終わる保証がない。だから今言う。……俺を信じろ。俺に依存しろ。それが一番お前を生かす方法だ」

 

 その声は怖いほど落ち着いていた。


 戦術を語るときと同じ、勝算を持った声。だが、目にハイライトは無い。

 

「……俺に抱かれた時点で、お前に自由はない。でも、生きる保障はある。俺の女ってのは、そういう意味だ」

 

「私もうどうしたらいいのこれええええ?!」

 

 スカイ、ナナの頬に手を添えて。

 

「答えは一つだ。覚悟しろ。……大丈夫。俺は抱いた女は幸せにする代わりに、一生縛り付ける男だからな」

 

「いやこの部隊、一番のヤンデレは隊長じゃないですかあああ!?」


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