12、夜間強襲
夜の野営地は、妙に静かだった。
数日後には敵の本隊が到着する可能性がある。
静かなのではなく――嵐の前の静けさだった。
スカイは野営地に張られたテントの中で、今日の偵察で各部隊が見つけた敵軍が補給基地にしそうなエリアや、ブービートラップが設置出来そうな場所の一覧を見ながらぽつりと呟いた。
「……戦闘前って、なんかムラムラするよな」
ランプの光が青い瞳に反射する。
妙に真面目な顔で続ける。
「多分、生存本能と生殖本能が同時に刺激されるんだと思う。人間って、絶滅しかけるとやたら子孫残そうとするじゃん。だから――久しぶりに下着検査プレイしようぜ下着検査プレイ。俺の好みに合ってたら『接収』&返却不可だ!!」
唐突に変態100%に着地した。
人間とはかくも不可解である。
テントの中にいるは――レベッカとアリス。
二人とも、自ら夜這いに来たとはいえ見事に呆れ顔だった。
「……しょっぱなからこれだよ」
「ま、むしろいつものスカイが戻ってきたって感じかな」
アリスは楽しげに笑いながら、レベッカの肘をこっそりつついた。
レベッカは顔を赤くしながら、視線だけそらす。珍しく照れていた。
「王都が落ちて、こつこつと下着検査違反品という名目で集めていた、俺の秘蔵の嫁達の下着コレクションも、俺がお守り代わりに肌身離さず持っていたレベッカのファーストブラ以外、全部失われたし……。多分駐屯地が燃え落ちた時に一緒に丸焦げさ。100枚以上あったんだぞ」
「あー……あれまだあったんだ。スカイに違反品だ! とか難癖つけられて強奪されたやつ。……第一、なんなのこの謎プレイ」
「下着検査。俺の歪んだ支配欲とサド心を満たせるぞ」
「たまに常識改変もののエロ漫画とかである展開ではあるよ。下着検査。そのうえ666版の下着検査は本人の合意の上で接収。窃盗じゃない。むしろ双方の幸福度上がってる。これは合法。文化。福祉」
「せやで。俺は一応合意の上だぜ」
「スカイと関係持ってるのが八人……一人あたり12枚以上はスカイにパンツやブラを奪われてる計算なの頭おかしくなるわ」
レベッカはジト目でスカイをにらみつつ言う。
「だいたい俺はな、この『小説化になろう』に投稿されているハーレムものにあらざるクソ環境に生まれて、一年以上戦い続けて、なんだかんだ100人の女の子達を守り抜いた。それがなぜ捕まった下着泥棒が盗品全部押収されるみたいな扱いを受けねばならぬのだ」
死んだ瞳でメタ発言を交えながら言うスカイ。その目からは光が失われている。
「下着泥棒の押収品って最後は全部焼却処分されるらしいね……哀れ」
「どぉぉぉして俺のコレクションが犯罪者の押収品と同じ扱い受けなきゃならないんだよぉぉぉ?!」
悔しがるスカイにレベッカは何も言えなかった。なんて言葉をかけるべきか分からなかったのだ。そりゃ最愛の恋人が、変態趣味をこれでもかとオープンにしていたら困る。
「ま、英雄程、人に言えない性癖持ってるのが世の常だし……ナポレオンなんかも匂いフェチだったとか」
「だろう? アリスは良く分かってるじゃないか。というわけでそのままスカートをたくし上げてだな……」
そんな平和な(?)夜。
その空気を震わせる、大きな足音。
「――隊長!」
現れたのは、ナナ・デルタダート。
レベッカの弟子の少女。
緊張と決意が混ざった顔で、スカイの前に立つ。
そして、気合の入った声で言った。
「抱いてください!」
……
…………
……………………。
スカイ「えっ」
レベッカ「えっ」
ナナ「えっ」
ナナは、まさに脇にスカイの正室であり、自身の師匠であるレベッカがいた事に今更気づき、顔を戦慄させた。
ランプの炎が、かすかに揺れた。
空気が凍った。
もはや下着検査どころではない。
ナナはパニックになりかけながら、それでも勇気を振り絞って続けた。
「せ、戦闘前で、死ぬかもしれないから……それに、あの夜の事、忘れたくて……」
完全にガチ夜這い案件だった。
三人の間に走る空気――修羅場未満、地雷原寸前、いやむしろ核地帯。
アリスは無言で3人を見つめ――
そして、何事もなかったかのように言った。
「――というわけで、今日のパンツの検査、アリスちゃんからね? 見て驚け、殿下。今日のはエロいやつだよ。欲しい?」
「いや無理だろこの空気で変態プレイに戻るの!?」
スカイ、全力のツッコミ。
ナナはもうどうしたらいいか分からず、固まったまま震えていた。
アリスだけは涼しい顔で、スカートの中身をチラ見せしながら言った。
「戦争は女を女にするし、男を男にする。そして、変態を――より強い変態にする」
「深いようで何も深くない!」
レベッカの全力ツッコミが野営地に響いた。
スカイはというと――
頭を抱えながら、乾いた笑みを浮かべていた。
「……戦争ってのは、人の本性が出るもんだなぁ」
そしてそんなアホなやりとりの向こうで、ナナはまだ震えている。
赤い顔で、泣きそうで――それでも逃げはしなかった。
夜は、まだ長い。




