4、要塞都市
ランタンの灯りが揺れる作戦室に、緊張感が漂っていた。
反政府軍三万に対し、こちらの兵力は一万。数で言えば完全に劣勢。だが、撤退はもう選べない。カークは政府軍最後の拠点であり、王都陥落後の象徴でもある。ここを失えば、事実上の終戦。ゲームオーバーを意味する。
そんな中、クラリーチェがふと視線を向けた。
その瞳の先にいるのは、先日合流してきた弟にして、666特別大隊の指揮官、――スカイ・キャリアベース。
「スカイ、お前ならこの戦場、どうする?」
そう、問われた彼は一度だけ目を伏せ、思案の色を浮かべた後、静かに立ち上がった。
迷いはない。
テーブルに広げられた地図を指差しながら、スカイは言葉を発した。
「ははっ、愚考ながら……カークは三方を山に囲まれた天然の要害です。残った時間で防備を固め、都市自体を要塞化するのです。カークに立てこもり、敵が息切れするまで耐え忍ぶべきです」
「ろ、籠城戦ですと!? 援軍なき籠城戦など正気ですか!?」
真っ先に悲鳴じみた声を上げたのは、チャンプだった。
豪奢な軍服に身を包んだその姿は立派だが、中身は見事なまでのヘタレ王族。まあ、今に始まった事ではないが。
彼は一瞥をくれて、ため息を飲み込んだ。
「無論、ただ籠もるわけではありません。同時に少数精鋭のゲリラ部隊で敵の補給隊を襲撃します。向こうはアウェー。補給が切れれば、戦線の維持は困難です」
「……し、しかし籠城戦となれば……食料は? 水は?……わ、私は病弱でしてな……」
チャンプの声は尻すぼみになりながら、周囲の貴族や政治家たちを巻き込んで波紋を広げていく。
さっきまで成り行きを見守っていた貴族達は、にわかにソワソワと落ち着きなくなっていくのが分かった。
誰もが、籠城戦の現実――「飢え」「病」「孤立」の三拍子を本能的に恐れていた。
「……お歴々もここまで来たらいい加減、覚悟を決めてください!」
ついに堪忍袋の緒が切れたスカイは、声を荒げた。
思わず場の空気がぴたりと止まる。
だが次の瞬間、会議室の扉の近くの席から響いたのは、別の声だった。
「籠城には私も反対だ」
そう言って前へ出たのは、ジョオン・ハインド。クラリーチェの部下でもあり、スカイの事を毛嫌いしてる女性士官だった。(彼女がハジケた世界線のP世界線の事は一度忘れて欲しい)
エレナのはとこだけあり、顔は美人である。だが彼女は、敵意を込めた目でスカイを見る。
「……理由は?」
「お前が気に入らん!」
「いや、今は個人的な好き嫌いを言ってる場合じゃないでしょ!」
「……まぁ、それだけじゃないよ。援軍なき籠城戦というのは、いずれ限界がくる。食料備蓄にしたって限度がある。天照の鳥取城や三木城のような事になるのはごめんだね。それに、補給が弱点だというのは敵も分かってる。間違いなく守ってくるよ。簡単には襲わせてくれまい」
冷静な視点。確かに一理ある。
「むむむ……」
スカイは悔しげに唇を噛む。
自然、視線が、クラリーチェに向く。
決断を求められているのは、今、この場において最上位の指揮権を持つ彼女だった。
「……クラリーチェ様、ご決断は?」
参謀・シオンの言葉に、クラリーチェは静かに頷いた。
「……折衷案で行こう。カーク近辺を流れるジフ川。ここを第一防衛線とする」
地図上の川筋を指し示しながら、彼女の声は明確に響いた。
「ここは川幅もあり、深さもある。橋を落とせば天然の水堀になる。河川ごしに睨み合い、敵の勢いを殺しつつ、必要に応じて小規模な奇襲も仕掛けていく。敵の補給を揺さぶる部隊も別途展開。……長期戦で敵の士気が削れたところを見計らって、逆襲を仕掛ける。これが現実的な線だろう。どうだろうか?」
静寂。だが、それは納得の証だった。
一同の中に、微かな安堵と、戦う意志が戻ってくる。
「……ははっ!」
まず声を上げたのはジョオン。それから誰ともなく肯定の声が響き、続けて数人がそれに続いた。
その時、クラリーチェはふと視線を泳がせ、呟いた。
「……それに、一応、『秘密兵器』もある。あまり使いたくはないがな」
「……?」
スカイは問いかけそうになったが、クラリーチェはそれ以上語らなかった。
重たい静寂が再び会議室に降りる。
その沈黙の裏にある何かを、彼はなんとなく嫌な感じを感じ取っていた。




