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1、三対一

 ここはW世界線。  


 血で血を洗う内戦が「起こってしまった」絶望の世界線。

 

 ブラックバニア政府軍の最後の拠点、カーク市。そこに、今にも迫ろうとしているのは――反政府軍3万の大軍。それに対する防衛側の兵力は、約1万。

 

 数の上では、まさに三対一。  

 

 そんな絶望的な情勢のなか、カーク郊外の駐屯地の一室では、密やかな作戦会議が開かれていた。

 

 既に外には夜の帳が下りている。虫の声が寂しさを、より際立たせる。

 

 テーブルを囲むのは、スカイ・キャリアベースとエリザベス・ラプター、そして第666特別大隊の八人の中隊長たち。  


 少女たちは誰一人として笑っていなかった。

 

「エリザベス。敵軍がカークに到着するまで、あとどれくらいかかる?」

 

 スカイの問いに、参謀の少女が眼鏡を押し上げる。

 

「約四日間……ですが、完全機械化兵団が脱落者を置いて強行軍を仕掛けた場合、最短で二日。下手をすれば、明後日にはここに着きます」

 

「二日間、ね……」  

 

 オリヴィアが渋い顔で呟いた。最前線で火炎放射器を振るう彼女の顔に、戦慄が走っている。

 

「私達が一週間かけて逃げながらここにたどり着いた事を考えると……泣けてくるわね」

 

 メアリーの言うぬるい冗談すら、重苦しい空気を拭えない。ざわ……と、誰かが息を呑む音がした。

 

「……それはあくまで『最速』の予測だよ」  

 

 そう口を開いたのはアリスだった。


「現実には戦車を不整地で走らせれば、足回りがやられる。トラックも砂地にハマれば、移動に大きなロスが出る。メンテナンスと整備の余力があるとは思えない。実際、コーモラント隊もここに来るまで、アーマード補給車の整備に大分手間取らされた」

 

「アリス達には苦労をかけさせたわね。それに、加えて補給の問題もある」


 静かに言葉を継いだのは、補給隊長のシャーロット。


「この人数の移動には莫大な燃料が要る。もし車列が燃料切れを起こせば、悲惨なことになる」

 

 しかし、その希望も一瞬の光に過ぎなかった。

 

「それにしたって、この兵力差じゃなぁ……」  


 狙撃兵隊隊長、ジュリアが肩を竦める。


「兵力差に物を言わせて、突撃かけられたら一瞬で終わる」

 

「ま、不利な戦いなんて今に始まったことじゃないけどさ」


 砲兵隊長のヴィクトリアが笑ってはみせたが、目は笑っていなかった。

 

 それでも、機関銃隊の中隊指揮官、クリスティーナはひときわ明るい声で叫んだ。

 

「1人あたり3人倒せば何とかなりますよ!!」

 

「うん、錯乱してるな」


 偵察隊のマリーが彼女の肩を叩きながらため息をついた。

 

 部屋の空気は重い。  


 だが、誰も口に出さないだけで、全員が理解していた。  


 この戦い、勝ち目は限りなく薄い。

 

 そして、スカイはぽつりと呟いた。

 

「……最悪、夜逃げするか」

 

 静まり返る室内。 ただ一人、隣にいたエリザベスだけが小さく声を漏らす。

 

「……隊長、それは」

 

 スカイは苦笑して、机に手をついた。少女たちの顔を見渡し、静かに、けれどはっきりと言葉を重ねる。

 

「本音を言おう。もう、俺は……お前達を一人も死なせたくないんだ」

 

 誰かが息を飲んだ。誰かの瞳が潤んだ。 誰かの指が、強く拳を握った。

 

「こんな所で果てるくらいなら――亡命計画、再考する」

 

 それは、指揮官としての決断ではなかった。  


 ただ一人の少年として、家族のように思う少女たちを、また失いたくないという願い。彼の弱さ。彼の優しさ。そして彼が背負う、果てしない重さ。

 

 誰も、言葉を返せなかった。静寂の中、風の音だけが駐屯地を揺らしていた。

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