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名も知れぬ友人

 少年は迷っていた。


「…どこで寝るか」


 時は遡り、昨晩。

 少女をベッドに寝かせたのは良いものの、自分の寝る場所を失ってしまった…。


「んー、床で寝るか」


 少年は押し入れから掛け布団のみを取りだし、床に寝転がった。

 少年は少女を起こさぬ様に自分の寝やすいポジションをゴソゴソと動きながら探していた。


「…寝れん!」


 あまりの寝心地の悪さに、少年の睡魔は遥か遠くへと走って逃げて行った。

 ふと少女の様子が気になり、少女の顔を覗く。


「そう言えば治療してねえな…やるか」


 あまりに寝られない少年は少女の治療を始めた。

 頭の殴られた部分にガーゼを当て、そのガーゼが動かぬ様包帯で固定。ついでに頭を動かしても多少痛みが和らぐように包帯を巻いていく。


「よし、これで完璧…さすがにそろそろ寝れるだろ」


 少年は時計を確認する。すると時計の時刻は深夜2時を指していた。


「…5時間は寝られるな」


 少年はもう一度床に寝転がり、今度こそと信じて目を閉じた。

 結局のところ、少年は快眠とは言えず朝5時には目を覚まして少し凝った朝食の準備をした。

 少年は書き置きを残し、そのまま学校へ向かう。


「よっ!」


「おお、急に後ろから来るなよ」


 少年は通学路で後ろから友人に肩を叩かれ、そのまま横向きに並んで歩いていた。


「なんだよ辛気臭い顔して?また厄介事か?」


「まあな、けどどうも放っておけなくてな」


「そうか、けどあんまり無茶するなよ?」


「分かってる。だけど今回の件についてはどうせ依頼が来るだろうぜ」


「…なるほどな」


 そうして2人は、意味深な空気を残したまま高校の門をくぐった。

 少年は一日中気怠げに授業を受け、その日一日を過ごした。

 時には友人と談笑し、時には眠気と葛藤しつつもノートに板書を移したり、以下にも学生らしい態度で少年は学校を後にした。


「あー、やっぱ数学が2mmくらいしか頭に入ってこねえ」


「ドラちゃんでも3mm浮いてんのに…お前の脳は数学にだけ反発する磁石か」


「いいや、ギリ化学と生物と物理も」


「理数系全部アウトじゃん」


 少年はポケットに手を突っ込み、頭を搔く。

 すると少年のポケットにある携帯電話が鳴り響く。その宛名は不明。


「あー、噂をすればってやつか」


「え?何?赤いランドセルの妖精?」


「違ぇよハゲが、いつまで理数系の話してんだ髪の毛燃やすぞ」


「罵倒するか矛盾するかどっちかにしろ氷漬けにして炙るぞ」


「凍らして解凍してるだけじゃねえか」


 少年は戯言を1度終わらせて電話に出る。

 すると火打石をする音の直後、炎の燃える音が鳴り響く。


「電話には3秒以内に出ろ」


 すると煙を吐く音の後、中年の低い声が聞こえた。


「おじさんのメンヘラはモテねえぞ?」


「誰がメンヘラだ、刺すぞ」


「ヤンデレの方だったか」


 いやおじさんの時点でどっちもキショいことには変わらないと少年は思った。


「そんで今回の依頼は?」


「お前ももう分かってるはずだろうが」


「一応聞いただけだよ…昨日の女の子の事だろ?」


「あぁ、情報は渡す。あんまり派手にやるなよ」


「へいへい」


 少年は一通りの情報を電話の主から受け取り、家に帰り準備をする。

 準備と言っても、1つ物を取りに帰っただけだった。


「今日も頼むぜ」


 少年はクローゼットの奥にしまっていた黒いバットの入れ物を取り出した。

 少年はそれを肩にかけ、ボロボロの白いリストバンドを手首に装着して家を後にした。


「さて、一仕事しますかね」


 少年の顔付きは先程とは打って変り、学生の顔からは考えも付かぬ程の鬼気迫る表情へ変わった。

 そして少年は迷わず歩み出した。

 たった1晩、共に居ただけの名も知れぬ友人のために。

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