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その六

 というのが数時間前で俺は今、監獄の外にいた。


「…………」


 街並みはまさにファンタジー世界そのものだと断言していい。

 石を削って造ったと思われる建物が密集して並んでいて、どの建物も塗料などが使われている様子はなく、街の色は全体的に灰色だった。家屋の外観もほとんど違いがなく、長方形で同じ配色の建物が乱立している様は、似たり寄ったりで個性がないと言えばそれまでだが、逆にその統一感こそが景観の美しさを引き立てているとも言える。

 何にしろ、こんな高い場所から見下ろす見慣れない街並みは絶景で、先程から俺を魅了して止まなかった。


「………んうっ!……んんんんんっ!」


 俺がどうしようもない状況に絶望して現実逃避に浸っていると、隣りからどす黒いオーラを感じた。

 発しているのは間違いなくサイネで、ついでに殺傷能力すら秘めていそうな罵詈雑言を散々喚いているようだったが、俺は真っ向から無視する。

 わかっている。わかってはいるが、今の俺にはどうすることも出来ない。

 俺は無言で、すぐ下を見下ろす。

 そこには、この街の住民総動員なんじゃないかというレベルで人だかりが出来ていた。

 彼等の視線は全て俺とサイネに集中していて、時折『殺せ』だの『早く処刑しろ』だのと不穏な声が聞こえてくる。

 俺は一刻も早く耳を塞いでとんずらしたい気分だったが、どうも身体と心が喧嘩でもしたようで手も足も微動だにしなかった。

 サイネなんかはひたすら鼻息を荒げて『んうっ! んうっ!』と唸っているが、俺はいい加減諦めろと言いたい。

 詰まる所俺達は今、はりつけになって街の中央にある広場に晒されていた。

 地上から何十メートルも離れた場所で、十字架を作って二人仲良く。

 猿轡さるぐつわを噛まされているのにも関わらず、めげずに罵声を浴びせようとしているサイネには軽く感動すら覚えるが、しかしその対象が俺ってのにはどうにも納得がいかない。

 いくら、俺の不甲斐なさが半端じゃなかったとはいえ。


「…………」


 最強の二番目? 何それ? つまらないギャグ?

 というぐらい、一瞬で俺は負けた。

 負けたといっても、断じて看守達にではない。

 自分自身の善良さに、である。

 こんな事を口に出したら『アンタ頭悪いの? 死ぬの?』、とサイネ辺りに言われそうだが、実際そうなのだから仕方がない。

 俺は看守達に囲まれた時、すぐに携帯を取り出して魔法を唱えようとしたが、そこで愕然とした。

 俺がどれだけ頭の引き出しから魔法を漁ってみても、全部相手の死に直結する魔法だった。

 力を制御すれば殺さずに倒すだけの魔法もあったのかも知れないが、相手は鉄格子ではない。生身の人間だった。万が一しくじれば、相手は間違いなく死ぬ。

 俺はそんな情けない逡巡を結局最後の最後までし続け、結果今に至る。

 サイネはどうやら、相当な大罪人らしかった。こんな大掛かりなイベントまで設けて、これから公開処刑を行なうらしい。

 そして俺は、サイネの召喚した悪魔という扱いになっていた。

 どのみちサイネは明日には処刑される予定だったらしく、だから脱獄をするために俺を呼んだと。そういうことになっているらしい。

 メディアを持っていないサイネが牢獄の中でどうやって俺を呼んだだとか、そういう詳細は既にどうでもいいらしく、とりあえずサイネを処刑出来れば何でもいいという雰囲気だった。

 俺の頭の中は疑問と恐怖で一杯だった。

 サイネのことも、この世界のことも、そして何よりサイネの所へ俺を呼んだキリカのことも、何もわからないまま俺は死ぬ。

 キリカの引き立て役で在り続けた脇役の俺が主役なんかにはなれないと断言でもするように、世界は俺を王道的展開に導こうとしなかった。

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