その一
太股が半分以上露出している短い紺色のスカートに、袖にひらひらがついた白のワイシャツ、そしてスカートと同じ紺色のニーソックスに靴は黒いローファー。その上に地面を引きずるぐらい長い黒色マントを羽織って、道路上でよく見掛ける三角コーンみたいな黒いとんがり帽子を被った彼女は、何処をどう見ても魔女だった。
彼女は赤いリボンで括った金色のツインテールをぶるぶると震わして、綺麗な紅い瞳でこちらを睨む。
雪のように白い頬を怒りで紅潮させて、眉間にしわを寄せている姿は案外可愛かった。とか言ってる場合ではない。
どうもマジ切れだ。
「おい待て、落ち着け。話せばわかる。だからそんな殺気のこもった眼で俺を見るな。あんまりふざけた展開過ぎたから動揺してたんだ。別に悪気があったわけじゃない」
「そう。で、死ぬの? それとも私が殺すの? どっち?」
「どっちもお断りだ!」
はい、聞く耳なし。
一体何がどうしてどうなって、彼女はここまで怒っているのだろう。
ぱっと頭に浮かんだ『アンジェリカ』でそのまま彼女を呼んでしまったのが原因なのか、それとも俺が自暴自棄に『お兄ちゃんだぞ』なんてほざいたのがいけなかったのか、まあ多分両方だ。
とにかく殺る気満々な彼女。
俺は思う。
それにしたって、怒り過ぎだと思う。
俺はあたふたしながらも必死に打開策を考えつつ、後でカルシウムの摂取を勧めることにした。
「なあ、頼むから怒りを鎮めてくれ。俺はちゃんと話がしたいんだ。状況をきちんと把握したい。それに、そんな恐い顔してたら勿体ないってもんだ。せっかく可愛いんだから」
俺は吹き出しそうになった。いくらなんでもこれはないだろう。まともな策が一つも浮かばなかったからとりあえず言ってみたが、これは俺のキャラじゃない。恥ずかし過ぎてむしろ死ぬから。
俺は己の愚鈍さに赤面しつつも、相手の出方を見る。
すると、どうだろう。
なんと彼女は俺の『可愛いんだから。キラっ!』が利いたらしく、目を見開くと今度は恥ずかしそうに頬を紅潮──
「……気持ち悪い」
させることもなくバッサリだった。完全な自爆だった。
俺は余りにも清々しくて、少し目から青春の汗が出た。
とはいえ、どうやら結果オーライらしい。
怒りを削ぐことには成功したようだった。彼女はやる気を無くしたようにため息を吐き、俺をうんざりした表情で見つめている。
完全に、馬鹿を見る目だった。
口に出さなくても、ひしと伝わる。
「……馬鹿の相手は疲れる」
口に出しやがった。
「もういいわ、疲れた。アンタみたいな馬鹿のためにここにいるって考えただけで虫酸が走るけど、もういい」
彼女は気だるそうに肩をならし、またため息を吐く。
こいつ、俺を怒らせたいからやってるのか?
そうだろう。そうに決まってる。
「っていうかアンタ、何しにここへ来たの?」
しかもおい! それを俺に聞くのか!? お前が俺を巻き込んだんじゃないのか!
俺は未だに自分が何のためにここにいるのかも、何処にいるのかもわからないままだった。