第一章 クリトピエム
俺は写真立てを伏せてから間も無く、やや乱暴に学生カバンを引っ提げて立ち上がった。
着替え朝食等の身仕度は既に済ませてあり、空いた時間を使って俺は今まで写真を眺めていた訳だが、それももう辞め。何と言っても、気分が腐る。
俺は相変わらずブルーで仕方がないテンションをなんとか切り替えようと両手でぱんと頬を張り、ドアまで前進しノブを捻る。
そして部屋を出た。
部屋を出ると、金髪の可愛らしい女の子が、何やら怪訝そうにこちらを見て立っていた。
「…………」
という妄想だった。
俺はすぐに引き返そうと回れ右をした。
そしてドアノブを捻ろうと手を伸ばし、何故かごつごつした何かとぶつかった。
何だろう、と目を凝らすまでもなくそれは石で出来た壁だった。
ドアノブどころか、ドアがなかった。
「…………は?」
俺の目が、点になる。
一体いつから、俺の家は石造りになったんだろうか。一体いつから俺の部屋は、壁を壊さないと入れなくなったんだろうか。
いつの間にか壁どころか床も天井も石造りにリフォームされている不思議に首を傾げつつ、俺は再度回れ右をする。
相変わらず、金髪の女の子は立っていた。
それも何やら、かなり不機嫌そうだった。
そこで俺は思い出す。ああ、そうだ、すっかり忘れていたと。
その女の子は俺の妹だった。名前は多分アンジェリカ。確かイギリス生まれだった気がする。 ここはお兄ちゃんらしく、気さくに声を掛けてみた。
「よう、アンジェリカ。俺がお兄ちゃんだぞ」
アンジェリカは何故かわなわなと震えていた。そしてかく言う俺も、そろそろ限界だった。
「何アンタ、死ぬの?」
そこは、俺の家じゃなかった。