中央国東端の街「イースティア」
お久しぶりです。友好キゲンです。
仕事などの諸事情により約1ヶ月投稿が空いてしまいました。
今回からまたぼちぼち更新できればなと思っておりますので、ゆる〜くお待ちくださいませ。
2人は森を出てすぐ近くにある街「イースティア」に向かっていた。
「イースティアに向かうってことは、これから皇国に行くんですか?」
森を出た僕はそう尋ねた。
というのも、イースティアはこの国の中で皇国に最も近い街だからだ。
「いや、そこが一番近かったから。」
彼からの返答は近かったから…ただそれだけの理由だった。
どれくらい近いかというと、子どもが街の門から寄り道せずに歩いて森の中にある僕の家(跡地)に着くのに1時間も掛からないくらいだ。大人や青年の徒歩ならもっと早く着く。それほど近い街なのだ。
「さあ、着いたぞ。イースティアだ。」
街の門を潜り抜けた時、彼はそう語りかける。
皇国に一番近い街なだけあって、ちょっと貴族っぽい感じが出ている街だ。皇国から来た商人も馴染めるように造られた街なのだろう。
本来街に入るのには、その街の住民でない限り厳しめの検問が必要なのだが、ソウマさんが異世界の元勇者ということもあってか、すんなり入ることができた。
「異世界人って便利ですね、こういう街にすぐ入れるようにして貰えるなんて。」
「便利だろ?だからと言って、俺をパスポート…何処でも行ける証明書として扱うのは辞めろよ?」
「分かってますって。」
パスポートとかいう聞き慣れない言葉をスルーしてこの街での生活を楽しむとしよう。
街に入ったらまずは観光…と行きたいところだが、その前に情報収集だ。
集める情報は主に2つ。泊まれる場所と不幸の在処だ。
泊まれる場所は、そういう看板なり案内なりがあるから見つけるのは容易い。故にこっちはすぐに見つかるはずだ。
問題は食材だ。ただの食材なら市場やマーケットで売られているが、それではソウマさんは満たされても、自分の腹は満たせない。かと言って、石や木を食べさせるのはソウマさんの異世界人としてのプライドが許さない。
「まずは食材を探すか。ユウが腹いっぱいになれるやつをさ。」
…というわけで、宿探しを後回しにして、まずは街中を散策しながら不幸を探すことになった。
◆◇◇◇◆
不幸の在処を探し始めてどれほど経っただろう…日が真上を通り過ぎ、空はオレンジ色に染まっていた。2人はまだ目当ての存在を見つけられず、街中を散策していた。
「本当に不幸を受けた人なんて居るんですか?」
僕はもう聞かずにはいられなくなり、そう尋ねた。
というのも、ソウマさんの探す手段が、一人ずつ話しかけて情報を聞き出すという方法だったからだ。
この方法では今晩の食事どころか1週間後の食事もありつけない。もう石とか枝でもいいから食べていいよね?
「仮にいたとしても、こんな広い街でそんな人を探すなんて無理な話なのでは?」
「勇者兼冒険者に不可能なことはない!」
「それだけ自信があるってことは、異世界人にはそう言う人探しに便利なスキルとかもあるんですか?」
収納や高速移動ができるんだし、何か情報を一瞬だ把握できる力もあるんじゃないかと思い、聞いてみた。
「鑑定スキルと感知スキルと情報処理スキルを同時使用すればいける。けど…」
「けど?」
「使った瞬間から脳が焼き切れる感覚に襲われるから使いたくない。」
彼曰く、範囲内の大量の情報が一気に流れ込んでくるらしい。
処理し切れない量の情報を取り込む上、それを処理し切る時に受ける脳へのダメージは回復や治癒ではどうにもできない。故にかなりのリスクがあるとのこと。
かつて勇者をやっていた時に一度だけ使ったことがあって、一瞬使っただけであまりのダメージに鼻血がダラダラと流れ始めたので、すぐに使用を辞め、禁忌として使わずにいることを決めたらしい。
「だからって一人ずつ聞いてたら夜になっちゃいますよ。なんかそういう情報を知っている人とかに聞いた方が良いんじゃないですか?」
僕はそう尋ねる。
その方法が禁忌で使わないと決めていたとしても、今やっている方法はあまりにも効率が悪い。情報屋とか、情報に詳しい職の人に聞くのが一番効率が良いはずだ。だが…
「それは難しい話だ。依頼なら兎も角、個人の不幸みたいなプライベートなことは、この街のギルドでも知らない。だから地道に聞きに回るしか方法はないんだ。」
「それなら今日は一旦人探しを辞めて、宿を探しませんか?このままだと飯無し宿無しで一晩過ごすことになりそうですし。」
もう夕暮れなので今日のところは不幸探しを止めて、ひとまず寝る場所だけでも確保しようと宿を探すことを提案する。その提案に彼は暫く沈黙した後、渋々提案を飲み、宿探しを始めたのだった。
宿はすぐに見つかった。というより、宿の方は不幸探しの途中で数ヶ所見つけていたからそこから1つ選んで泊まることは決めていたのだ。
1つ目は、一泊銅貨1枚の素泊まり宿。ただ寝泊まりするためだけに作られた宿で、値段通りの硬い寝床があるだけの宿。それでも、魔物が出てこない街の中で、雨風凌げて安全に夜を過ごせるだけ野宿よりはマシだろう。
2つ目は、一泊銀貨1枚の宿。寝床の他に食事で黒パンと野菜のスープが出される。寝床はまあまあ硬いが、硬めの布団と思えば全然寝られる程度らしい。多くの冒険者がここを拠点に活動していて、ソウマさんもここに泊まることが多いとか。
3つ目は、一泊大銀貨1枚の商人御用達の宿。ふかふかの上質な寝床があり、食事はパンと野菜スープの他に燻製肉の盛り合わせが出される。燻製肉はその宿の主人が作っているらしく、商人達にも大変評判が良いとか。
僕たちはこの3択まで絞ることが出来た。
金はある。ここの商人御用達の宿で10年泊まり続けても全財産のうちの1割すら減らない程度には大量にある。
「ユウ、お前は飯がある宿とない宿、どっちがいい?」
彼は僕に選択を投げた。
『ここで食事付きの宿に泊まっても、それで腹が満たせるのは自分だけ。ユウは腹が満たされないのなら、その宿に泊まってもストレスになるだけだ』…とか思っているんだろうな。
正直に言えば、確かに腹が満たされないことには不満を抱えるさ。でもこれは僕が受けた呪いのせいであって、ソウマさんのせいではない。だから僕は…
「腹が膨れなくても食べるなら美味しい物が良いですね。あと、質の良い睡眠がとれるところがあれば最高です。そういう宿、ソウマさんの選択肢にありますか?」
と、答えに近い選択条件を彼に投げることにした。
腹は膨れないが美味しい食事ができて、気持ちよく眠れる寝床がある宿。その条件を聞いたソウマさんは自信を持ってイエスと答え、僕たちは商人御用達の宿に向かうのだった。
イースティアと魔女の森の近さは子供でも簡単に行けてしまうほど。
街に出てすぐ近くに魔女が住む森なんて、子供の頃一度は夢で見たりしませんか?