凍結魔法のザラメケーキ
「ただいま!卵と牛乳、あと良さげな茶葉もあったからそれも買ってきたぞ!」
数分後、ソウマは鶏の卵と牛の乳を大量に買って帰ってきた。ついでに茶葉まで買ってきた。
「相変わらず帰ってくるのが早いですね。」
流石は元・異世界から来た勇者様。この森から街まで近いにしても、たった数分で往復できるのは異世界から来た勇者くらいだ。
「まあな、高速移動に次元収納…他にも色んなスキルを持ってるからな。上手く利用すればこの程度の御使いは朝飯前だよ。それより、材料はあるんだ。菓子、作ってくれるんだろ?」
そう言ってソウマさんは材料を見せて、目を輝かせながら聞いてくる。もう夜なのにそんなにそのザラメとかいう砂糖で作ったお菓子が食べたいのか。まあ、僕も食べたいし作るけどさ。
「材料も揃いましたし、作りますよ。あっ、ソウマさんはかまどに薪を焚べておいてください」
「ああ、任せておけ」
かまどの火はソウマさんに任せ、僕はお菓子作りに専念することにした。
ボウルに卵を割り入れて、かき混ぜる。
この時、ボウルの外側にお風呂くらいのぬるま湯が着くようにして混ぜる。
「へえ、普通に混ぜるんじゃなくて、湯煎して混ぜるのか。」
「ユセン?」
「ん?あー、こっちの話だから気にしないでくれ。」
異世界人のソウマさんからは度々謎の言葉がユウの耳に入る。ユセンとやらも異世界の言葉なんだろう。
おっと、料理に戻ろう。
ボウルに砂糖をスプーン7杯くらい入れて混ぜる。とにかく混ぜる。きめ細かい泡が立つまでひたすら混ぜる。
充分混ぜたら、メロウビーの巣から採れる甘い蜜をスプーン3杯分、それと、小麦粉を振るいで落としながらボウルに入れて、更に混ぜる。
混ぜ終わったら、ケーキ用の型に先程入手した『ザラメ』を敷き、その上から生地を流し込む。
後は焼けば完成だが…
「ソウマさん、そっちは出来ましたか?」
「ああ、焚べ終わって充分あったまってるぜ。」
「頼んだ僕が言うのもなんですけど、早くないですか?」
かまどの方を見ると、既に薪を焚べ終えかまども充分に熱くなっていた。おかしい、僕がやると1時間は平気で掛かるのに、それをソウマさんは生地を作っている間の十数分でやり終えたというのだ。
「そんなに早いか?火で燃やして、風で燃えている薪に風を送ればこれくらいの炎はすぐに…」
「風を送る…?」
「ああ、風を送ると火は強くなるんだよ。」
ソウマさんは度々理解できないことを言う。
火に、ましてや風魔法のような強力な風を送ったら火は吹き消されてもおかしくないはず。それなのにソウマさんは火が強くなるという。
やはり異世界人はこの世界の人とは持ってる知識が違う存在なのだろう。
「なあ、焼ける準備は出来たんだし、早く焼こうぜ?」
「…ああ、そうですね。焼いちゃいましょう」
僕の考え事を他所に、待ちきれなくなったソウマさんが催促する。僕もこの件で考えることを止めて、かまどに生地の入った型を入れた。
待つこと約40分…かまどから甘い匂いが漂い、2人はまだかまだかと待っていた。
「そろそろ良いでしょう」
頃合いだと感じて、かまどから型を取り出す。
そして熱々の型をテーブルに置き、生地を型から抜き出す。
外側はカラメルのように香ばしく、中はふんわりと焼き上がっていた。
「ザラメのケーキ…完成!」
凍結魔法で取れたザラメを使った、ふわふわのスポンジケーキが完成した。
クリームを塗ったケーキなら軽く冷やしたほうが美味しいけど、今日作ったのは生地にメロウビーの蜜を混ぜ込んだスポンジケーキ。出来立ても美味しいはず…!
早速切り分けて、机に置く。あとは取り皿とフォーク、それとソウマが買ってきた茶葉でお茶を淹れる。
「なあ、そろそろ食べていいか?」
甘い匂いが漂い続け待ち切れなくなったソウマさんがそう聞いてきた。彼の「早く食べたい」「待ち切れない」と訴えるような目に負け、一切れ皿に乗せて出して、食べることにした。
「美味しい…」
出来たてホカホカでふんわりと柔らかいスポンジケーキ。
きめ細かいスポンジの生地に、蜜の甘さ。そして、そこに付いているザラメの食感が良いアクセントになっている。
「うんまっ!美味いな、このカス…ケーキは」
「は?」
ん?この人、今「カス」って言った?僕のケーキをカスって…
「え、どうしたユウ?」
「カス?僕のケーキは異世界人のソウマさんにとってはカスですか。そうですか。」
「あ、いや、ユウが思ってるような意味じゃなくてだな…」
ソウマさんの言葉に疑問と少しの怒りを込めた口調で問いただす。例え今自分が考えているような意味ではなくても、自分の料理をカス呼ばわりされるのは納得いかないからだ。
「へえ、じゃあどういう意味でカスなんて言ったんですかね?」
「…俺のいた世界では、こういうケーキのことを『カステラ』って呼んでたんだよ。」
「へえ、そうなんですか。だったら最後までそう言えば良かったじゃないですか。カスからの言い直しなんて誤解しか生まれませんよ?」
「はい、まったくもってその通りでございます。」
どうやら、このスポンジケーキをソウマさんがいた世界では「カステラ」と呼んでいたようで、その名前が自然と口に出かけのを阻止していたらしい。
そうと分かった瞬間、僕にはもう怒る気がなくなっていた。
「はあ、もういいです。誤解も解けたことですし、この怒りは持っていたところで味を損ねるだけですね。では改めてお茶の時間としましょうか!」
「お前のその切り替えの早さにはビックリするが、一理あるな。俺もカステラを存分に楽しむか!」
誤解が解けたら話は終わり。この件は紅茶の共に流し込み、なかった事にする。
これほど美味しい『カステラ』を前に険悪な雰囲気はに合わないからね。
カステラは蜂蜜入りの物をよく買います。これに熱く苦い緑茶がよく合いますし。