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不眠少年のハーブクッキー



「あー、薪が燃えてる。ちょっと勿体ない気分…」


クッキーを焼く為にかまどに火を着けていた。

干した草や枝、薪を入れて火打石で火を起こす。

薪も食料になるため、食料を燃やして勿体ない気分になるが、これは美味しいクッキーを焼く為に必要な消耗なのだ。


『薪を消耗する分、たくさんクッキーを焼こう』


そう心に決め、また1つ薪を焚べるのだった。



◆◇◆◇◆



─── ここは…僕は…何でここに…?


ネイヴは自分が住む街にある噴水の縁に座っていた。噴水の音が騒がしく、子供達の遊ぶ声が噴水に紛れて聞こえてくる、いつもと変わらない景色の中にいた。


「どうしたんだよネイヴ、早く来いよ!」


街の子供が呼ぶ声がする。


「う、うん、今行くよ!」


ネイヴはそう答えて、声がする方へ走っていく。今まで感じられなかった、体が軽くてどこかフワフワと浮かぶような不思議な感覚で走る。軽やかな走りでそのまま街を抜け、草原を走り抜ける。

ようやく子供達の元に辿り着いた時、景色が急に闇のように暗くなった。



「ん…ここは…。そうだ、眠れない体を治してもらおうとして…それで横になって…」


目を開けて辺りを見回す。さっきまで走っていた草原ではなく、そこは自分が辿り着いた魔女の家だった。


─── さっきのは一体…?もしかして、これが…夢?


さっきまで見ていたあの景色を、ネイヴは朧気に覚えていた。

現実にいるようで、どこか幻を見ているような感覚。ネイヴはそれが『夢』だとわかった。

眠る時に見るといわれる夢。ネイヴが今まで見られなかった夢。それを今日、ようやく見ることができた。

ネイヴは喜んだ。自分が眠れたことを確信したからだ。


ネイヴが喜びに浸っていると、台所の方から何やら良い匂いがした。


「何だろう、この甘くて爽やかな匂い…あのにいちゃんが何か作ってるのかな?」


匂いを辿るように台所に向かうと、魔女のにいちゃん…もといユウは何かを焼いていた。

ネイヴがしばらく匂いを嗅いでいると、それに気がついたユウが声をかける。


「おや、起きたんだね、おはよう。よく眠れたかな?」

「うん、眠れたかは分からないけど、夢を見たよ」

「それは眠れた証拠だよ。おめでとう。」


今まで眠れたことがなかったから、夢らしきものを見たと告げる。

それを聞いたユウは睡眠がとれたことを察して、今までの不眠から解放されたことを祝った。

祝われたネイヴはちょっと照れ臭そうに笑っていた。



「あ、そうだ、魔女のにいちゃん、何を焼いてるの?」

「ん?何って、ハーブクッキー」

「ハーブ…クッキー?お菓子?」

「うん、君から貰った材料で作ったんだ」


そう言ってユウは袋からハーブを取り出して見せる。


「僕、こんな物持って来なかったよ?」


ネイヴは不思議に思いながら問う。何も持たずにここまで来たのに、目の前にいる魔女のにいちゃんは自分から貰ったと言うからだ。


「僕の受けた加護で、キミの不幸を食べ物に変えたんだ。だからこのハーブはキミから貰った物ってことになる。」

「ふーん、そうなんだ」


ネイヴは加護の話より匂いが気になるのか、クッキーを焼くかまどをチラチラ見ながら相槌を打った。


「…よかったら食べる?」

「いいの?」

「その代わり、2つ約束を守って欲しい」

「約束って、どんな約束?」

「それはね……」



◆◇◇◇◇◆



「ただいま」


ネイヴは魔女のにいちゃんとの約束を守ることを誓い、クッキーを貰って真っ直ぐ街に、家に帰った。

にいちゃんとの約束は2つ。

1つは、魔女のにいちゃんのことを話さないこと。にいちゃんも自分と同じように加護で酷い目にあっているから、何も話さないで欲しいとのこと。

もう1つは、クッキーは家に帰ってから食べること。

これについては理由を教えてくれなかった。



「お母さんは…買い物かな?」


家に母が居ないとわかり、今のうちにと自室に入る。


「ここでならもう食べても大丈夫だよね」


クッキーが入った小瓶を開ける。ビンの中からはハーブの匂いがする。

匂いだけでも心が落ち着けて眠れてしまいそうだ。


「いただきまーす」


ビンの中から1つ摘み出し、一口齧ってみる。

さくっとした食感に優しい甘さ、そしてハーブの香りが口に広がる。美味しさのせいか、はたまたハーブの効能か、頭がぼーっとする。

そして、ネイヴは自室で睡魔に襲われ、再び夢の世界へと誘われるのだった。





一方、「魔女のにいちゃん」ことユウは約束について考えていた。


「あの子、ちゃんと約束守ってるかな?」


ハーブの匂いで強い睡眠効果があると察した僕はあの少年に、「家に帰ってから食べる」という約束を交わしてから帰らせた。

このハーブは、少年が生まれてから今日までに溜め込んでいた睡眠欲が凝縮されてできたようなもの。

1本あたり、あの少年の1週間分の睡眠欲が凝縮されているだろう。

ネイヴに渡したクッキーは、一本のハーブを細かく刻んで何枚にも分けた物なので、効果はだいぶ薄くはなったものの、それでも1枚あたり1日分の睡眠欲が入っているだろう。

もしも約束を守らずにそんな代物を街中で口にしたら問題になるかもしれない…

だからあの約束を交わしたのだ。


「子どもはお菓子のためなら約束はちゃんと守るだろうし、大丈夫だよね。さっ、僕もクッキー食べよっと。」


約束を守るかどうかは少年次第だし、少年が守るを信じて悩むのをやめて、瓶にクッキーを詰め、詰め切れなかった分を皿に並べる。

そして、クッキーとは別に刻んだハーブで作ったハーブティーを淹れて一口…


「うん、良い香り。甘さ控えめで苦みもほんのりあって、クッキーに合いそう。」


クッキーを1枚口に放り込む。サクサクとした食感とハーブの甘く爽やかな香りに口に広がり、鼻から抜けていく。ハーブティーともよく合う。

もう一枚食べようと思い手を伸ばした時、僕の体に強力な睡魔が襲ってくる。


「ううっ、眠気が…これ、効果強いね…」


ハーブの効能を身を持って体験した僕は、そのまま睡魔に抗うことが出来ず、そのまま意識を手放すのだった。



ハーブクッキーの話はこれで終わります。

まだまだ文章の長さがバラバラになってしまいますが、じきに慣らして文章量をコントロールできるよう励みますので、何卒読んでいってくださいまし。


さて、この話のハーブについてですが…安らぎを与える効果のある「ラベンダー」を元にしています。まあ、効果はめちゃくちゃ強くなっちゃいましたが…( ̄▽ ̄;)

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