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不眠の加護の眠れぬ少年

─── もう朝か…また眠れなかったな…


日が出て再び明るくなる空を見て、ネイヴは自身の不眠をいつも実感する。

幼少期に不眠の神の加護を授かって以来、一度も眠れていない。

夜になって、目は瞑るものの一向に眠れず長い夜を過ごす。体はもう疲れているのに体を休めることが出来ないネイヴには、この加護が苦痛でしかなかった。

これまでにネイヴは眠る為に色々なことを試した。

夜に温かい牛の乳を飲んでみる。街の医者に頼んでみる。隣町の医者にも頼んでみる。ポーション屋でよく眠れると噂のポーションを買って飲んでみる。教会で祈ってみる。疲れて動けなくなるくらいに運動してみる。睡眠効果のあるハーブティーを飲んでみる。

…でも、全て効果はなかった。


─── 僕はいつになったら眠ることが出来るのだろう?


ネイヴの目の周りに真っ黒な隈ができ、疲れで怠くなった体でフラフラ歩きながら、解決しない悩みのことを考える。

街の中央にある噴水まで行き、噴水の縁に座り込み、ぼーっとする。

眠れないのに襲ってくる疲労感を噴水の水飛沫で打ち消すため、そして自身のこの状況から逃避するためだ。


「……待って〜」

「もう……遅いんだから…」

「ねえ聞いた?また魔女が…」

「…聞いた。怖いわね…」


噴水の音の他に微かに聞こえる子供達の声、その子供達の母親の噂話が聞こえてくる


「また魔女の話か。」


よく出てくる魔女の噂。なんでも、この街のすぐ近くにある森には魔女の家があるとか…その魔女が不思議な力を使うとか…

魔法が使える人なんていくらでもいるのに、何故かこの『森の魔女』はよく噂されている。

『怪我をした動物が何故か森に入っていく』とか『負傷した冒険者が森に入り、森を出た時にはその冒険者は完治した状態で出て来た』とか…。

でも魔女の姿を見たと言う話は聞いたことがないし、噂止まりなのだろう。

「たとえ噂だったとしても、行ってみようかな」

ネイヴは噂が本当なのか知りたくなった。


─── 魔女が怪我を治せるのなら、もしかしたらこの状態を治してくれるかもしれない。


そんな根拠もないことを考えもあったから。

そしてネイヴは魔女がいると言われる森へ行くために街を飛び出した。



◆◇◆◇◆



「暇だな〜」


森の中にある家の前にて、僕はパキポキと小気味の良い音を鳴らしながら木の枝を齧っては、咀嚼していた。

今日の収穫はゼロ。怪我をしている動物もいなければ、動物達の訪問もない。

仕方がないので、その辺で拾った木の枝を集めて、それを食べていた。


ガサガサッ…ザッザッ…


家の前の草むらが揺れた音がした。

風も吹いていないし、何かの動物かと思い注視する。


「ハァ…ハァ…ここが…魔女の家?」


草むらからは目の周りに真っ黒な隈をつくった少年が出てきた。


「なあ、にいちゃん、ここに魔女は住んでるか?」


少年は僕を見るや否や、噂らしきものの答えを聞いてきた。


「ここに魔女はいないよ。これは僕の家。」


魔女の噂なんて聞いたこともない僕は、そうあっさりと返答しる。噂は所詮噂だからね。

とはいえ、僕の家を訪問する者は大体が悩みや不幸を持っている。昨日の鹿もそうだったように。


「ここに魔女は居ないけど、僕の家までたどり着いたなら君はお客さんだ。何か悩みや不幸なことでもあったのかな?」


僕はそう少年に問う。もしも悩みや不幸があるのなら、食材が見つからないこの退屈さを紛らわせそうだと思ったからだ、。


「不幸?僕の不幸は眠れないことだよ。医者に頼んでも、教会で祈っても治らなかった…そんなことを聞いて、兄ちゃんは何かできるの?」


と、怒るように、こんなに自分が不幸であることを訴えかけるように問い返してきた。これは知人に聞いたことがある、逆ギレとかいうやつなのかな?


「できるよ。僕なら君のその不幸を治せる。」


そう言って僕は不眠の少年を家に招き入れ、自身の寝室のベッドに座らせた。



◆◇◆◇◆



「なあ、本当に治せるの?」


「治せるよ。僕は魔女じゃないけど、そういうのは得意なんだ。だから任せてよ。」


心配そうに聞いてくる少年に僕はそう答えた。確かに僕は魔女じゃない、というかそもそも女じゃない。

でも僕の加護は、この少年のような呪いに近い加護を受けた人を救える希望かもしれないから。


「う、うん」


「じゃあ横になって…」


少年は言う通りに寝床で横になり、目を瞑った。

僕は少年の目を覆うように手を翳す。すると僕の手からふわりと優しい光を放ち、光が収まった頃には少年は深い眠りへ誘われていった。

きっとこれでこの子の呪いとも言える加護は無くなったはずだ。


「これでひと段落かな。眠れない不幸…厄介なものだね。小さい子にこんな加護を与えるなんて、神様は何を考えてるんだろうね。」


…神様の考えることなんて分かるわけがない。

この加護を授けた暴食の神様の意図すら分からないのだから。他人の加護の意図なんて読み解けるわけがない。

今はそんな分からないことを考えるより、もっといいことを考えよう。少なくともあの少年の不幸は治ったのだから。



「おっ、これが不幸の味かな?」


ふと、ベッドの横を見ると、眠っている少年がすっぽりと入れちゃうくらいの大きな麻袋がどさりと置かれていた。

これが今回の不幸で出た物だろう。

袋を開けて中を見てみる。


「これって…ハーブ?しかもこんなにたくさん…」


心を落ち着かせるような良い香りのする乾燥した色鮮やかな花や草…恐らくハーブだろう。それが麻袋いっぱいに入っていたのだ。


「お茶にするのは定番だよね。あとはお菓子……うん、両方とも作ろう!」


早速ハーブの入った麻袋を台所まで持っていく。

袋からハーブを一掴み取って、細かく刻む。

ボウルに小麦粉をどっさり入れて、塩を振りかける。

牛の乳から取れた塊と、糖の欠片をスプーン5杯分、卵、刻んだハーブを加えて木ベラで混ぜる。

混ぜ終わったらボウルを冷えた木箱の中に入れて1時間寝かせる。

今日はただ時間が経つのを待つことはない。この時間でやるべき仕事があるから。

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