今後の方針を決めた日
「落ち着いたか、湊斗?」
「うん……」
ひとしきり泣いた後、僕は陽平の言葉で平静を取り戻す。感情をあんなにさらけ出したことが、今更になって恥ずかしくなってきた。耳が熱い。
「顔すごいよ。ちょっと洗ってきたら?」
中野さんが心配そうにそう言った。
「そうだな。ちょっと行ってくるよ」
とても顔を合わせていられなかったから、その提案をありがたく受け入れた。二人を席に残して、洗面所まで逃げるように向かう。いまだに見慣れない「僕」が、真っ赤に泣き腫らした目で鏡の中からこちらを見つめている。
蛇口をひねり、勢いよく出てきた水を両手に溜めて、顔に何度もぶちまける。ひんやりとした感触が心地よい。繰り返しているうちに、顔の熱さは引いてきた。まだ少し目の赤みは残っているけれど、もういいだろう。早く戻りたかった僕は、おざなりにタオルで顔を擦って洗面所を出た。
「それで、これからどうするんだ?」
部屋に戻るや否や、軽い口調で陽平が問いかけてくる。
「どうするって?」
「部活。辞めねえだろ?」
聞き返すと、あっけらかんと陽平が付け足して、麦茶を飲み干した。僕は陽平の言葉を頭の中で繰り返す。
思えばここ三日間はずっと、部活のことを考えないようにしていた。女になって、力も弱くなって、少なくとも今は泳げない。この先も泳げるようになるかもわからない。水泳部にいても惨めになるだけかもしれない。そんな嫌な考えが脳裏に浮かぶ。
「辞めない」
僕はそう強く断言した。
「そうか」
陽平はそれだけ言って、大きく息を吐いた。
「学校は? もうすぐ始業式だけど」
今度は中野さんから。そういえばもうそんな時期だ。
「……行くよ。行かないわけにもいかないし」
少し悩んだ後、そう言った。できるだけ知られたくはなかったけど、二人が来た時点で何かが吹っ切れたような気分だった。やけになったとも言える。
中野さんには他にも色々聞かれた。病院行ったかとか、何を着てるかとか。服がないと話したら、古着をいくつかくれることになった。本当にありがたいんだけど、僕の中で申し訳ない気持ちがかなり強い。
しばらく話して日も暮れて来た頃に、陽平が切り出した。
「じゃ、今日はそろそろ帰るか。揺音、行くぞ」
「あ、先行ってて」
そんな会話を交わして、二人は席を立つ。陽平は玄関の方にそそくさと行ってしまった。中野さんは机を回ってきて、僕に耳打ちした。
「困ったことがあったら、頼ってくれていいからね。
私にしか頼めないこともあると思うから」
なんでわざわざ、と思いながら僕が頷くと、中野さんは満足気な顔をして玄関の方に歩いていった。僕も見送るためにそれについて行く。
「じゃ、またね」
「無理すんなよ」
二人が扉を開けながらそう言ったので、僕は手を振って返す。扉が完全に閉まってからもしばらくそうしていた。ふと我に返って鍵をかける。金属音が寂しく響いた。
やっと中野さんの本名出せました