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僕が女になった朝

 朝六時。携帯のアラームがけたたましく鳴った。


 僕がそれを止めようと布団の中から腕を伸ばしたら、違和感を覚えた。机の上に置いているスマホに手が届かない。いつもなら軽く腕を伸ばせば届いていたのに。それになんだか布団が重い。眠いから、とかじゃなく物理的に。


 体を起こして下を向くと、白くて細い腕が見える。滑らかな肌だ。僕の腕はこんなに綺麗だっただろうか。いやそんなことはない。プールの塩素の影響で少し荒れていたはずだ。


 起き上がった時に、髪の毛が僕の首元を撫でた。さらりとした感触。僕の髪はこんなに柔らかかっただろうか。まさか。そもそも僕は髪を短く刈り上げていて、首元に触れるならチクチクとした感触になりそうなものだ。


 ふらふらと歩きながら洗面所まで行った。鏡に映るのは見慣れない女の子。Tシャツの裾が余って、ワンピースみたいになっている。彼女は困ったような顔をしながらこちらを見つめている。僕の姿はどこにも見当たらない。


 僕は藤田湊斗。

 今月から二年生になる一人暮らしの男子高校生だ。スポーツ推薦で今の高校に入った。水泳部に所属している。この一年間、頑張ってきて、中学生の頃と比べての成長を実感し始めたのは、つい最近のことだった。


 だから信じたくない。かわいらしい顔立ちに、首にかかるくらいの黒髪の少女。肩も細く、丸くなっている。これが僕が映るはずの鏡に映っているという事実は受け入れがたい。


 僕が右手を振ると、鏡の中の少女は左手を振った。僕が口角を上げると、向こうは微笑み返してくる。どこに行っても美少女と呼ばれるだろう外見。もし小学生の時に隣の席にいたら惚れてしまったかもしれない。


 だけど今の僕には関係ない。僕が鏡で見たいのは、肩幅の広いありふれた男であって、間違ってもこんな綺麗な女の子ではない。それでも鏡は依然として変わらず、僕に真実を突きつけてくる。


「……ふざけんなよ」


 呻くように出した声が洗面所に響いた。寝起き特有のかすれはあるが、少なくとも僕の声よりもはるかに高かった。声変わり前の時期が、ちょうどこんな感じだったような。


 頭の中でどうしたらいいかを考える。けれど現状をどうにかすような画期的な案は、僕には思いつけなかった。とりあえず今日は部活にいけないだろうと考えて、水泳部の顧問にメッセージを送った。


『体調が優れないので今日休みます』


 礼儀がどうとかは気にしていられなかったし、そもそも事態を説明できる気がしなかった。僕はそれを送るとすぐに、布団に倒れ込んだ。そしてそのまま眠りに落ちた。

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