すれ違いの行方【2】
嫌われ者の想いの続きです。
✦✦✦✦
浮気者の婚約者と婚約を解消してから半年が過ぎた。
もう少しで新しい年を迎えることになる。
わたくしは、未だにあの方とお話ができていない。
遠くからお姿を見る事はあるから学園内にはいらっしゃるはずなのに、元婚約者という共通項が無くなったせいか、お会いする機会に恵まれない。
……いえ、元婚約者がいてもいなくても、以前はお会いする事はできていた。
半年。
半年、すれ違うのは意図的とも言えるのではないかしら?
「……あの方にとって、何か嫌なことでもしてしまったかしら…」
お気に入りのベンチに腰掛け、読みかけの本を開いていたが気分がのらずぱたんと閉じた。
年が明けて数カ月すれば、卒業パーティーだ。
卒業すればことさら会うことは難しくなるでしょう。
不意にあの優しい眼差しを思い出してみると、心の奥がじんわり温かくなった気がした。
♠♠♠♠
半年。
俺は彼女を避け続けていた。
想いは燻ったまま、会いたい気持ちと会えない気持ちがぐるぐるしている。
あと数ヶ月すれば卒業だ。卒業すれば共通の知り合い主催の夜会などでしか会わないだろう。……いただろうか?
婚約破棄された彼女に新たに婚約者はいない。
幸い元友人が酷すぎて彼女に同情票が集まったのはほっとした。すぐにまた新しくできるだろう。
そこまで考えると胸がじくじく痛む。
何も考えず動けば良いんだが、あの眼差しを思い出して足が踏みとどまってしまう。なんと意気地がないと自分でも思うが、嫌われている相手にどう動けば良いか分からなかった。
うだうだ考えるうちに年は明け、卒業まであとひと月となっていた。
あとひと月でも授業はある。
実習教室の移動のため廊下を歩いていると、ばったり彼女に出くわした。
彼女は俺に気付き、一瞬驚いたような顔をした。俺は一礼し、足早に過ぎようとした。──が
「あのっ!」
なんと彼女に呼び止められたのだった。
✦✦✦✦
移動教室のため廊下を歩いていると、前からあの方が来ているのに気付いた。
どうしよう?多分、今話し掛けないともう会えなくなる気がする。そんな思いにかられ、おたおたしていると彼が顔を上げ、ばっちり目が合ってしまった。
驚きで跳ねる心臓。彼も驚き、一礼し
足早に去ろうとした。
どうにもできず、意を決して彼を呼び止めた。
心臓がばくばく鳴っている。
呼び止めたはいいけど、次は何て言えばいい?
ぐるぐると逡巡するがいい考えは浮かばない。
そうこうしているうち時間だけがいたずらに過ぎていく。早く何か言わなきゃ彼も私も遅刻してしまう。焦りだけが先に立ち、何も言えずにいた。
「あの………帰り、時間ありますか?」
思いがけない彼からの言葉に、勢いよくこくこくと頷く。
「もし良ければ、後程伺います。門のところで待ち合わせましょう」
わたしはさらにこくこくと無言で頷いた。
教室移動があるから、と足早に行ってしまった彼の後ろ姿を暫く眺めていた。
♠♠♠♠
待ち合わせの場所に早く行きたくて、授業が終わって俺は走っていた。
何か言いたげだったし、いい加減俺もケリをつけよう。いいきっかけになると思った。
門に近付くと、彼女の姿が見えた。
──ああ、やっぱり好きだ。
嫌われていても、どうしようもなく好きなのだ。
彼女が俺に気付き、振り向いた。
一歩一歩、彼女に近付き
「好きです」
そう、もらしていた。
✦✦✦✦
一瞬、耳を疑って、二人の間の時が止まったように感じた。
次第に彼の顔がぶわっと赤くなる。
「ああああのっ、その、あの、」
顔を真っ赤にして慌てる彼を見てると、つい口元が緩んでしまった。
そして
「わたくしも、ですわ」
そう、自然に声が出ていた。