表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

嫌われ者の想い【1】

✦…ヒロイン視点

♠…ヒーロー視点

 

 ♠♠♠♠


 俺は彼女から嫌われている。

 会えば睨まれ、軽蔑の眼差しを送られる。

 何が悪かったのだろうか。

 理由を聞こうにも避けられているのか話しかけもできない。


 せめてこれ以上嫌われないようになるべく視界に入らないよう息を潜めている。

 今の状況は俺にとってかなりキツイ。


 なぜなら

 俺は彼女の事が好きだからだ。


 幼少の頃令嬢令息集まるお茶会で出会い、一目惚れした。

 出会いの印象は悪くなかったと思う。

 彼女の朗らかな笑みに釘付けになった。


 残念ながら彼女は主催者令息の婚約者に収まった為、儚くも淡い初恋は報われる事は無かったが、彼女への想いは俺の心の中でいつまでも燻り続けている。


 嫌われていると自覚したのは、貴族のための学園に入学してから。

 それまでは彼女の婚約者の友人としてたまにお茶会とかで会う程度。


 特に嫌な目に遭わせたとかじゃないとは思うんだが……。

 好きな相手に嫌われているのはきつすぎる。

 それとなく友人に聞いてみるかな…。


 そう思って、俺は友人を探した。


 が、出会ったのは彼女だった。


 ベンチに腰掛け、本を読んでいる。

 伏し目がちに見える姿は美しく、俺は見入ってしまっていた。

 そんな視線に気付いたのか、彼女は視線を上げ…


 一気に眉間にしわを寄せた。


 ドクッと嫌な音を立てて心臓が鳴る。


 睨まれるのは今更だが、慣れるものではない。

 普通の貴族令嬢のように、愛想笑いだけでもしてほしいが、一度もその願いは叶わなかった。


 貼り付けられたように棒立ちになっていると、彼女は本を閉じ、その場を離れてしまった。


 秘めた想いが漏れ出てしまっているのだろうか?


 ………それなら彼女からしたらとても迷惑な話だ。

 婚約者でもない相手に想われるのは嬉しくないだろう。

 どうにかして繕わねばならない。

 いや、なるべく会わないようにして…。


 一刻も早く捨て去らねば。


 ✦✦✦✦


 婚約者の友人の方は嫌いではないのだけれど。

 わたくしの心を波立たせるから苦手だった。


 わたくしに義務的なこと以外見向きもしない婚約者より、ずっと優しい眼差しを下さる。

 見てると吸い込まれそうで、常に気を張ってないといけないから、あまりお会いしたくないのが本音。


 でも、婚約者の友人だから、気が付けば一緒にいたりする。

 今は他の女性に現を抜かしている婚約者が、わたくしを避けてる為お会いする機会は減っているのが幸いかな…。


 ………婚約者も婚約者だわ。

 わたくしが気に入らないなら早々に婚約解消でもして下されば良いのに。

 特に無理にでも政略結婚しなければならない理由は無いのだし。

 …もし婚約が無くなれば。

 修道院に入る前に


 一度だけ。


 お話ししてみたい………かな。


 ♠♠♠♠


  結局。

 彼女と友人は婚約を解消した。


「真実の愛を見つけたんだ」とどこかの女性と連れ立って、いつかの夜会で婚約破棄を叩きつけたと噂に聞いた。

 当然彼女の父親は抗議したが、相手方の両親は「愛する人ができたなら仕方ない」と甘い対応。

 それに怒った彼女の父が以前より調査していた内容を相手方に送りつけ、賠償金を請求した。


  曰く

  複数の女性と親密になり、夜の街で遊び呆けていたこと。

  どこそこの人妻にも手を出していたこと。

  同時進行は最大で5名にも及ぶこと。

  結婚したら妾として迎える予定の女性が最低2名はいたこと。

 

 これでよく生きてられるな、と我が友人ながら思ったものだ。

 しかし、これだけのことをしているなら婚約破棄されて良かったのかな…。


 俺は友人とは距離を置くことにした。

  ………彼女は遠くから見守る。

 婚約破棄されたなら俺にも可能性は出てくるか、と一瞬よぎったが、嫌われているのを考えたら無いな、と自嘲した。


 どうか、これからの彼女が、心安らかであるよう。幸せであるよう。

 遠くから祈っていよう。


 ✦✦✦✦


 婚約破棄されて良かったと、家族みんなで思ったものだった。


 あのあと元婚約者の醜聞は瞬く間に社交界に知れ渡り、一家はこそこそ領地に引き上げ、元婚約者は辺境に修行に行かされたそう。


 わたくしは。

 社交界で多少噂になりはしたもの、あまりに相手方が酷いため同情票が多く、むしろ周りから励まされた。

 お父様は「次は絶対しっかりした男を見つける」と息巻いていたわ。


 だけど、わたくしには心に決めた方がいると。


 その方でなければ結婚はしませんと言ったから、しばらくは静かに過ごせそう。


 一度だけ……

 お話ししてみたい、あの方ならば。


 そう思っていたけれど。

 なぜかあの方と学園でお会いすることはありませんでした。


次話へ続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ