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最強の軽トラ生命体

「マサル!お前は蘇ったのじゃ!最強の軽トラ生命体としてな!」


歓喜に満ちた義輝の声が小さな工場中に響く。

そして、軽トラックの中から

「じいちゃん……ちょっと待てよ!俺を軽トラに改造しちゃったの!?」

悲鳴のようなマサルの声が響いてくる。

義輝はいきなり号泣しだして、しばらく嗚咽を漏らすと

「違うんじゃあ……おまっ……うぅ、おまっえは……マサルのコピーじゃ」

いきなり軽トラの側面にすがって泣き崩れだした。

「……ああ、本物の俺は交通事故で死んでて

 じいちゃんが謎技術で、人格だけこの違法改造軽トラにコピーしたみたいな……」

対照的にマサルは冷静な声で現状を客観的に言い表した。

義輝は作業着の中から取り出したハンカチで鼻をかむと

窓の開いている運転席の扉に縋り付いて

「うぅ……さすが、我が孫じゃ……理解が早い。

 もっと、苦しむものかと……」

「いっつもこんな感じだったでしょ……。さすがに分かるよ……。

 で、どうすんの。この俺になった軽トラ、もう公道走れないだろ?

 どうせ、謎技術で中身パンパンで車検なんて通らないだろうし」

義輝は必死な形相で


「まっ、マサル、わしは考えたんじゃ!

 異世界じゃ!異世界に行けばいいんじゃ!

 異世界で自由にどこまでも走り回るんじゃよ!」


身振り手振りで軽トラの側面に向けて必死にそう告げてくる。

「……じいちゃんさ、軽トラになった俺が言うのもなんだけど

 頭、ボケた?」

「何てこと言うんじゃ!この上花田義輝、まだまだボケとらん!

 マサル、いきむんじゃ!トイレでやる感じで!

 そしたら、エンジンが始動する!」

「……じいちゃんさー俺、軽トラになったとはいえ、デリカシーは必要だろー?」

「すっ、すまん。興奮しすぎていてつい……」

義輝が顔を真っ赤にして、俯くのと同時に横づけにされた軽トラックの駆動音が響き渡る。

「よっ、よし!マサルデバイスのオート制御は順調じゃな!」

「お、おお、目が見えるよ!すげぇクリアだ!」

軽トラックのフロントライトが瞬きするようにチカチカと瞬いた。

「よしよし、では、次はわしとマサルで異世界に理論上は可能な装置を開発しておいた……」

そこでいきなり、工場の鉄扉が開いて


「義輝さん!!」


身長百七十センチ以上はある筋肉質なエプロン姿の老婆が

怒った口調で名前を呼びながら入ってきた。



五分後。



軽トラの正面と正座してうな垂れた義輝が並んで

仁王立ちした長身の老婆が腕組みしてその光景を見つめていた。

「義輝さん……あんた、とうとう孫を機械にしてしもうたね」

眼光鋭く老婆から睨まれた義輝が禿げ頭をかきながら

「違うんじゃ……本物のマサルは間違いなく死んどる。

 ここにおるのは、コピーじゃ」

老婆は厳しい表情のまま

「……コピーでも人として許されんことやろが?」

「……そうやな」

うな垂れた義輝の隣の軽トラから

「ばあちゃん、そんな怒らんでやってよ。

 まぁ、俺はコピーなんだけどね、一応マサルだよ」

あっけらかんとしたマサルの声が響いた。

老婆は深くため息を吐くと

「マサル、苦しくないんか?」

少し心配した声をかける。

「いや、快適って程ではないけど、気分はそんなに悪くないかな」

「そうかぁ。義輝さん、軽トラにしたマサルはこれからどうするんね?」

老婆から見下ろされた義輝はうな垂れた顔で

「異世界に転移させて自由に走らせる予定じゃ。わしもついていこうと思っとる」

老婆は眼光を更に鋭くさせて

「……あんたは、行ったらいけん。

 マサルだけや。それで終いにしなさい」

義輝はしばらく苦悶の表情で口を閉じたまま、立ちあがると

大きく息を吐いて

「そうじゃな。早苗さん、わしは残るべきやな。

 あんたというものがありながら、すまんかった……」

そうして、老婆としばらく無言で抱き合う。



さらに五分後。



義輝と彼の指示を受けた妻の早苗は、テキパキと軽トラックから機器から伸びるコードなどを取り外していく。

完全に軽トラックから全てのものが取り外されると

義輝は意を決した顔で

「マサル、悪いな。爺ちゃんはいけんなってしもたわ」

軽トラックの窓の開いた運転席に向けて声をかける。

マサルは諦めた口調で

「いや、別にいいんだけど、その飛ばされる異世界ってどんなの?」

義輝は急に顔を輝かせて

「わしが虚数空間観測装置を用いて発見した異次元世界じゃ。

 ここ二年程観察していたが、パラレルワールドとも違うようじゃな」

「そこ……人間居るの?

 そもそも、俺、還ってこれるの?」

義輝は、鋭い眼光の早苗に見つめられながら

「……正直に言うと、行き来は簡単にはできんと思う。人間はおるが、進化の仕方が少し違う。

 向こうで帰還する方法を探そうかと思っとった」

「義輝さん、二度と行こうとしたらダメやで」

「はい……」

義輝はうな垂れながら

「すまん、マサル、じいちゃん、こっちの世界からお前をサポートするかなぁ……」

「はぁ、まあいいよ。ところで燃料とか大丈夫なのこの軽トラ」

「問題ないわ!帝国技研が戦時中に極秘に入手した二コラ・テスラの永久発電機関を搭載しとる!

 まぁ、わしがガメたんじゃけどな!当時の官憲には偽物掴まされたと言っといたわ!」

早苗に無言で睨まれて、義輝は焦りながら

「ちっ、ちがっ……若かりしわしはこのようなオーパーツを当時の戦争に明け暮れていた愚かなる人類にはまだ早いと……」

早苗が義輝の背中を軽く叩いて

「とにかく準備は終わったで。マサル、あんたは賢い子やった。

 ばあちゃんが、何考えてるか分かるやろ?」

十数秒間が開いた後に

「まぁね、こんな魔改造したヤバいトラック、狭い里の中で誰かに見つかったら大ごとになるからね。

 いいよ。黙って行ってくる」

早苗は申し訳なさそうに顔を歪めて

「あんたには、死んでからも苦労をかけるなぁ。

 ばあちゃん、その異世界とやらであんたが、新たな幸せな人生を歩むのを祈るわ」

「ばあちゃんさー、軽トラだろ俺。少なくとも人生ではないんじゃないの」

マサルの呆れたような諦めたような声が小さな工場内に響いた。



一時間後、深夜一時。



人けのない一直線にふもとまで降りる山道の頂上付近の舗装された道に

ライトの点いた軽トラが停まっていて、その横にはライトを持った義輝と早苗が立っている。

「要するにここを一直線に下ればいいと」

冷静なマサルの声が、窓の開いた誰も乗っていない軽トラの運転席から聞こえる。

「そうじゃ!この角度を直進で降りつつ、反物質シールドを前面に展開して

 時速五百キロに達すれば、次元の割れ目が非常に高確率で前方に開く。

 そのまま走り込めば、あとは虚数空間自動制御装置が、目的の異世界へと導くはずじゃ」

「……子供のころから、ずっと疑問に思ってたこと言っていい?」

マサルの冷静な声に義輝は首を傾げると

「じいちゃんが本気でやれば、余裕で世界征服でも何でもできるよね?」

早苗がいきなり腹を抱えて笑い出し、そして

「あっはっは!マサル、この人にそんな度胸はないわ!

 自分の実験を世に隠れて細々したいだけの青病譚のインテリじゃ」

義輝は照れた顔で頷いてから

「マサルや、付け焼刃じゃけど、異世界の情報は覚えとるな?」


「うん。ハイディースってとこなんだろ?

 人間が魔法とか使えるとか、よくわかんないけど、大丈夫でしょ、この軽トラなら」


「よろしい。向こうに行ったら車内の無線機を常にオンにするんじゃぞ。

 こっちの次元間周波数が合い次第、連絡するからの」

「……じゃ、行ってくるよ」

早苗と義輝は黙って頷いた。

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