霊感娘は異世界幽霊を成仏する
霊感少女が異世界の幽霊屋敷に飛ばされた。
@短編その73
ちっとも怖くない、ハートフルな話。
「霊が見える」
こんな事を言う子に、誰でも一生に一度か二度はお目に掛かるのではないだろうか?
本当に見えそうな子や、嘘でさも見えると言っている子、色々いるけど・・・
彼女、藤井潤は本当に見える子だった。
そして、会話まで出来る子だった。
さらに成仏させる力も持っていた。
現代社会では生き難い子だった。
彼女は気がつくと・・・
知らない建物の中に立っていた。
西洋建築のような、石組みの建物だ。
彼女は先程まで、高校の教室で授業を受けていた。
嫌いな科目だったので、浮遊霊をみていたのだ。
そうしたら、いつもの浮遊霊とは違う姿の何かがゆらゆらと彼女に近寄ってきて・・・
イッショニキテ
声?を聞いた瞬間・・・・
ぽつん、今の場所に立っていたのだ。
「困ったわね・・・今日の夕食、お母さんにシチュー頼んだのに」
娘が帰らなければ、心配するだろう。
作ったシチューを抱え、途方に暮れるかもしれない。
・・・このように、彼女は普通の子とは感性が違った。
不安で泣いたりする所が、どこかずれていたが、親に対しては『申し訳ない』と思った。
「とにかく元に戻る方法を探すべきね。ここは私が暮らす場所ではないし」
てくてくと歩くと、扉を見つけた。大きな木の扉だ。
押してみたが動かない。
ぐいぐい押すが、鍵でも掛かっているのだろうか。びくともしない。
よし、体当たりだ!
彼女は勢いをつけて、ドアに突進・・・だが急にドアが開いて、彼女は吹っ飛ばされ、廊下に転がった。
このドアはこちらからは引いて開ける仕組みだった。
先人は言っていたではないか。『押してもダメなら引いてみな』と。
「わ!なんだ?」
ドアを開けた誰かの声だ。どうやら男のようだ。
廊下に転がった彼女は、強かにお尻を打ち、大の字で転がっていた。制服はセーラーで、スカートが捲れて下着がもろに見えていた。太ももも丸見えだ。
強くお尻を打ったので、すぐには立ち上がる事が出来ない。
「いたたた・・・」
ようやく体を起こすと、男が突っ立ったまま、彼女を凝視している。
助け起こすとかしないのか、こいつ。
彼女は一瞬むかっとしましたが、すぐに冷静になりました。
ああ、私はモテ顔ではないし、見知らぬ人間だからね。用心ているのかな?
彼女はよろめきながらも立ち上がります。
男はまだ突っ立ったままこちらを見ています。
もしかして口が聞けない人なのかな?
ふと、足に視線を移すと・・・無い!!足が無い!!
幽霊さんだったのか。でもドア開いたよね・・・ああ、霊力で開けたのかな?
でもこの幽霊さん、足・・膝下が透けて消えているが、体はしっかりしていて上半身だけ見たら幽霊には見えなかった。
「あなた、ゆーれいさんですか?」
「え・・僕が見えるのかい?」
やはりゆーれいさんでした。
ゆーれいさんの名は、レオパルド。伯爵家の嫡男でしたが、親族との権力争いで暗殺されてしまったのだとか。
彼の姿を見ることが出来たのは、彼女が初めてだそう。
他の人には、黒い影のように見えるのだ。
彼は殺された場所・・ここ伯爵家の館に、今も彷徨っているのだとか。
「うるう、君だけだ。僕を見る事が出来るのは。なんだか嬉しいな」
享年17歳のレオパルドは、彼女と同い年だ。だからなんとなく心寄り添っていくのを感じた。
親族は仲が良かったのに、権力争いに巻き込まれてからは諍いが絶えず・・ついに彼は殺された。
「大変だったね、レオパルド。わたしが成仏させてあげようか?」
「じょうぶつ?」
「うーーん。この世界的に、成仏って観念は無いのかなー。神様の元に召されるというか」
「かみさま?」
「え、神様いないんだ?うーーんうーーん」
うるうは考えました・・・
「そうだ!安らかに眠る!どう?」
「どうと言われても」
「だって、ひとりぼっちで屋敷を彷徨うのも楽しくないでしょ?甦りたくない?新しい人生を歩みたくない?」
「よみがえり?」
「また新しい人生に生まれ変わるのよ」
「そんな事が出来るのかい?」
「出来るわよ」
レオパルドは優男で、剣などの戦いをしそうにない体格だ。あっさりと殺されてしまったのだと、彼女にも予想出来た。
そのレオパルドの視線は、彼女の足。ちらちらと見ている。
「どうしたの?私の足、何かついてる?」
「あ、いや・・足を晒しているな、と・・・」
「足が珍しいの?」
「・・・足を晒すのは・・・その・・・花街の女くらいで」
「はなまち?」
「・・・娼妓だ」
「しょうぎ?」
「・・・女郎ともいう」
「ああ!!・・・ああ・・・私の国では、これは普通なんですよー。レオパルドったらエッチですねー」
「えっち?」
二人は言葉の相違に、戸惑ったり納得したり。
思春期だったというか、思春期真っ只中のふたりである。
「そういう事体験しないまま死んだんだね・・・それが心残りだと」
「・・・・・・」
「んもう、すけべさん!」
「すけべさん?」
「好色」
「あ、ああ。いや、まあ・・・」
彼は顔を真っ赤にして俯いた。可愛いな、と思った。
ユーレイ彼を、彼女はなんとかしてやりたいと思いはするが・・・
そして閃いた。
スカートをぴらぴら〜と手で振って、タコのように体をクネ〜と動かしてみた。
「ど、どうでしょうか!!」
「・・・・ご好意感謝申し上げる」
色気は皆無だった・・・
大サービスをしたつもりでした・・・
「でもここにいたって、いい事なんかないでしょ?成仏して、転生する方がいいと思うよ」
「どうやって?」
「私はなんと、そういう力を持っているのですぅ〜〜〜」
「なんと」
彼女はなんだか・・・分かっちゃいました。
このかわいそうな魂を、成仏させて欲しいと、誰かが願ったのです。
誰だかわかりませんが、多分そうなのでしょう。
「では、成仏しますよ!!レオパルドさん、祓いたまえ浄めたまえーーー!!」
すると彼の体から、マナがぽぽぽと玉の形の光となり、いくつも現れて・・・音も無く消えたのでした。
彼女も一緒に、同時に姿が消えました。
「潤さん、帰りますよ」
「ああ、はーい」
教室を彼女は同級生の男の子と出ていきます。
その様子をクラスメイトがじっとみて・・・
「手塚、最近更生したのか?あいつ不良だったじゃん」
「事故がきっかけで、自分の事考え直したんだとよ。馬鹿なことばかりしてたなって」
「あの藤井さんとつるんでいるってのがさ」
「噂では、死にかけだった手塚の魂を引き留めたんだと」
「本当かよ」
変な噂が飛び交っているが、実は・・・
異世界から彼女は戻り、無事に母のシチューを堪能した。
翌日高校へ向かう途中、交通事故を目撃。
それが先程の手塚くんだった。彼のバイクが、後ろから来たワゴンに追突され、意識不明に。
そして、彼の魂が抜けて消えたのを見て、『ああ、死んだな。安らかに・・成仏してください』と思っていたら・・・ふわり。
マナを纏った魂が現れたのだ!見覚えのある輝きだ。潤はすかさず・・・
『お入りなさいませーーーー!!!』
倒れている手塚の頭に、魂をしぱーーーーん!!と叩きつけて定着させたのだった。
「・・・あ。うるう、さ・・ん・・?」
「定着完了!!」
こうしてヤンキーで悪だった手塚くんは天に召され、潤が元の世界に帰るときに付いてきてしまったレオパルドの魂が体に定着。
入院中、ふたりはつじつま合わせのために大いに話し合った。
潤だって友人ですらない手塚の性格や人生を知るわけでない。全部記憶喪失で忘れた事にした。
急にいい奴になって、周りは戸惑うが、一番戸惑ったのは父親だった。
母親とは離婚してるので、父とふたりで暮らしていた。
まるでレオパルドの住んでいた屋敷のように広い館なので、家政婦が通いで家事をしてくれていた。
よくありがちな反抗少年だったようだが、レオパルドはなんだか嬉しそうだ。
元の世界での、父上になんだか似ているのだそうだ。できれば仲良くしていきたいとか。
彼はいい人なので、うまくいくに違いない、潤はそう思った。
なんだか上手くいきすぎている感は否めないが、そのように誘導されても幸せなら、良しとする。
異世界からの転移、転生者の特別付与、異世界の文字が読める、話せるはレオパルドにも適応されていて、ドイツ語もロシア語も中国語も、その他外国語は読み書き出来た。
この世界の学問も、付与効果で理解が早かったので、すぐに高校レベルまで追いつくようだ。
彼の能力はそれだけではなかった。
長らく幽霊で生き続けてきたので、幽霊を見る事が出来るようになっていた。
「じゃ、依頼をひきうけるけどいい?」
「いいですよ、うるうさん」
「レオ、んじゃ行きますか!」
手塚くんのフルネームは手塚獅子雄。獅子、レオだ。
ふたりはネットで『幽霊お悩み相談室』なる秘密のぴーーーーーで依頼を募集している。
ふたりのHPにたどり着けるのは、本当に悩み、苦しんでいる人だけ。
ひっそりこっそり、人の為に、苦しむ霊の為に暗躍しているのでした・・・
さて、レオパルドのいた世界では・・・
「ようやくこの屋敷を壊す事が出来るわ!」
貧乏伯爵令嬢がにこやかに古い屋敷を見上げます。
「どなたかは分かりませんが、屋敷の幽霊を追っ払ってくれて助かりましたな、お嬢様」
イケメンだけどどこか小狡そうな執事が、側で受け答えます。
「ここは王都にも近い一等地だものね!ようやく社交界デビューの資金が用意できるわ!」
彼女はレオパルドの遠い血筋の娘だ。
結局レオパルドの伯爵家は豊かにはならず、貧乏なままだった。
去年両親を亡くした伯爵令嬢は、社交界で良い夫を見つける為の資金を稼ぐ為に屋敷の土地を売りたかった。
だが、幽霊がずっと住み着いていて、建物を潰す事が出来なかったのだ。
彼女はずっと祈り続けていた・・・
「女神様や神父様にお祈りしたいけど、そのお金も出せないの。どんな神様でもいいの!お願い、屋敷の幽霊を追い出して!!」
それを聞きつけた女神の助手は、『ちょっと手心』を加えてあげましたとさ。
貧乏伯爵令嬢が目出度く旦那様を手に入れる事が出来たかは・・・・神のみぞ知る?
思いつくまま、ほぼ1日1話ペースで書いています。
目標は365話。
最近意地になってきた。そろそろ仕事が忙しくなるのに・・
書く事に意義がある。そう信じる。9月は何かテーマを決めて話を書くかな。
お題考えるのが一番苦労する。