9話 サークル内対抗戦『1日目』-1
GW明けの最初の週末、体育館には体験会以来の人数が集まっていた。
サークル内対抗戦のルールは総当たり戦で2日間かけて行われる。参加するレグは男子が10レグ、女子が6レグ。
「将基っ、準備はできてるか?」
「あぁ、問題ない、なんだか緊張するな」
小刻みにジャンプをして体の力を抜こうとする。
自分の心臓の音が聞こえる。なかなかに緊張しているようだ。
練習でも試合は何度もしたが、こういった真剣な試合は初めてになる。その上練習での相手は同学年とばかりだったが今日は先輩達とも試合をする。
というか1年生で参加してるのは俺のレグと津田のレグだけで他は「どうせできないです」といって参加をしていないため、ほとんどが先輩たちとなる。
俺はできるできないに関わらずチャンスがあればやればいいと思うのだが色々な考え方があるんだろう。
さっそく1試合目の相手は2年生3人のレグだ。実力的には可もなく不可もないといったところで特徴もそれほどない。
あれこれと考えているといつの間にか試合は始まっている。
主審のコールがあり、相手チームの1人がサーバーへボールを投げる。
いつの間に始まっていたんだろうか、キャプテンである自分が相手のキャプテンと主審とで挨拶を交わしコイントスが当たってレシーブを選んだはずなのに頭はボーッとしているかのようだ。
サーブーは飛鳥が難なくとレシーブをして銀がトスを上げている。
試合の始まりの1本目のサーブということもあり安定を取ったサーブなのだろう、それほど速くないように思える。
飛鳥も銀も特に緊張していないようだ。
トスを上げる銀を見ていてあることに気づく。しまった、俺がアタック打たないと。
アタックに入るのが遅れてしまった。間に合うか、助走をつけて右足に力を入れ踏み込む。
ボールは思っているよりも自分へと近づいてきて右足のスネに当たった。
ダメだ……間に合わなかった。
本来アタックは足の甲に当てて打つ。それがアタックに入るのが遅れてしまってスネに当たったのだ。
だが運が良かったのか先制点を取ったのはこちらだった。
スネに当たったボールはひょろひょろとゆっくり飛んでいき相手コートへと落ちる。
カツーンカツーンとボールが跳ねる音だけが聞こえ、まるで時が止まっているようだ。
臀部への衝撃と共に周りの音が戻ってくる。
飛鳥が呆然と立ち尽くす俺のお尻を蹴ったようだ。
「フワフワしすぎだろ、なにやってんだ」
その顔は呆れを通り越して少し笑っている。
「なにさっきの……フフッ、新しい技なの……フッ」
銀は必死で笑いを堪えていた。
「あっあぁ、ごめん」
主審に早く構えるようにと促される。
先程よりも速いサーブがこちらへ飛んでくるがもはや緊張はなかった。
何か吹っ切れてしまったようだ。
ボールの軌道に合わせ頭を下げてレシーブをする。次は遅れない。
完璧なタイミングで飛び右足を振り抜く。ボールはブロックの上からコートへと叩きつけられた。
先程のスネアタックはセパタクローを始めてから最悪のアタックだった。
逆に今の一撃はセパタクローを始めてから最高のアタックだった。
3本目のサーブはネットがボールを阻み、サーブミスで3点目を獲得した。
1本目はちょっとあれだったが流れは悪くないし、立ち上がりとしては悪くない。
飛鳥のサーブはインサイドサーブで今では頭の高さの位置でサーブが打てる。
先に3点取れてることもあって攻めたサーブを打つものの、そこはさすがというべきか見事なレシーブを見せる。
しかしそれでも飛鳥のサーブは良かった。3本のうち1本はエースをとった。
そのままの流れで持っていけるかと思ったが、セット中盤15対15に追いつかれてしまう。
序盤は良かったものの、徐々にこちらの動きに慣れられてしまっている。
元々経験では断然劣っているためこの展開は予想はしていたがここまで早いとは考えていなかった。
次の3本のサーブは非常に重要になる。
セパタクローはレシーブ側が圧倒的に有利である。
次の3点を取れば飛鳥はサーブで攻めることができ失敗したとしても18対18でこちらがレシーブになり有利となる。
もし3点取られてしまえば15対18で相手がレシーブになりこちらは圧倒的に不利になってしまう。
「あれやろっか……」
銀が小さく呟くと飛鳥が首を縦に振る。
15対15からの1本目のサーブ、リスクを上げた良いサーブが入ってくる。
銀は膝でレシーブをしてトスを上げるが、そのトスはここまでに上げてきたトスとは違う。
今までのトスはゆっくりと高い放物線をネットを正面に左側の方に上げていた。
アタッカーはレシーブをするのを確認するとネットの中央あたりで構える。そのため助走を取れるように左側にトスを上げる。他にも細かい理由はあるらしいが、大体のシザースへのトスはその位置に上げる。
しかし、今上がっているトスはネット中央でアタックの構えに入っている自分の真上あたりを通過して相手コートへそのまま返ってしまうような軌道をとっている。
違うのはゆっくりと高い放物線ではなく、それは低く速いトス。
もちろん銀がそのままツーで相手コートへ返す攻撃ではない。
俺は自分へと向かってくる低くて速いトスを少しジャンプしてネットを越える前にシザースの構えをとる。
ネットを超えてから打つと反則だが越える前に打つのは問題ない。
しかし、そのアタックの打点は低い。なぜならそもそものトスの通過点が低い上に、助走が取れないためジャンプの高さも出ないからだ。
だがアタックは相手コートへと叩きつけられる。