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8話 バチバチのGW-2

 レグが結成されてから数日が経ちGWも終わりが近づいてきている中、体育館では熱い話し合いがされていた。

「トスはもう少しネットから離してくれないかな」

「オーバーしてる訳じゃないから打てるでしょ」

 ネットに近いトスを打つためには高い柔軟性と跳躍力が必要になってくる。それもなく無理に打つとタッチネットをしてしまう確率が高い。

「それは分かってるけど、今は触るのが限界で打てないんだよ」

「じゃあ少し離すよ」

 不服そうではあるが折れてくれた。

 銀も初めの頃の無表情で何を考えてるか分からない時に比べればかなり感情を出すようになってきた。未だにほとんど無表情ではあるけど……

 薄々とは気づいていたが銀はただの腹黒野郎だということが分かった。


「そういえば飛鳥、レシーブは蹴り上げないでって言ったよね、トスが上げにくいんだけど」

「センターサークル辺りには落としてるんだから別にいいだろ」

 よく先輩に注意されるのがレシーブは蹴らずに止める。最近になってちょっとだけ理解できるようになってきた。

「高すぎるし変な回転がかかってるから」

「分かった分かった気をつけるよ」

 俺からすれば飛鳥のレシーブも十分凄いとは思うけど、銀からすると違うんだろうな。

「将基はブロック下手すぎ。適当に飛ぶなって」

「適当な訳じゃないって、トスを見てどっちにするか決めて飛んでるよ」

 ブロックには2種類あって背中ブロックと足ブロックだ。

 どちらも名前の通りで背中ブロックはネットに背中を向けて垂直に飛び、高さをカバーできる。足ブロックは足からお尻までを使ってブロックし横に強い。

 相手のトスの位置が近いか遠いかで判断をする。基本的に近ければ背中、遠ければ足という感じだ。

「違うって、ブロックが流れてレシーブの位置と被ってるからアタックが見えないんだって」

「……はい」

 見当違いだったみたいだ。ブロックは空中で止まらないといけない。横に飛ぶのではなく縦に飛ばないとブロックが流れてしまう。


 ヒートアップし過ぎた話し合いを止める女の子の声が聞こえた。

「はいはい、そこまでにしときなよ」

「歩未のレグの方はいいのか?」

 歩未も1年生同士でレグを組んでいる。少し心配そうな顔で尋ねるのは飛鳥だ。

「大丈夫だよ、いい感じいい感じ」


 こんなやり取りをしていると体育館の空気が少し変わり、男がこちらに近づいてきて飛鳥に話しかける。

「よぉ、元気だったか?」

「何かようか」

 少しムッとした表情で男を睨みつける。男は津田康介、以前に歩未に対して傲慢な態度をとり飛鳥とは一発触発とまではいかないまでも良くはない関係性になっていた。

「レグを組まないか?」

「あいにくこの2人と組むことになってる」

「マジかよ!? そんな球蹴りもできない奴と球蹴りしかできない奴と組むのか」

「勘違いしてるよ、俺はこの2人なら勝てると思ってる」

「面白い冗談だな」

「そうでもないさ」

「今度のサークル内対抗戦楽しみにしてるよ」



§



「クソがっ、ムカつくぜ」

 男は壁に向かって自分で投げたボールを強くサーブする。

 男は初日に球蹴り100回を達成していた。

 セパタクローはマイナースポーツだが実際に目にすると派手で誰もが思うだろう。凄いスポーツだと。

 自分にはこのスポーツが向いていると思った。特に高身長で柔軟性も活かせるサーバーはベストなポジションだと思う。

 初日の練習で球蹴りが100回できたのは3人だけ、俺と高倉飛鳥、藤和銀だ。

 高身長で柔軟性もあって球蹴りもできる。期待の星だとチヤホヤもされたが、蓋を開けてみると球蹴りもできない奴らと同じメニュー。

 しかもその中にはスポーツ未経験で球蹴りが10回もできない奴も混ざってる。

 俺ならもっと高いレベルの練習でも問題ないのにできない奴に足を引っ張られる。

 次第に球蹴りの時間を避けて練習に遅れて行くようになる。出来ることに時間をかけるなんて無駄すぎる。


 飛鳥のことは認めている、なかなかにできる奴だ。よくあんなできない奴らと一緒に練習して耐えれるなとも思うが内心では嫌がってるかもしれない。

 飛鳥と組んで実力を証明して先輩と同じメニューにしてもらう予定だ。

 飛鳥も俺もサーバーだが、どちらかぎトサーをやればいいだろう。球蹴りはできるし問題もない。トサーのやることは所詮球蹴りみたいなもんだ。

 交互にサーブを打って相手を混乱させるのもアリだな。


 そう思っていたがまさか断られるとは思わなかった。それどころかあの2人とレグを組むだなんて考えられない。

 将基は球蹴りもできないしアタックもパッとしない。

 銀も最初は凄いと思ったが聞いてみるとなんて事はない、数ヶ月前からやってたってだけだ。しかも未だに球蹴りしかせずに他のことをしようとしないな奴だ。成長する気もなく、できることだけをやっている。


 何にせよ飛鳥に断られたからには他でレグを探すしかない。

 アタッカーは元々目をつけている奴がいて話はしてある。飛鳥とそいつで組む予定だったのだが、後はトサーを探さなければいけない。最悪、球蹴りが上手ければ誰でもいい。


「石橋、あいつに断られたわ」

「マジで!? もう1人どうすんだよ」

「適当な奴に声かけてみるわ」

「それで大丈夫かよ、先輩に声かけてみたら?」

「いや、それはちょっとな、レグで先輩風吹かされても嫌だろ、自由にやりたいし」

「それはそうだけど……」

「大丈夫だって考えもあるから」



§



「ハァー長旅だったね」

「めちゃくちゃ疲れたよ」

「結果はあれだったけど楽しかったよ」

 新潟県から東京へと戻る車の中では寝るものもいれば携帯を触るもの、会話を楽しむものとそれぞれの性格を反映していたように過ごす。

 車内の人間が全員同い年ということもありリラックスしているのだろう。

「でもすぐにサークル内対抗戦でしょ、どう思う?」

 運転をする女性は起きているものに問いかけた。

「Aレグがそのまま残るでしょ」

 Aレグはアタッカー篠宮玉樹(しのみやたまき)、トサー藤和金(とうわきん)、サーバー大槻角栄(おおつきかくえい)の3人共が3年生のレグだ。

「いやぁ、どうだろう分かんないよ」

 周りの予想はAレグが圧倒的に本命だったが真面目でお人好しな玉樹は本心からそう思っていた。

 その真面目すぎる性格故にたとえ格下が相手だったとしても手を抜くことはない。

「金の弟はどうすんだろ、金とは真逆すぎて面白いよね」

「そういえば、さっき連絡があってレグが決まったてさ」

「そうか、今年の1年は優秀なのが多いから楽しみだよ」

 いろいろな話題でワイワイと盛り上がってる車の前をいく車はまた様子が違っていた。

 こちらの車は全員が4年生で話題はセパタクローというよりもゼミや就活などの話になっている。

 それらの話題が一区切りすると1人の男が切り出す。

「次の代表とか決まってんの?」

 まだ春先で早いと考えるかもしれないが、大学の4年生は忙しい。

 授業に出ることはほとんどなくなる代わりにゼミであったり卒業論文、就活でサークルに時間を費やすのが難しくなる。

 そのため盤上大学セパタクローサークルでは例年決まって春の学生大会後に世代交代をすることになっていた。

「正直迷っている。どうするべきなのか……」

 現代表である西山は迷っていた。

 こんなにも部員数が増えてきたのはここ数年の話で西山が1年のときはもっとこじんまりとしていた。西山が引き継いでからの運営も大変だったが今はさらに人が増えている。

 特に次の年はサークルの転換期になるかもしれないと考えていた。誰を代表にするかでサークルの方向性がガラッと変わってしまう。

 4年生内でも話し合いはしているが未だ答えは出ないでいた……

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