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6話 セパタクローの練習-2

「凄い痛いんですけど……」

「まぁ、慣れるしかないよ」

 頭が割れる様に痛い、原因はサーブレシーブだ。アタッカーの基本は前傾姿勢で頭レシーブをすること。

 レシーブをしてすぐにアタックの体制に入らなければいけないため、構える位置が全ポジションの中で最も前に位置する。近づいている分、おのずとサーブは足元ではなく足よりも高い位置に飛んでくる。

 膝や太腿を使ってもいいがそれだと前傾姿勢が保てずに重心が後ろへいってしまうためアタックに入るのが遅れてしまう。

 そうなると選択肢は頭しかなくなる。

 問題はボールが硬すぎること、こんなにも硬いボールが豪速球で飛んできて頭に衝突するのだから痛いに決まってる。

 先輩達に相談しても慣れるしかないとの一辺倒。

 慣れたといえば、最初は球蹴りするときもくるぶしが痛かったな。

 くるぶしはいくつかの対処法があって、靴下を二重にはいたり、靴下の下にパッドの様なものを入れたり、サポーターをしたりと保護をしてなんとかなったが、頭はどうしようもないらしい。


 ちなみに頭でのレシーブはアタッカーが最も使用頻度が高い。サーバーはほとんど使わないな、構える位置的にサーバーの頭にくるボールはアウトになるからだ。

 トサーもちょこちょこ使用するが、銀は頑なに使おうとしない、それどころか使わないように構える位置を後ろにさげている。

 藤和さんを含め、先輩数人に注意されていたが鋼の意思で断固として拒否している。


 そんな拷問(俺にとっては)が終われば練習も終盤、先輩達は試合で新入生は球蹴りかつり球を行う。

 バスケットゴールに括り付けられた紐の先にはセパタクローボールが括られていて垂れている。

 紐によって空中で止められたボールをアタックなりサーブなり打つ。これがつり球。

 ボールが止まっているため、落ちてくるボールのようにタイミングがズレることもないので気持ちよく打てる。


 普段ならつり球に時間を掛けるとこだが、球蹴りが目標に達していないため今日はつり球を諦めることにする。

 球蹴りをやるかと思った矢先、津田が代表の西山さんと話しているのを目にする。

 なんだろうか。今日の事で相談でもしてるのかなと思ったが、津田は体育館から出て行って帰ってしまった。

 噂によると単純に帰っただけらしい。「辞めるかもしれないな」という声もあるが、実際は分からない。



§



「将基何する?」

「飛鳥、今日は球蹴りに集中しようと思うから」

「りょーかい、銀にも言っとくわ」

 練習が終わってからも1時間体育館は開放されていて、この時間は自主練習になる

 30分ほどもすればパラパラと人が減っていくが新入生で俺と将基、銀、歩未はこの3週間、途中で抜けたことはない。

 多くの人が試合で時間を潰す中、俺たちは球蹴りやレシーブ、つり球といった地味で根気のいる練習を集中的に行なっている。


 正直な話、3人がここまで練習に打ち込むとは思っていなかった。

 将基は高校の時、野球部を途中で辞めてると聞いていたし、銀は無表情でやる気を1ミリも感じないし、歩未も気弱な性格で続かないと思っていた。

 でもこの2週間で気づいたことは全員が超負けず嫌いなこと。

 普通のやつなら地味な練習なんて嫌がって自主練は派手なことをしたがるもんだが、俺たちの様な初心者には地味で根気のいる練習こそが上手くなるための近道だと俺は思っている。


「飛鳥くん、今日はごめんね」

 歩未が気まずそうにしょぼしょぼと近づいてくる。

「別に気にすることないだろ、そんなこと考えるより練習しよ!! 今日は何する?」

「球蹴り頑張ろうと思うよ」

「将基と一緒か、じゃあ今日はつり球でもやろうかな」

「銀くんは?」

「銀は無理だろ」

 銀は基本球蹴りしかしない。どれだけ誘っても球蹴りするからと断られ続け諦めたのだ。

「誘ってみたら分かんないよ」

「誘うだけ誘っとくよ」



§



「なんなんだよ」

 荒くなった息をなんとか抑えようと酸素を肺に送る。自分の心臓の音がよく聞こえる。

 俺は銀に対して疑問と憤りを感じていた。


 そもそもの発端は将基と歩未が球蹴りをするというので銀を誘うまでは良かった。

 ちょっとした冗談で「たまには1対1でもしてみるか?」と提案したところ、まさかのokの返事が返ってきたのだ。


 セパタクローは基本レグ戦(3対3)でやるものだが、ダブルス(2対2)や1対1、さらにはクワッド(4対4)のルールもある。

 基本的なルールは同じだが唯一違うのはサーブ。レグ戦は別の人間が投げたボールを打つのだが、残りの3つはエンドラインから自分で投げたボールを打つ。


 そんな訳で1対1を銀としているのだが……

 銀のサーブは下からサーブだ。足を上げる必要もない最も簡単なサーブ。

 それに対して俺は横からサーブ、腰と胸の間くらいの高さで打つサーブ。安定感を重視してそれほど全力では打たない。

 時たまいいコースに行くこともあるが全てを取られる。

 銀はアタックを打たない。もちろん俺もアタックは打てないので適当に球を高く上げてヘッドで攻撃をするがそれも全て取られる。


 サーブも取られるしヘッドアタックも取られる。だが銀には攻撃手段がない。レシーブした後に一呼吸置くかのようにワンタッチして下から緩やかな放物線でこちらのコートに返してくる。


 負ける要素がない様に思えるがこれがエグい。

 全てラインギリギリにコントロールされて返ってくる上に前後左右に走り回される。

 その結果がこの荒い息づかいになるという訳だ。


 銀に対しての憤りは半ば八つ当たりに近い。マジでこいつは性格が悪すぎる。

 いつもは無表情に見えるが今は肩で息をして膝に手をつく俺を見下ろして微笑を浮かべている。

 疑問はこいつが数ヶ月先にセパタクローを始めたのは知っている。それだけでこんなにも差がつくものなのかということだ。


 正直、津田の様に態度には出さずとも心の中では俺は才能がある方だと思っていた。

 もちろんできない奴のことを無駄だとかは思わないが、多少の同情があったのは認めよう。上から目線で接していたのも認めよう

 俺は井の中の蛙だったようだ。これが才能か……


 ダメだ、今は勝てるヴィジョンが見えない。

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