4話 初めてのセパタクロー-2
俺は頭を抱えていた。
サーバー、体が硬すぎてどうにもならない。頭の高さのボールどころか床から30㎝程の高さのボールを蹴って入ったら喜ぶレベル。
トサーはさらに絶望的。思い通りのところにトスを上げるなんてとんでもない。ボールは明後日の方向(ネットを狙って前方へトスをしようとしたのに自分よりも後ろ)へ飛んでいき、結局まともなトスは一球も上がらなかった。
(そりゃあ、初日だしできないのは当たり前かもしれないけど、ここまでできないとは……)
今まで色々なスポーツをやってきたが、ほとんどが「初めてとは思えない!!」と驚かれることが多かった。
周りと比べると平均以上はできていても納得がいっていなかった。
頭を抱えるのにはもう一つ理由がある。同じ組に異常に上手い人間が2人いた。
「あーすか君」
媚びるように名前を呼ぶ。
はぁ、馴れ馴れしくなんだよみたいな顔でこちらの様子を伺っているが、飛鳥は球蹴りもかなりできる上にサーブも頭の高さとまではいかなくても、胸あたりのボールを打っていてそこそこ入っていた。
他の組はチラッと見た程度だが恐らく、新入生の中では間違いなく1、2を争うほどにサーブがいい。
「何かサーブのコツみたいなものがあれば教えて欲しいんだけど」
もちろん先輩にも教えてもらったが「ボールに当たる瞬間だけ押す」とか言われ、なかなか理解ができずに困っていると、偶然にも知り合いが上手かったため初心者目線でなにか教えてもらおうと声をかけたのだ。
知り合いと言っても自己紹介をして軽く喋った程度だが。
「とりあえず柔軟すれば、お風呂あがりにするといいらしいよ」
「そんな根本的なところ……いや、柔軟が大事なのは重々承知してるから、今後やっていこうとは思ってるけど、他に何かないかな」
「だって、さすがに酷すぎるだろ。あんな膝下でサーブ打ってるのお前だけだよ」
「…………はい」
力なく返事をするしかなかった。
分かってる、流石に酷すぎるのは分かってる。体の硬さなら新入生で一番だろう。
よしっ、柔軟がんばろう。
気を取り直してもう1人に声をかけにいこう。
男の名前は藤和銀。見た目は地味、根暗でスポーツなんてしなさそうだが、トサーの練習で最も輝きを見せていた。
球蹴りも凄い続くし、トスを上げれていた。自己紹介も雑に済ませ、直球で聞いてみる。
「凄い上手いね、コツとかあれば教えて欲しいんだけど」
男は首を傾げるが、無表情なので何を考えているのかよく分からない。
「うーん、努力かな?」
「努力かぁ、努力は大事だよね」
(さっき初めたばっかなのに上手くなるコツが努力なの!? 分かった、天才肌ってやつだ)
それ以上、会話は続かなかった。
気を取り直してアタック練習、これは楽しかった。サーバー、トサーでは頭を悩ませたがアタックはまだ救いがあった。
体が硬くて足はそんなに上がらないが他の新入生と比べるとアタックがコートに入ってる方ではないだろうか。
といっても、急にオーバーヘッドキックやバク宙をするわけもなく、やるのはネットに背を向けて右足で踏み込み、左足をちょこっと上げてボールを右足の甲に当てるだけ。
アタックは大きく分けると2種類に分かれる。
セパタクローの代名詞ともいえるオーバーヘッドキックでアタックをする、ローリングアタック略してローリング。
そして今練習しているシザースアタック。振り上げた左足とボールを打つ右足の動きがハサミに似ているところから名付けられたらしい。略してシザース。
先輩方のシザースを見ていると床から2m以上離れた高さのボールを難なく打っていて、打った後は腰と背中で受け身をとっている。
ローリングもシザースも遠く険しい道だと再認識させられる。
基本はどちらか一つを磨いて、もう一つは最低限打てたらokらしいが、やるからには両方やりたい!!
最低限できないといけない理由はネットに背を向けて左側に上がったトスはローリング、右側のトスはシザースと用途が別れている。トスが毎回自分の得意な方に上がってくるとは限らないし、さらに戦術の幅が広がるというのもある。
ちなみにローリングの最低限はスタンディングローリングといって、本来のローリングは片足バク宙の途中でボールを蹴るような形で右足着地だが、スタンローはバク宙ではなく左足を地面近くに残しておいてその足を軸に回転しボールを蹴って左足で着地する。
これにも高い柔軟性が必要で今のところは厳しい。股関節が外れそう……
「よっしゃーー、また入ったぞ!!」
サーブとトスでは全くいいところがなかったので、アタックで苦戦している飛鳥と銀にアタックを見せつけ目線をやる。
飛鳥は苦虫を潰したような表情で悔しさを滲ませている、銀は無表情でよく分からない。
調子に乗っていたのも束の間、気分良くシザースを打っていると暗雲が立ち込めてきた。右足の腿裏がピリピリとしてきた。
違和感を感じ、腿裏をさするような動きをしていると先輩の1人が近づいてきて「大丈夫?」と問いかけてきた。
「少しピリピリするだけで大丈夫です」
そう伝えると「今日はもうやめといた方がいいよ」とアタック練習から外された。
飛鳥はこちらを見てニヤニヤしている。
話を聞くとシザースも柔軟性が必要なのに俺は筋肉で無理やり伸ばしているので、こなまま続けると大怪我に繋がるらしい。足が炎症を起こし紫色になって歩くのも辛くなるらしい。
恐ろしい……
結局その日は隅で小さく球蹴りをして終わった。