3話 初めてのセパタクロー-1
広い体育館、バスケットコート3面分に加えコートとコートの間には結構な距離が空いている。
ただし、一つの部活やサークルが全てのコートを使用する訳ではない。基本的には1面ずつ天井から垂らされたネットで分けられて使われている。
そんな広い体育館の一面に40人以上の男女が集まっていた。
「今日は体験会に来てくれてありがとう。セパタクローサークル代表の西山昌弘だ」
男の体格は骨太で全身筋肉の鎧を纏っているようで肌は浅黒く圧力が凄い。
「セパタクローは見た目から難しそうであんなのできるわけがないと思うかもしれない。最初は上手くいかなくてつまらないと感じるかもしれない。しかし、やってれば誰でもできるようになるし、世界が変わる時が必ずある。まぁ、今日は体験会なのでとりあえずは怪我をしない程度にセパタクローに触れて貰えばと思っている。よろしく!!」
体験会に来ていた新入生は男16人、女8人の計24人。野球やバレーボールなどのスポーツ経験者、一番多かったのはサッカー経験者だろうか。女性にもサッカー経験者がいた。
中にはスポーツ未経験者もいる。ただでさえ難しいセパタクローにスポーツ未経験で大丈夫かとも思うが、自分もセパタクローは初めてなわけでサッカー経験者からすれば野球に人生を費やしてきた自分もスポーツ未経験者と大差ないのかもしれない。
少し緊張する新入生達が見守る中、まず行われたのは試合形式でのルール説明だった。先輩方が試合をしながら要所要所でルールを説明してくれる。
〜セパタクローのルール〜
バドミントンと同じ広さのコートと同じ高さ(男子:155cm、女子はそれよりも10cm低い145cm)のネットが使われる。
3人が1組となり、ネットをはさんで2組が勝敗を競い合う。
ルールはバレーボールに似ていて3回以内に相手コートにボールを返さなければいけない。
ただし、違う点もいくつかある。
サッカーと同じで腕と手を使ってはいけない。これはセパタクロー最大の特徴と言える。バレーボールは全身どこを使ってもいい。
一人で3回までタッチしても良い。バレーボールは続けて同じ人間がボールに触ってはいけない。
ポジションを入れ替える等のローテーションはない。
サーブは3回ずつ交代。
ブロックにボールが当たった場合、1回にカウントする。
ゲームは、1セット21点(デュースの場合は最大25点まで)で、2セットを先取したレグが勝ちとなり、第1・第2セットを1セットずつ取った時は、第3セットを行い、21点を先取した(デュースの場合は最大で25点)レグが勝ちとなる。
選手の構える位置なのだがレシーブ側は自陣コート内のどこに構えてもいいが、サーブ側はサーブを打つ選手は自陣コートの中心よりややエンドライン側に半径0.3mのサービスサークルという円があるのでサーブを打つ際軸足がサービスサークルの中になければ反則となる。打った後は自由に動いてもいい。
ネットの下にはセンターラインが引かれている。センターラインの両端にサイドラインから半径0.9mの円の4分の1のクォーターサークルがある。残り二人の選手はサーブを打つ際それぞれのクォーターサークルのなかに両足がついていないと反則になる。サーブを打った後は自由に動いてもいい。
細かいルールは他にもあるだろうがとりあえずの大まかなルール説明を終え試合は始まる。
「ラブオール」
主審を務める先輩の掛け声でクォーターサークルに立つ男によってボールがサーバーへと投げられる。
セパタクローはバレーボールのようにローテーションがない。これは即ち、一人一人の役割が完全に分けられ、一人一人が専門性の高い職人であることが最も効率の良いレグ(チーム)と言えるということだ。
アタッカーはアタックとブロックを専門とする。
トサーはトスとアタックレシーブを専門にする。
サーバーはサーブとアタックレシーブを専門にする。
サーブレシーブは全員でカバーをし合う。
基本的なポジションの布陣はネットを正面に逆三角形で配置され、右前にアタッカー、左前にトサー、後ろ中央にサーバーとなる。
今まさに右前のクォーターサークルからボールを投げた男のポジションはアタッカーだ。
投げられたボールを軸足を地面につけたまま頭よりも高い位置で打つ。
サーバーはサーブを打つ時に軸足が地面に触れていないといけない。そのため高い柔軟性が求められる。さらに跳躍力でカバーできないため身長の差が顕著に現れる。
打たれたボールは相手アタッカーへと向かい飛んでいった。
アタッカーは頭で器用に角度を調節してセンターサークル辺りへとレシーブをすると、落下点へトサーが潜り込みネットを超えるか越えないかのギリギリのところへトスを上げる。
気がつくと先程レシーブをしたアタッカーがアタックの構えをとっている。
ネットを背に向け、右足で地面を蹴り左足を振り上げる。さながら片足バク宙だ。
回転する途中で身長よりも遥かに高い位置にあったボールを右足が捉える。
ボールを蹴った勢いを使い右足で着地をする。ボールは相手コートへと叩きつけられていた。
まさに漫画の世界のような出来事が目の前の現実で起きている。
新入生達から驚嘆の声が上がる。
一気に色々なことが起こって頭がついていかない。
サーブの時って別の人が投げるんだというとこから始まり、サーバーってあんなに足が上がるのか?
あんな硬いボールを頭でレシーブして痛くないのか?
足でコントロールして狙い通りにトスって上がるのか?
アタックは当たり前のように打ってるけどあんなのが普通なのか?
というか、サーブも速くて驚いたしそれをレシーブするのも驚いたしアタックは速すぎて目で追えないんだけど……
「ワンラブ」
再び掛け声と共にボールが投げられサーブが打たれる。今回はサーバーへとサーブは飛んでいき、それを右足のインサイドでレシーブをする。
ここからは先程と同じ流れでレシーブされたボールをトサーがトスを上げ、アタッカーがアタックを打つ。
まぐれでもなんでもなく、セパタクローではこのスーパープレイが当たり前かのように作業的にプレイが行われる。
「ツーラブ」
3本目のサーブはトサーだった。トサーは膝でレシーブをして自分の真上にボールを上げると、自らトスを上げアタックへと繋げる。
先程までと同じかと思えたが少し違った。
1本目と2本目は眺めていたアタッカーが左足で踏み込み右足をネットの上に出してブロックに飛んだのだ。
放たれたアタックはブロックの壁に当たりシャットアウト。アタックを打った男のコートへと跳ね返る。
プレイを横で見ていた西山が手を叩き注目を集める。
「ここで3本サーブを打ったため、サーブ権が変わり、これをどちらかが21点取るまで交互に行う。まぁ、最初はなんとなくで大丈夫だ」
プレイはそこで終了し、新入生達は3組に分けられた。
「次は軽くアップしたら、実際に各ポジションに分かれて体験してもらおうと思う」