16話 合同練習-2
土曜日、朝早くから汗を流す。
ポジションごとに別れ練習に励むが単純に強度の高い練習というわけではなく、一人一人がそれぞれに課せられた課題について考えながら練習に取り組む。
そのため身体だけじゃない。頭も相当に使わされていた。
「まだまだ落ちてから打ってるな、もっと空中での姿勢を意識するんだ」
ありがたいことに指導してくれているのは『鉄壁』と呼ばれる城倉さんだ。
俺の課題は最高打点でのアタック。
詳しく説明すると、トスは高い放物線を描いて落ちてくる。アタッカーはタイミングを図って自分の最高打点で打てるようにジャンプする。
ジャンプのタイミングが早すぎるとボールは自分の打てる高さよりも上空にあることになり空ぶってしまう。
遅すぎるとボールが体に近すぎてまともなアタックは打てない。
しかし、俺の問題はジャンプのタイミングではなかった。
ベストなジャンプをした後に最高打点で打てるはずなのに打っていない。
するとボールも落ちてくるが、アタッカーである俺も同じように落下しているためアタックを打てていたがそれではアタックの打点が低くなってしまう。
原因はジャンプした後の姿勢、それが崩れているためアタックを打つのが遅れてしまう。
中々に厄介だが、改善の兆しは見えてきている。
昼休憩で聞いたのだが銀も苦戦しているらしい。
銀の課題はフェイントに対してのレシーブ、こちらも豪華で宗象さんに教えてもらっているらしい。
その日の練習はほぼ丸1日それぞれが課題に頭を悩ませながら練習に没頭していた。
夕食後の練習が終わると自由時間となる。過ごし方はそれぞれで、早めに寝るものやトランプをするもの、そして体育館に残って自主練習を行うもの。
特に宗象さんの元には多くの人が集まり、講義のように後輩たちに技や考え方などについてを実践を交えながら教えていた。なかには4年生の姿もあったが……
日曜日は昨日と打って変わって個々の練習ではなく、レグとしての練習をメインに進んでいく。
午前中はレグでのレシーブ練習、いろいろな人とレグを組んでレシーブを受けるが二条大学のトサーの特徴としてほぼ全員がアタックを打てる。
恐らく宗象さんの影響だろうと考えられる。
今まで自分がレシーブをしてトサーがトスを上げれないほど低い場合はそのまま自分でトスを上げて頭で返すか足で下から返すかだったが、そうなった場合に二条大学のトサーはトスを求めてくるので、トスを上げるとローリングを放つのである。
もちろんトサーがこういった場合に攻撃できるのは強いがアタックを打つのはそう簡単じゃない。
そもそも、アタッカーが上げたトスを打たなければいけない。さらに乱れた状態で上がるトスを打たなければいけない。
トサー達がローリングを回る姿を見て自分もできるようにならないとなと強く思う。
午後からは試合が行われる。
ここではこの合同練習で学んだことを試すいい機会だ。
練習は夕方で終わり、バーベキューが始まる。
本来であれば学年の低い俺なんかが率先して肉を焼いたりしなければいけないのだが、学年関係なく無礼講ということでひたすらに食べるだけに専念していた。
最初はもちろん無礼講と言われても、今までも体育会系の部活に入っていたためやらなければと思い、代わりますと声をかけても、そういうのいいからと突っぱねられてしまったのでお言葉に甘える形になったのだ。
二条大学の部員達がテキパキと動いて仕事をしている。上下関係もそこそこあるらしく、そこはやはりサークルとは違うのだなと感じていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。
「やぁ、食べてるかい」
そこには、空と双子の姿があった。
「せっかくの同期だし、2人を紹介しようと思ってね」
「八重大学1年、小堂実、ポジションは一応アタッカー」
「同じく小堂真、ポジションは一応トサー」
『よろしくね』
2人は一卵性双生児なのだろう近くで見ても似ていて見分けがつかない。
「2人はレグメイトなんだ、だから大会で当たったらよろしくね」
「あぁ、よろしくな」
大会で当たったらといっていたのは恐らく学生大会のことだろう。
学生大会には地区予選がある。地区予選といっても関東圏と広い範囲での予選になるため先輩に聞く限りではそれほど厳しいものではなく、運が良ければ俺たちでも抜ける可能性はあるということだ。
もちろんここにいる他大学は都内の大学なので地区予選ではライバルとなる人達だ。
ライバルといってもセパタクローの世界は狭いためほとんど知り合いで友達に近い関係になるので地区予選の近いこの時期でもこういった合同練習が行われるのは珍しいことではないようだ。
関西だと普段から一緒に練習をする大学同士もあるらしい。
§
飛鳥は自らで投げたボールをサーブする。それをひたすら繰り返し、撮っていた動画をチェックして修正箇所があればつり球で形を直す。そしてまた投げたボールをサーブする。
そんな練習を将基と銀が合同練習へ行ってから1人で黙々と続けていた。
銀が急に合同練習に参加することになった理由は知らないが丁度いい機会だと思っていた。
サーバーの練習は孤独に近い。アタッカーやトサーのように合わせるといった練習の必要がないからだ。
地区予選に向けて新たな武器を手に入れなければいけない。サークル内対抗戦では正直、それほど活躍ができなかった。
サーブは相手に邪魔をされることのない唯一の攻撃だ、サーブで点が取れれば試合は楽になる。
そう思ってひたすらに打ち込み続ける。