10話 サークル内対抗戦『1日目』-2
「速攻なんてできたのか!?」
相手コートから声が上がり、周りで見ていた人たちもざわついている。
これがこちらの隠し球である速攻だ。銀がやろうと言い出したときは迷ったが成功して良かった。
この技の練習での成功率は5割もなかった。アタック側もその場でのジャンプでアタックを打たないといけないため難しいのだが、それよりもトスが難しい。高すぎるとアタックできずに相手コートへ返りみすみすチャンスボールを渡してしまう。
低すぎてもアタックできずにネットにかかってしまい得点は相手のものになってしまう。
銀はこちらに近づいてきて再びボソッと呟く。相手はそれを見て「速攻あるぞ、警戒しろ」と声を掛け合っている。
16対15と新技の速攻で1点リードした状況での相手の2本目のサーブは先程よりも攻めたサーブだった。
俺は左側を通過するサーブに反応できなかったが飛鳥が足を伸ばし後ろでレシーブをしていた。
相手が速攻を警戒する中、銀が選択したトスは普通のトスだ。乱れたブロックに当たったボールは大きく弾かれコートの外へ落ちてこちらの点になる。
3本目のサーブは投げが乱れたこともありカバーをするだけのサーブだった。
力の入っていないサーブを銀は軽々とレシーブして少し目線をこちらに向ける。
普通のトスが上がりブロックの上からアタックを打ち込む。
どうやら助走が取れずブロックが中途半端になったようだ。それもこれも全て速攻を意識してしまったからだろう。
こちらは打つつもりなんてないのに……
銀が呟いたのは「もうやらないよ」という速攻は使わないという意志の一言だった。
それはそうだろう、成功率が5割もない上にバレると簡単にブロックされてしまう。
さっきは慣れられていたテンポを変えるために使っただけだ。
18対15と有利な状況でこちらのサーブ。
「少し内側に投げてくれ」
飛鳥はそういうとセンターサークルで集中を始める。
要望通りに投げられたボールはアタッカーへと飛んでいく。
レシーブをしようとするが頭に当たり大きく弾かれたボールは誰も触ることができなかった。
2本目も同じようにいつもよりも飛鳥の体に近い位置へボールを投げる。同じような軌道で再びアタッカーへと飛んでいく。
先程とまではいかないまでもボールは大きく弾かれた。トサーが必死で追いかけてなんとかトスを上げる。乱れたトスから放たれたアタックは大きく外れ、体育館の壁へと直接当たる。
3本目のサーブもいいサーブだったが多少の落ち着きを取り戻したのか綺麗にレシーブを上げる。しかし、アタックにキレはなかった。
カシャーン。
足に当たったボールは真下へと落ちていく。完全なシャットアウト。
「よっしゃーーーー」
セット最後の点をブロックで決め俺は吠えた。
喜ぶ俺に対して飛鳥と銀は冷静だ。
「まだ終わりじゃないぞ」
飛鳥の言葉に銀もうんうんと頷く。
そう、まだ1セットを取っただけだ。もう1セット取らないと勝利ではない。
そんなことは分かってるが喜ばずにはいられない。2人が冷静すぎるんだよ、少しは喜べばいいのに。
男はタオルを頭にかぶせて、悄然と座り込み俯いていた。
「すまなかった。俺のせいで……」
「気にすんなって、切り替えていこうぜ」
爽やかに笑うトサーの男はドリンクを手渡す。
「あれくらいならなんとかなるって」
「あぁ、1年が速攻を使ったから少し驚いて警戒しすぎた」
「確率は良くないはずだ、やることをやれば勝てるさ」
俯いていた男は顔を上げる。その顔には失敗を切り替え目には闘志が宿っていた。
「将基、次のセット初めは緊張しないよな?」
飛鳥が話しかけてくるがその顔はニヤニヤとしていて、セットを取れたことに喜びは感じているのだと察することができた。
「もう大丈夫だよ!!」
「このまま、崩れてくれてれば楽だよね」
銀は相変わらずの無表情。
「そうだな、頭の方はまだ崩れてくれるかもな」
「サーブは継続してアタッカー狙いで行こう」
崩れてくれているなんて甘い考えはすぐに消える事になる。2セット目は相当に厳しい状態に陥っていた。
1セット目終盤はアタッカーが崩れてくれたために取れたが、2セット目では立ち直りこちらの手もさらに読まれていた。
そんな中、俺たちは攻撃のリスクを上げた。サーブも強気で攻めるし、確率の悪い速攻も組み込んでなんとかなんとか立ち回る。
「我慢だ我慢、今はたまたま上手く行っているだけでいずれボロが出るぞ!!」
「おぅ!!」
しかし、我慢を重ねてもボロが出ることはなかった。ハイリスクの攻撃が功を奏したのか全てが噛み合った攻撃を止める術を2年生3人は持ちえなかった。
結局、1年生の勢いにの飲み込まれる形で敗北を喫することになる。
§
初ともいえる真剣な試合に勝利した3人はハイになっていた。
「どんなトスでかかってきなさい!!」
将基はネットを超えるか超えないかのトスを強引にアタックを打つ。
以前までならネットから離してくれと言っていたトスも今は決まる。
「投げるボールの位置もう少し高くしてくれ」
飛鳥は全てのサーブを全力で打つ。リスク度外視のようなサーブだが今なら面白いように入る。
「うん、悪くない」
銀は速攻を多用する。より速く正確にアタックが打てるギリギリの位置へ狙いを定める。
5割入るか分からない欠陥のあった武器が今では殺傷力の高い武器に変貌していた。
勢いそのままに2試合目の2、3年生混合レグを打ち倒し、続く3年生レグからも勝利を収めていた。
そしてその勢いは止むことを知らない。サークル内で2番手ともいえるBレグとの試合でも爆発していた。
「ふぅ、凄い勢いだな、怖いもの知らずって感じで嫌いじゃないけど」
「どうしますか、サーブ誰狙えばいいとかありますか?」
1年後輩の駒成慎司は3年である二歩幸也と千日鉄心に助言を求めていた。
「とりあえず、入れサーでいいよ、鉄心も普通のトスのままでいいから」
2人が頷く。Bレグのキャプテンは二歩が務める。それは将基のように表面上のものではなく実力も信頼も高い二歩が精神的支柱となりレグを支えている。
2人はそんな二歩が言うんであれば、どんな厳しい状況でもそうなんだろうと確信している。
「慎司、この1本だけトサーが取りやすいサーブ打ってくれるか」
「分かりました!!」
普通に考えて取りやすいサーブを打てと言われれば疑問を持つところだが、駒成はそんな疑問を微塵も感じない。
言われた通りにトサーの足元へ速すぎもせず遅すぎもしないサーブを打つ。
もちろん銀はそんなサーブをミスするはずもなく完璧なレシーブをしてトスを上げる。
玉樹たち3人は気づかなかったが、二歩は不敵な笑みをこぼした。