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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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92/94

◆90 ――怖くない。

 



 警察のパトロール強化の効果があったのか、オレの本当の父親は今のところ真崎家の周辺には現れていないようだ。

 でも念のため、しばらく様子をみようということで、いつもの生活ができていない。

 例えば遥香ちゃんと一緒の放課後のスーパー寄り道。

 一緒に夕飯のお買い物しながら帰るの、楽しかったのに、こういった食材の買い出しは、週末に隆哉さんが車を出してくれて郊外の倉庫型大型スーパーへ行きまとめ買いをすることに。

 これはこれで楽しいっちゃ楽しいんですけども。

 購入する食材が何もかも大容量だから、優哉もテンションが上がる様子。

 莉奈ちゃんも「パパの車でドライブ~」が嬉しいらしい。

 ただ足の速い食材とか鮮度重視な生野菜がどうしても欲しい時もでてくるわけで、そんな時は優哉が買いに走ってくれる。

 オレもバイトは、しばらく出てない。

 店長に電話で事情を話したら「落ち着くまで休んでていいよ~」とのこと。

 これはバイト従業員片岡さん(ストーカー被害、おまけに店長もとばっちり)の前例があるので、オレの現状がどういう状態なのかはバイト先の店長も従業員も実体験で理解がある。

 無理はしなくてもいいよとのことだけど、はやく復帰したいなバイトも慣れてきたし。


 しかしこうなると……マジで疫病神だな……ヤツは。


 去年、偶然エンカウントした時はブルってしまったが、こうなってくると、恐怖よりも憤りが強くなる。やり直しの人生、これまでそれなりに順調だったのに、あいつの存在のせいでこれまで築いた生活が台無し――……そんな感じが苛立たしい。


 なんで――……。


 あいつはそんなに自由で勝手で、オカンやオレに何をしてもいいとか思ってんのかな。

 けど最近、割と、そういう人みかけるよな。

 まるで自分が偉いと、何をしてもいいと思ってるようにふるまう。主張する。レジに並んでるのにしれっと横入りしてきたり、でかい声で喚いたり。車の煽り運転のニュースとか、莉奈ちゃんを連れ去ろうとした男だってそうだ。

 ここは現代日本で異世界じゃないのに、ほんとお前、実はどこ住みなんだよ、そのマイルールの主張が激しいのは異世界から召喚されてきたのかと問いたい。

 異世界転生小説の序盤のギルドで主人公を煽る噛ませ冒険者的な人が多すぎ。

 どこの蛮族だよ。


「どうしたの? 幸星君」

「いや、うん――……」


 遥香ちゃんの心配そうな顔。

 オレの周囲はこんなに優しい人がいる。


「みんなに迷惑かけてるな――と、思って……」

「幸星君は迷惑かけてないよ、迷惑かけてる人は別の人でしょ?」


 遥香ちゃんはきっぱりと言い切る。


「幸星君は、ここでわたしに『ごめんね』とか言わないでね。言ったら怒るからね。幸星君は被害者なのに、加害者の責任とるみたいに謝罪っぽいこと言わないの」


 遥香ちゃん……大人しくて恥ずかしがり屋なのに、言うべきことは声をあげる。

 そういう芯の強さとか、すごく惹かれる。見習いたいな。


「遥香ちゃんのそういうところ、オレ、好きだなー」


 オレがそう言うと、遥香ちゃんは顔を真っ赤にしてあわあわし始める。


「そういうところも可愛いなー」

「もう、幸星君!」


 オレが手を差し出すと、遥香ちゃんは手をとってくれる。

 そんな遥香ちゃんと高校生カップルよろしく楽しい帰宅途中、信号待ちの時に、背後から声をかけられた。

 後々、目の前の信号を渡っちゃえばよかったなと思う。



「幸星?」



 オレは声を掛けられた方へ振り返る。

 去年、遠目にエンカウントした時とは違ってスーツを着て、パリッとした格好をしているけれど、こいつはこういうヤツだ。

 基本家ではアレだけど、若い女の子を騙くらかす時に、割とこういう恰好してた。

 ちゃんとお勤め人してますよっていう態をとれるヤツだよ。詐欺師みたい。口上も上手い。知ってる。

 オレは一瞬だけ遥香ちゃんの手をぎゅっと握ってから離す。


「遥香ちゃん、莉奈ちゃんのお迎えお願いするね。」


 遥香ちゃんにしか聞こえないように、そう囁いた。


「誰ですか?」


 オレは自分の元父親に向かって声をかける。これは嘘。

 問いかけた言葉に震えはない。大丈夫だ。


「ひどいな、忘れてるのか、俺は――お前の父親だよ」


 うん知ってる。でも、敢えて知らないフリしたんだよ。

 大丈夫、去年みたいな恐怖、貧血起こしてガタガタする感じはしない。

 接触あるって前もってわかっていたからだと思う。


 ――怖くない。


 信号が変わったのを見て、遥香ちゃんにこの場から離れるように促す。

 今日は莉奈ちゃんのお迎えをするのはオレ達だから、莉奈ちゃんは学校で待ってるし。


「莉奈ちゃんをよろしく」


 遥香ちゃんと莉奈ちゃんの安全第一だから、この場から離れて。

 オレの気持ちを受けてくれた遥香ちゃんは、信号を渡って小学校の方へ小走りに走っていく。オレは父親ではなく、遥香ちゃんが信号を渡る後ろ姿を見送る。


「可愛い彼女だな、紹介してくれないのか」


 するわけないだろ。


「で? 何か?」

「幸星、お父さんと暮らさないか?」


 ――頭、湧いてんのかな。コイツ。

 お前、オレに何をしたのか忘れてんのかな?

 ここでオレが「うん。わかったよ。いいよ。お父さんと暮らす」なんて言うか?

 ないわーまじでないわー。


「ちゃんと真面目に働いて、やり直したいと思ってたんだ」


 嘘くせぇ……。

 だったらここに現れないだろ。

 一人でやり直せよ。


「オレを出しにしてオカンから、金をとろうって感じ?」

「幸星!」

「アンタはオレに何をしたのか忘れてるかもしれないね。でも、やられたオレは忘れないよ」


 自分の都合のいいことばかり――その為には自分がした過去の所業も、記憶の中で改ざんする。そういう人間だ。


「違うと否定するなら、オカンにもオレにも今後近づかずに、一人でやり直せよ。ここで食い下がったら、アンタの本質はやっぱり変わらないクズってこと。オレの中で証明されることになる」


「このクソガキが!!」


 そう叫んでオレに殴りかかってくる。

 殴り掛かるモーションが遅いので、オレは避けられた。

 あーコイツ、年取ったなー。

 それとも、オレがでかくなったからかな。

 優哉やクラスメイトと一緒にバスケとかしてれば、反射神経とかって、高校生男子は全盛期だもな。


「やっぱり手を挙げるんだな。本質は変わらずにクズだな、アンタ」


 多分、元の世界線にいた時も、コイツと対面したら、勇気を出して今みたいに立ち向かったら、こうやってこいつの老いとか力の逆転があったんじゃないかな?


「この! 避けるんじゃねえ!」

「何言ってんだよ。今の暴行未遂? ヒットしていたら傷害罪が適用される。アンタは昔オレを殴って言ってたよね、躾けだって。それ、通用しないから。オレはアンタのサンドバッグじゃないよ。無抵抗で殴られてる「小さな子供」じゃなくて、16歳の普通の高校生になったんだよ」


 このクズが、怒りのどこかで。オレの言葉に怯えているような気がするのはなんでなんだろうな。


「お前は――そんなに変わるのか⁉」


 どこか臆病で、コミュ力なくて、こいつのいいなりだった子供ではないからか。


「変わるに決まってんだろ、成長してるんだから。アンタだけだよ、クズなままなのは」


 オレがそう言うと、目の前のクズは肩の力を一瞬抜いたかと思うと、次の瞬間、オレを突き飛ばした。

 信号が青になっていない公道に。



「幸星君!」

「コーセーお兄ちゃん!!」



 突き飛ばされた肩越しに、信号の向こうの道路に、莉奈ちゃんと遥香ちゃんが走りながらオレの名前を呼ぶ。

 その姿を見た瞬間、身体に衝撃があった。






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