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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆89 疫病神と天使

 


 修学旅行から帰ってきて数日後のことだった。

 バイトから帰宅すると、オカンと隆哉さんがオレと話があると言ってきた。

 遥香ちゃんが、オレの分のごはんの支度をしてくれて、オレの横で優哉がダイニングテーブルに並ぶ飯をじっと見ている。

 オニイチャン、物欲しそうに見てるけどオレがバイトに行ってる間、みんなと一緒に食べたよね? いつものことだけど、その身体のどこにそんなに食べ物が入るんだよ。筋肉なの?

 ガチムチマッチョならわかるけど、貴方、若い女子がワーキャー言う細マッチョ系だよね?

 オレが筋肉なさすぎなんだけども。

 仕方ないから、優哉にちょっと小皿によそって、摘まめるようにしておくと、なんか嬉しそうに、オレの横でより分けたおかずをうまうまと食べてる優哉。

 そういうところ、莉奈ちゃんに似てる。莉奈ちゃんが優哉に似てるのか……。

 そんな莉奈ちゃんは、すでにすやぴよのオヤスミタイムでお部屋にいる。


「幸星君、最近その変わったこととかない?」

「はい? 変わったこととは?」


 隆哉さんの言葉にオレがそう尋ね返すと、オカンと隆哉さんはアイコンタクト。

 何?

 そんな二人って珍しくない?



「職場に、あれが来たのよ」


 あれって何?


「追い払ってもらったんだけど、幸星の学校に来てないかってちょっと心配になっちゃって」


 いやいや主語ないし。


「あれって何だよ」

「お前の父親よ」


 オカンとその隣に座ってる隆哉さんを見る。

 オレの父親、現在隆哉さん……。けど、もう一人、遺伝子学上の父親はいる。オカンが追っ払うならそっちだよね。


「まじかー」


 オレが呟くとオカンは頷く。


「オカンは大丈夫だったの?」

「僕がむかえに行ったからね」


 おお。さすが隆哉さん……。

 横に座る遥香ちゃんをちょっと見る。


「あー、遥香ちゃん。説明するとね、遺伝子学上のオレの父親がオカンの職場に現れたみたい。以前、ちょっと話したと思うけど――オレの実父ではあるけど、あまりいい人物ではない。というか問題しかない人物」


 遥香ちゃんはうんうんと頷く。

 オレの横に座っていた優哉が言う。


「幸星、もし遭遇したらラインよこせ、オレが迎えに行くから」


 イケメエエエェンンンッ!!

 オレの夕飯のおかずをもぐもぐしながら言わなければ、イケメン度がさらに倍だな。口にはださんけど。


「オカン、そんでアレはなんだって? 金?」

「多分」


 接触していないからなんともいえないとか。

 オカンから連絡を受けた隆哉さんは病院に入って、オカンがいつも使ってる関係者入り口ではなく、正面出入り口からオカンと一緒にでてきたそうな。

 ふむ。

 逆再生の前はオレは引きこもりだったからな……。この時期、アレとオカンが鉢合わせとかのイベントがあったかなんて、知るよしもなかったし。

 去年の夏も、オレはアレと偶然上野で会ったんだよな。

 過去を思い出してかなりブルっちゃったけど。


「怖いっちゃ怖いけど……」


 オレがそう呟くと、オカンも隆哉さんも優哉もオレを見る。

 人生二周目になって、一年とちょっと。アラサー時の記憶があるから、人全般に対して、なんだろうビビる感じがないんだよね。例えば、学校でも新しい担任の先生とかは結構ガタイがいい先生だけど、ビビることはなかった。

 ただ去年のアレとの遭遇はちょっとなー。

 本人とのエンカウントってやっぱトラウマ引き起こすよな。

 どうだろ、今回もし相手にばったり会ったりしたら。


「幸星君、もしも、その人物と接触するようだったら、僕に連絡を――」

「あ、はい」


 オレの傍にいる遥香ちゃんも危険な目にあうかもしれない。

 オレはこの際どうでも、遥香ちゃんは他所様のお家からお預かりしている大切なお嬢さんである。

 そして相手は人の形をした外道だということは、オレが身をもって知っている。


「遥香ちゃん、もし、オレがその人物と接触したら、絶対に離れて家に戻るんだ。アレは子供だろうが女性だろうが、暴力振るうのに躊躇いとかないから。あと若い女の子にはすっげーいいコト言うタイプなんで、丸め込まれて騙されないように」

「幸星君……」

「むしろ、しばらくは草野さんと一緒に帰る方がいいかもしれない」

「やだ! 幸星君は一人になったらダメでしょ!」

「遥香ちゃんの安全がオレの場合は一番なんだよ。何かあったら海外にいるご両親に顔向けできない。真崎家を信頼してあずけてくれてるんだから」

「でも、一緒に帰ります! 心配なの!」


 オレと遥香ちゃんがそんなことを話してると、優哉が香の物をポリポリと咀嚼して言う。


「水島さんが一緒にいるのはありだろ」


「優哉!?」

「ただし、幸星の元父親と思われる人間が、近づいたらその場を速やかに離れて、オレとか親父とか、あとこの際、警察とかでも構わないから連絡してほしい」


 優哉の言葉に遥香ちゃんは頷く。

 ほんとに大丈夫かな……いざとなったら無茶しそうで危ないんだよ。

 去年のアレは、偶然でいきなりでビビったけど。

 オカンの職場周辺に現れたとなれば、オレの学校とかもあたりをつけてくるかもしれない。

 あいつさあ、中学校の元担任から聞き出しそう。そういう口だけは上手いところあったんだよね……。個人情報保護がしっかりしてれば、そうほいほい学校側も教えないとは思うが。


「まあ、担任にもちょっと相談してみます」

「僕の方からも学校には連絡しておくからね」


 隆哉さん……。


「ありがとうございます。父さん」


 オレがそう言うと、隆哉さんめちゃくちゃ嬉しそうな顔で笑っていた。




 で、数日後の夕方。うちのマンションの近くの車道にパトカーが駐車していた。

 赤色灯は回ってるけどサイレンはなし、エントランスにはポリスメンと管理人さんがいる。

 何だろうと思いながら横切ろうとしていたら、管理人さんから声をかけられた。


「あ、真崎さんのところのお子さん」

「はい?」


 なんでもほんのちょっと前に不審人物が訪問してきたのだとか。

 オカンの職場に元旦那が現れたって聞いて、隆哉さんはマンションの管理人さんと警察にも相談し、警察には周辺のパトロールを強化してくれるように依頼していたらしい。

 真崎家パパンの危機管理能力よ……普通ちょっと躊躇うよね、管理人さんや警察に相談とか。

 それで管理人さんが問い合わせた不審者、やっぱりオレの元父親っぽい。

 なんでも、帰宅するマンション内の住人と一緒にマンションのオートロックをくぐり、真崎家のドアの前にいたとか。

 夕方のマンション内の清掃してる管理人さんを見て、近くだから寄ったオレに会いに来たとかそいつは言ったらしい。

 でも普通さあ、外部からの訪問ならエントランスのオートロックのインターフォン前で、不在だったら改めて出直すのが常識じゃん。管理人さんもそこを指摘したら舌打ちしながら逃げて行ったとか。

 莉奈ちゃんがお留守番してなくてよかった!

 莉奈ちゃんは、放課後遊びクラブでまだ小学校だ。オカンがしばらくお兄ちゃん達と下校するように莉奈ちゃんに言い聞かせていて、今日は優哉と一緒に帰宅予定。もし在宅していたら、あの子は無邪気にインターホンに出て「もしもし?」とかしそう。こっわ!


「コーセーお兄ちゃんだ!」


 莉奈ちゃんが優哉と一緒にマンションのエントランスに入ってくる。

 管理人さんとポリスメンと、オレ達の立ち位置で、優哉は何があったのか察したみたいで、莉奈ちゃんと遥香ちゃんを自宅へ戻る様に促す。


「真崎さん、キミ達のお父さんからお話を聞いてはいたけど、本当に来るとは思わなかったよ。しばらくはマンション棟内の見回りを強化する。不審者に気を付けるように掲示板にもお知らせをしておくからね」


 管理人さんの言葉と一緒に、警察の方も周辺のパトロールを強化すると言ってくれて、お礼とよろしくお願いしますと言って自宅に戻った。

 真崎さんもオカンにも連絡がいったらしく、慌てて帰宅してきて、オレもこの日はバイトを休んだ。


 うーむ、逆再生前、オカンとアレが離婚して、三年ぐらいたったころ突撃くらったことあったな。それで警察呼んだことある。やつの突撃周期が三年、三年、二年、一年って感じでしつこかった。それを思い出すと……あいつさあ、普段は思い出しもしないくせに、困ったことがあったら(特に金銭的に)オカンを尋ねるとか……離婚した元妻は他人であって、お前のオカンじゃねーんだよ。

 人生二周目で子供やってるオレが言えたことではないけど。


「ねえ、みんな最近へんなの! なんでかんりにんさんとかおまわりさんとかとお兄ちゃんたちがお話してるの!?」


 オレと優哉が自宅に戻ると、莉奈ちゃんがそう言った。

 オレと優哉と遥香ちゃんはアイコンタクトで会話する。

 莉奈ちゃん誘拐未遂事件もあったことだし、ここは莉奈ちゃんにもちゃんと伝えるべきかも。


「莉奈ちゃん。あのね、オレの本当のお父さんっていうのがいるんだけど、ちょっと変な人でね。その人がうろうろしてるんだよ。だから管理人さんとかおまわりさんとかに、協力してもらって、警戒してるんだよ」


 オレがしゃがみこんで、莉奈ちゃんの目線と合わせるようにしてそう言った。


「オレが今の莉奈ちゃんよりも小さい頃に暴力を振るわれたことが原因で、オカンとは離婚してるんだけどね」


 莉奈ちゃんは大きな瞳でオレを見る。

 オレの言ってること、わかるかな……。

 でも、小学二年生って、割といろいろ理解はしてると思うんだよね。


「コーセーお兄ちゃんの本当のパパは、コーセーお兄ちゃんをいじめたの?」

「まあ……うん、そういう感じかな。怪しい人がうろついてるって思ってほしい。だからみんな警戒してるんだよ。莉奈ちゃんも知らない人が声をかけても、ついて行っちゃダメだよ」


 莉奈ちゃんはうんと頷く。


「わかった。コーセーお兄ちゃんも、本当のパパが優しいことをいっても、ついて行っちゃダメだよ。莉奈が守ってあげる!」


 両手を広げて、オレに飛びつく。

 天使がおる……。


「うん。いかないよ。どこにも」


 莉奈ちゃんは天使だけど、あいつは疫病神だからね


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