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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆86 未来の予約





「真崎~お前だけだよ。進路希望調査票だしてねーの」


体育祭も過ぎて、期末間近のある日、イインチョーにそう言われた。


2年の体育祭? 別になんの波乱もありませんでしたよ。

恒例の借り物競争に至っては、去年よりもオレの防御力がUPしてたので、連続告白はありませんでした。あの種目をやるの2学年だし、もう、だいたい、誰と誰が付き合ってるかーなんて、ほぼ周知だったから。

まあね、そこで去年の遥香ちゃんが誘われるっていうのは、やっぱり可愛さが飛びぬけていたんだなと改めて思ったりしたものです。


それにしても、ヒラヒラと進路調査票を振るイインチョーに若干のデジャブ……。

たしか去年、部活申請書提出してねえって言われた時と同じような。


「えーまじでザッキー決めてないの? オレもう出したよ? 意外~てっきりもうサクサク決めてたかと」


キクタンに言われるとは。というか意外だ。キクタン。


「どーせあれだろ? 水島さんと一緒の大学行って、きゃっきゃうふふのいちゃいちゃキャンパスライフを……くっそ……羨ましい……」


おい、最後の方が何か呪詛ぽい呟きだぞ?

だいたい一緒じゃない。遥香ちゃんは自分の進路は自分で決める子だ。

多分大学は別々になる。

ただどこに行くのかは気になるから聞いた。

地方だと遠距離恋愛ではないですか。

初めての彼女と遠距離恋愛とかハードル高すぎる。

一応関東圏の大学ですが、国立狙いだったよ。

優哉は多分聞かなくてもわかってるからいい。多分首都圏……。そして国立……。

そうなると、オレも考えなくてはならなくて、人生二周目、別の職業を選択できるチャンス。

まあ、一周目でも二周目でも、職業は転職という選択もできるんだけど。

せっかくだから、未経験の職とか憧れるわけで。

オレはイインチョーから進路希望調査書を受け取るとため息をついた。


――オレはこの二周目の人生で、何をしたいんだろうか……。




「幸星、料理人になるんじゃないの?」


優哉がダイニングテーブルに広げた進路調査票をぺらりと取り上げる。

料理人て……それはお前がオレになって欲しい職業なのでは?

いや料理は好きだけど。

好きだから頑張れるとか言うけどね。好きだけで決めていいものか。


「店を持って独立までいくにはいろいろあるだろ」

「具体的なビジョンができてればいいじゃんよ」

「腕が一番の世界ですよ、料理人を選択するなら、オレは今、高校を辞めて専門学校に行くべきだろう」

「別にそこまで考えなくてもよくね?」

「はい?」

「お前が言うように、腕が一番の世界だろうが、店を持って経営するにもそういったことを学んでからでもよくね? 実際、春休みに行った親父の実家なんかは、元々はあそこに住んでたってわけじゃなく、じーさんがIターンであそこでペンション開いたわけで、元は普通のサラリーマンだったぞ?」

「でも繁盛してるっぽいよね?」

「そうなる為に、いろいろ企画たててるし、ばーさんのコミュ力が地域の人とばっちり連携とれてるから、やっぱりそこに店開いた時は、冷たい感じもあったとかな」

「まじか……」

「普通にサラリーマンしてりゃいいんだけど、じーさんがどーしてもやりたかったらしいよ。子供が独り立ちしたから、それを機に移住を決めたらしいけど」

改めて訊くけど、優哉のじいさん、すげえフットワークだな……。

「それに付き添ったうちのばーさんもすごいけどね」

それは言える。

「幸星のいう料理人の腕っていうのも当然だけど、そういった飲食店の店舗経営について大学で学ぶのはありだろ。そう考えると、総合的な要素が強いよな、専門知識ももちろんだけどね」

優哉がどうした? みたいな表情でオレを見ている。

いや、あの、コイツ、頭いいのは知ってるんだけど、オレの進路方向まで考えてくれてるというか予測とかしてくれてるの?

なんかすごくね?

「優哉……お前さ、オレの進路、どういうところまで考えてるの?」


「え、店舗経営兼料理人、何料理でもいいけどオーナーシェフだろ」


メッチャ具体的で黙って聞いてたけど、え、まじ? オレにそれができると?


「大学で経営学んでから、バイトなり専門なりで料理とかも学んで、そこから? 大学行ってる間に料理がヘタになるとか、お前に限ってなさそうだし。そうしたら、薬剤師志望の水島さんと、学生での期間はどっこいになるじゃん?」

「でも、ダメだったら……」


「ダメじゃねーよ、やれよ」


あ、すげえ、優哉のこういうところが、オレにない。

人生二周目しても、こいつに敵わないっていうその片鱗が垣間見える。

優哉はなんでもできる。

イケメンで、スポーツができて、女にモテて……。

少年漫画でいうなら、絶対的主人公枠。


「幸星ならできる」


そうやって断言しちゃうところとかさあ。

ほんとお前には一体何が見えてんだって聞きたいわ。

あ、でもこいつのそういうところ、莉奈ちゃんに似てる。そこは兄妹だわ。

オレは自信がないっていうのに。

実際いろいろ悩んでいたよ。

前と同じような職を選ぶかなーとか、莉奈ちゃんと一緒に過ごすことで、小学生いいな、子供好きだな、小学校の先生もいいかもとか。

進路希望をちらほらと周囲から訊く度に、しかも優哉と水島さん二人でガッツリテスト勉強とかも捗って、現在めっちゃ成績上位で。

おかげで大学も逆行再生前の時より選択の幅が広がって、その分、余計にどうしよう……どうしよう……って。

贅沢な悩みだなと。でもそういう贅沢な豊かさもちょっぴりいいかなと思って、本当なら一年の最終あたりですでに決めなきゃならないこの進路のことも、ズルズルとして。


「そして、このオニイチャンに美味しいものをたくさん食べさせてほしい」


ニッコリと笑う。

おい、今オレがお前にめっちゃ感動と尊敬を持ったというのに、全部失くすような最後のセリフは何だよ。

リビングのドアが開いた音に顔をあげる。

莉奈ちゃんがタタタっとオレに走り寄る。


「コーセーお兄ちゃん、莉奈にも、莉奈にも、おいしいもの!」


そう言って、ぴょーんとオレの膝の上に飛びついてくる。

莉奈ちゃんは今晩の夕飯が美味しいもの――そう思ってるんだろうな。


「いいよ、何が食べたいの?」


オレが尋ねると、莉奈ちゃんは、足をばたばたさせてる。


「えーとね、えーとね、からあげ!」

「わかってるな! 妹よ!」

「優哉お兄ちゃん!」


莉奈ちゃんをだっこする優哉と万歳ポーズで「わーい、たかーい」とはしゃぐ莉奈ちゃん。

オレは冷蔵庫を覗いて、食材を確認する。


「から揚げはムネ肉とモモ肉とどっちがいいの」


オレがそう尋ねると、莉奈ちゃんと優哉は顔を見合わせる。


「どっちもいい!」

「両方がから揚げの正義!」


そうか、あいにくその肉はないから買ってくるか。

オレが立ち上がると遥香ちゃんがエコバッグを持って同じように冷蔵庫の食材チェックをしている。


「オレ等は買い出しに行くので、二人は洗濯物を畳んで下さい」

「はあい」


似た者兄妹にそう言いおいて、オレは遥香ちゃんと一緒に買い物に出かけた。

遥香ちゃんの手をつなぐと、遥香ちゃんは嬉しそうにオレを見上げる。


「幸星君、決まってよかったね」

「夕飯のメニュー?」

「もう! 違うよ!!」


遥香ちゃんにも心配かけちゃったか……。

遥香ちゃんは割と早くから進路は決まってて、オレがふらふらしてるから、心配させたようで、ごめんなさい。


「ごめん……」

「でも意外だった。幸星君がいろいろ進路で悩んでそうだなっていうのはわかってたんだけど、幸星君ならやっぱり料理作る人になるかなって思ってたから」


うん……遥香ちゃんと差がつくような気がして、言い出せなかったというか踏ん切りがつかなかったんだよね。

遥香ちゃんとの未来を考えて、ちゃんとした会社に入れるほうがいいかなとかも、すごく考えた。


「勇気がなかったんだ……オレの未来に、絶対に遥香ちゃんにいてほしいから」


オレは遥香ちゃんの手を持ち上げる。

小さくて細い指。

でもものすごく器用。


「苦労させるかもしれないけれど、いつも笑っていてほしいし、ずっと手をつないでいたいし」

「幸星君……」

「大人になっても、年をとっても……」

「こ、幸星君」

「傍にいてほしいなって思ってる」

「そ、傍にいるよ!」


よかった。

オレの二周目の人生、出会えた運命の人。

彼女の左の薬指にキスをする。


「こ、幸星君!?」

「予約」

「はい⁉」

「指輪の予約」

「……指輪」


この先、苦労させちゃうかもしれない。

ケンカもしたり泣かせたりもするかもしれない。

でも、大事にするよ。

オレの中ではずっとずっと一緒にいたいと思う女の子だ。


「うん。大人になったら、結婚してください。その予約」





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