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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆85 イベントに行ってみた。

 



 何で俺、ここにいるんだろうな……。

 パイプ椅子に座り、簡易テーブルには薄い本が陳列されている。


「こ、幸星君、大丈夫だった?」


 空いているパイプ椅子に遥香ちゃんが座る。


「だいじょばない(大丈夫じゃない)……」


 オレは声をかけてくれた遥香ちゃんをじっと見る。

 崩壊しそうなメンタルだけど、遥香ちゃんを視界にいれることで、正気を保つ。

 よかった……オレの彼女、可愛くてよかった。

 ずっと見ててもいい。ていうか見ていたい。

 遥香ちゃんは目の前の薄い本の中身がなんであるかはわかってるのか、わかっていないのか、購入してくれる人に「○○円でーす。おつりが○○円になります。お買い上げありがとうございます」なんて言ってる。

 遥香ちゃん、オレと一緒にジョイサンス(オレのバイト先の店名です)でバイトする? 無理だな、真崎家が餓死してしまう。


「あ、汐里も戻って来た!」

「わ~店番ありがとう~」


 雑踏をかきわけ、両手に紙袋を引っ提げて、こっちのテーブルにやってくるのは腐女子草野さんだ。もう君のことは腐野さんと呼ばせてもらう。

 オレの彼女はニコニコ笑って腐女子に手を振っている。


 そう、ここはお台場のビッグサイト。


 GWのお台場ビッグサイトといえば――コミティア。

 コミティアーー「自主制作漫画誌展示即売会」……夏冬に行われるコミケと双璧をなす、クリエーター達の祭典。

 コミケとコミティアどう違うのか……オレもふんわりとしかわかってないが、コミケは二次創作パロディもオリジナルも取り扱い参加サークルの規模が最大。近年TVやSNSに流れるぐらいにはイベントニュースとして知名度は浸透してる。

 コミティアはオリジナル一次創作オンリーで春夏秋冬で開催。東京だけでなく地方都市でもやってるらしい。


 オレと遥香ちゃんは今回、このイベントで草野さんの個人サークル出店のお手伝いに来ている。実は去年の夏コミにもお手伝い要員で参加していたとか。

 腐女子よ……巻き込むなよ……。

 草野さん曰く、「まあね~遥香はあたしと違うけど~遥香は小物とか好きだから~一般企業ブースとかも見せたかったし~」とのことで、別に薄い本だけではないアピールをかましてくれた。

 確かに、ああいうのは遥香ちゃんは好きだよね。


「でも、真崎がコミケもコミティアもきたことがないとか、意外~」


 キミがそう言うってのは、オレはかなりのガチ勢に見えるということか?

 いや、オレ、作る人じゃないから!

 ひたすら消費者側なんだよ!

 そんでもって、アラサーまで生きた一回目も、この手のイベントには来たことなかったよ!

 参加者数何万人だと思ってる。ボッチ引きこもり高校生だったオレにはハードル高い。学校行くのもやっとだったんだぞ。

 ほんとマジでよく学校通って大学まで行けたなと思ったもんよ。

 結局アラサーで死んじゃったけどね!


 今回のコミティア参加は趣味もあるけど、学校の部活活動実績の為でもあるらしい。

 文化部で意外と予算を分捕ってるのが、草野さん所属の漫研だ。

 漫研は吹奏楽部と並んで、生徒会からの予算をかなり確保している。

 生徒会での部活予算決議で毎年、他の部から「漫研、予算高え!」と各方面からやり玉にあがってる。

 この高額の予算は、部誌の製作費にかかる費用の為なんだとか。

 確かに材料費のみのオレ達スイーツ部に比べると桁が違う。

 オレ達の通う文英高校は、結構歴史もあって、俺達の親の世代も卒業生は多い。

 そしてその当時からこの漫研は存在している。……オタクな親はいるんだな……と、一瞬遠い目になったがそれは置いておいて、そういう平成初期から、漫研は部費予算確保の為に、様々な取り組みをし、文芸部を巻き込んで、年2回で合同誌発行。

 文化祭以外でも、部誌を販売してるよ~学校の漫研と文芸部合同でね~という実績を取っているそうな。

 売上は部費に計上しているが、こういうところで販売して売れるかーってなったら売れない。

 しかし、この腐女子、やりおる。

 そういう学校って、うちだけじゃねーだろと思って、それっぽいことをしてる学校の漫研とSNSでやりとりし、会場で販売しつつ、部活の意見交換会的なこともしてるんだとか。

 ……SNSのこういう使い方とか……この腐女子……コミュ力ありすぎじゃね?


「汐里~この『転生姫君の破天荒な日々』の在庫はもうないよ~」

「おお、さすが我が校の神作家は違うわね! 完売ね!」

 完売したそれは、うちの高校の文芸部の人と腐女子の合作であるようだ。

「文芸部の牧田さんの新刊、すごいね」

「牧田さんは個人でキンドルで出してるから~紙で刷るよ~ってツイッターでやったらこれですよ」


 は⁉

 いやいや時代はそういう時代なんだろうけど、高校生がそれやるのか⁉

 ていうか、表紙描いたのお前かーい!

 また表紙すげえな。装丁も文庫サイズで凝ってる。カバーつけてるし。

 ラノベみたい。

 挿絵もある……。

 なんでもこれは文芸部の人がレイアウトしたんだとか。

 すごいけど、コレ金ないと作れないやつじゃないのか?

 今時はオンライン発注とかでもいけるのか?

 ぶっちゃけ部誌より、腐女子草野さんと牧田さんの合同誌の方が売り上げがある。

 こうなると、部誌はオマケというか、予算申請を見越した部活動の体裁の為なんだろうな。オレもこうして並べてたら、これ買うわ。


「真崎も行ってきなよ~遥香と店番してるから~」


「……いや、薄い本……買ってもうちには莉奈ちゃんがおるから、買えないよ。お部屋で発掘隊とかされたら目も当てられない……」


「えー、そこ心配ならあたしが預かるけど?」


「お前にオレの性癖掴まれるとか、どんな羞恥プレイだよ⁉」


「じゃー遥香ならいいんじゃない?」


 よくないだろ! それこそ『幸星君……不潔っ……』とか言われたら死ぬわ! おまけにいま遥香ちゃんと莉奈ちゃん同室!! 遥香ちゃんの実家に預けるってそれもないからね!


「彼女ならいいじゃん~」

「よくねーよ」

「なんでよ~」


 付き合っていくうちに、お互いなんとなくそういう傾向なんだなってわかるのと、いきなりコレですとかやるのとは訳が違うだろ、そういう過程を知っていくのもお付き合いの醍醐味だと思うんですけど?


「まあいいか、でも、せっかくだし、企業ブースだけでも見てきなって」


 腐女子は掌をひらひらと振ってオレを椅子から追い立てる。そういうあっさりな対応をされると、素直に行く気になるのは不思議だよな――……。

 オレは椅子から立ち上がり、なんとなく人込みに紛れて歩き出した。




 そして――……。

 やっちまったよ。

 うっかり買っちまったよ。

 それを見た腐女子がニヤニヤしてるし、遥香ちゃん、そんな慈愛に満ちた顔で微笑まなくてもいいよ。いたたまれなーいっ!!


「ククク、真崎~読んだら預かるよ~」

「うるせー!」


 オレに向かって持ってる紙袋を渡せとばかりに手をワキワキさせるのやめろ!


「まあ、一次創作だからいいじゃん~二次ならその持ってる紙袋はめっちゃアニメキャラよ~」


 エコバッグに入れるわああ! 夕飯買い出しで「おでかけの時は折り畳みエコバッグ常備」が身についてるわああああ!


「それで、今回はどうなったよ、全部売れたのか?」

「かなり絞って用意したから、完売だよ」

「部誌の方は?」

「そこは、真崎が席外した時に、前もって連絡してた交流校の人が入れ替わりできてくれたから、終了」

「そうか、よかったな」

「でも助かったよ~男手があると荷物いろいろ多いからさー」


 頼られてるのか……ていうかさ、漫研に男いないのか?

 そう尋ねたら、いるけどみんなヒッキーという返事。

 男子部員の気持ち、わからなくもない。

 うちの学校の漫研、腐女子率高いんだよ。


「それに、あいつら起きれないから。サークル参加は朝早いし、真崎が朝起きれる人で良かったよ」

「幸星君は毎朝お弁当と朝食作る人だから」


 ああ、そういう問題もあったわけか……確かにオレは早起きできる。

 最近は遥香ちゃんと一緒にお弁当作って、お休みの日はパンも焼くよ。


「さすがに今日は朝早すぎて弁当とか作れなかったよ。これ終わったら場所移動して、弁当広げるのもありだなと思ったけど」

「ええ~さすが真崎――、お母さんだ! 場所移動してなんか軽く食べてこーよ、食べたらあたし寝るかもだけど」

「汐里は寝てないから」

「イベント前は小学生の遠足前の気持ちになるのよ」


 ……楽しそうだな。

 まあ、腐女子は青春謳歌していて何よりだ。

 こういうのも青春だろう。

 俺達は撤収作業をして、会場をあとにした。

 GWのうららかな陽気の中、東京湾を眺めつつ、コンビニおにぎりをもそもそ食うのも悪くはないなと思った。


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