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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆83  莉奈ちゃんのうさちゃんと遥香ちゃんのクマ君

 





「新入生の子がねー、ちいさくてねー、かわいーの」

「そうなの、莉奈ちゃんはお姉さんになったのね。幸星君、莉奈ちゃん一年生の面倒を見てるみたいよ」


 褒めて褒めて! みたいな莉奈ちゃんの顔を見て自然と視界がぼやけそうになる。


「コーセーお兄ちゃんどうしたの?」

「花粉症です」


 そう答えたけど、嘘です。花粉はピーク過ぎたので苦しい言い訳。

 単純にね、うちの妹と彼女がキッチンで仲良く夕飯を作りながら会話してるのを見て……まるで、オレが結婚してて嫁と娘が二人でお話してる光景かと。

 そんな脳内での妄想したオレ自身のキモさに、むせび泣くのを我慢しているだけなんだよ。

 三次元リアルで尊い!!


「莉奈、二年生の遠足がきまったの! プリントもらってきたのよ。あとで咲子ママに渡すの」

「どこへ行くの?」

「んとね、すいぞくかん!」


 ほほう。あそこかなー東京湾の方の……駐車場広いし。


「去年、なつやすみに、みんなで行ったところかなぁ……?」


 莉奈ちゃん違う。そこじゃないよ。


「もっと近くだと思うよ?」

「え⁉ すいぞくかんって、他にもあるの?」


 莉奈ちゃんの中では動物園は上野だけで、水族館は去年行った水族館だけなのか……。莉奈ちゃんは、サンタさんがいないことも知ってるんだけど……これぐらいの子はそういう認識するよね。

 こうやって、動物園も水族館も一つだけではないって知っていくんだな……。


「行動班でね、今回はね、水瀬くんと湯原くんも一緒なの!」

「いつもの仲良しのみんなで行くのね」

「そうなの! 遥香おねーちゃん、莉奈の遠足の日にクマちゃん持ってね! 莉奈はうさちゃんを持つから!」


 莉奈ちゃんの言葉に遥香ちゃんは固まった。

 これには訳があるのだよ。

 それは春休み、真崎家の祖父母と伯父さん夫婦がやってるペンションに行く前日にさかのぼる……。




「遥香おねーちゃん! おじーちゃんちに行くときにやるの、これを持って!」

「え?」


 莉奈ちゃんがずいっとお気に入りのぬいぐるみの一つを遥香ちゃんに渡す。

 遥香ちゃんは莉奈ちゃんからクマのぬいぐるみを受け取る。

 その様子も可愛い……。けど何をするのさ。


「おでかけのおしたくのじゅんびなのよ! クマちゃん、きて!」

「え?」

「そこは、『え?』じゃなくてね、クマちゃんは『うん!』っていうの!」


 遥香ちゃんは莉奈ちゃんのクマのぬいぐるみを持って、オレの方を見る。

 その表情は困惑以外のなにものでもなかった。

 遥香ちゃんの困ったような表情を見た莉奈ちゃんは「……どうしよう、おねえちゃん、莉奈と遊んでくれない」的な表情になっていく。

 遥香ちゃん……すまない……まさか、真崎家にやってきて、料理だけでなくシッター的なこともさせられるとは思わなかったに違いない。

 オレもね、初彼女と一緒に親公認の同居とか、どんなラノベの世界だよと思ったこともありましたけど! 現実っ……これが現実っ……!!  まさか小学一年生のお人形さんごっこに付き合わせてしまうなんてっ!!。

 土下座でも五体投地でもして詫びたい気持ちでいっぱいになる。

 本当にそこは、謝りたい。

 遥香ちゃん世代ってお人形さんごっことかはしたことないだろうな。リカちゃん人形で遊んだ子供って、多分おかんよりも上の世代のような気がするよ⁉

 お人形あそびも、多分。きっと莉奈ちゃんぐらいの年でやったかやらないか……あやしいよね? だって遥香ちゃんは結構、大人っぽくてしっかりしてるから、莉奈ちゃんぐらいの年齢でも、お人形遊びはしなかったかもしれない!!

 莉奈ちゃんの顔がだんだんしょぼんとしてうつむいてしまった。

 オレが声をかけようとすると、遥香ちゃんが莉奈ちゃんの前にしゃがみこんで、クマのぬいぐるみを莉奈ちゃんの前に出してこう言った。


「莉奈ちゃん、ボクはどうすればいいの?」


 両手でクマの手を動かして、莉奈ちゃんの顔に向かってクマの子になって語り掛けてくれた……。

 遥香ちゃん……優しい……。

 ていうか、遥香ちゃんから「ボク」発言って、何これ萌えるっ!


「うさちゃん、おしえて、莉奈ちゃんは、ぼくにおねがいしたいんだよね?」


 莉奈ちゃんの持ってるうさぎのぬいぐるみに遥香ちゃんがクマ君役で語り掛ける。


「うさちゃーん」


 遥香ちゃん、顔、真っ赤……何これ、可愛いやりとり。

 遥香ちゃんに申し訳ないと思いつつも、このやり取りのかわいらしさにニヨニヨしてしまうよ!


「あ、あのね、くま君はね、莉奈のね、おへやのけいびをおねがいしたいの」

「……おへやのけいび?」

「おるすばんする子がいっぱいいるの、うさちゃんは莉奈のおともだから、ひよこちゃんとかねこちゃんとかわんちゃんは、おるすばんで、みんなでおへやの……」

「わかったよ! ぼく、おるすばんのけいびをするから、おへやへ案内して!」


 莉奈ちゃんは機嫌を直し嬉しそうにうさぎのぬいぐるみを持って「こっちなのよ、くまくん!」とうさぎちゃん役になって遥香ちゃんを莉奈ちゃんのお部屋へ連れてった……。


 そういう一幕が実はあったのですよ!

 オレはもうどうしていいかわからなくて、ニヨニヨ見守る優哉を眉間に皺を寄せて、「もっといつもみたいにクールに流せよっ!!」って無言で睨んだ。

 優哉は「お前、いい彼女もったなー、ちゃんとお詫びもしとけよー」なんていうなら、お前も考えろ! 

 けど、遥香ちゃんがいなかったら、オレがクマちゃん役だったろう……高校生男子が小学生女児とぬいぐるみとお人形さんごっことか、端から見たらたとえ兄でもちょっと……まして義理だし。


「これは実の兄である優哉が付き合ってあげる案件なのでは?」


 オレはから揚げの粉を鶏肉にまぶし、形を整えながらぼやいたんだよな……。

 でもそう思いながらも遥香ちゃんの「ボク」発言がめちゃくちゃエモかったんだよね。




 その時のことを思い出して、オレは莉奈ちゃんに言う。


「莉奈ちゃん、遠足にうさちゃんつれてっちゃダメだよ」

「え……」

「だって一年生の遠足の動物園にも連れて行かなかったでしょ?」

「……」

「水族館は遠足で、学校の授業の一環なんだから」

「……」


 莉奈ちゃんが黙ってしまったので、オレは首を傾げる。


「え? もしかして一年の遠足の時、莉奈ちゃん、うさちゃん持っていったの⁉」


 莉奈ちゃんはこくんと頷く。

 ええ~ちょっと、オカン、荷物チェックしてやって!


「だって、動物園だったから! うさちゃんのお友達いるかと思って! うさちゃんに守ってほしかったんだもん! ゆはらくんは一年の時、いじめっこだったから!」

 莉奈ちゃんがそういうと、遥香ちゃんがやさしく言う。

「でも、もう湯原くんは莉奈ちゃんいじめないでしょ?」

「うん……」

「湯原君も水瀬君も、莉奈ちゃんを守ってくれるよ! そうだ、莉奈ちゃん、遠足のしおりあるかな? 今から早めに遠足に持っていくもの、整理してみようか!! わたしも確認してあげるから!」


 遥香ちゃん……さすが……慣れてきている。


「うん!」

「じゃ、幸星君、途中でごめんね、莉奈ちゃんの遠足準備みてくるね」


 遥香ちゃんはエプロンを外してキッチンを出ていく。


「ごめんね……じゃなくて、えっとありがとう遥香ちゃん」

「うん!」


 オレは夕飯の支度を続けながら、でもちょっぴり莉奈ちゃんのうさちゃんと遥香ちゃんのクマ君の可愛いやりとりを見たかったな~とオレは思ったりした……。



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