◆81 春休みの一泊二日の小旅行
優哉が言ってたように、春休み、隆哉さんは旅行に行かないかと提案してきた。
隆哉さんのご実家は近県の某別荘地でペンションをしているようで、そこへ行こうかってお話です。
行先ペンションだけど、里帰り。
真崎家の実家――……隆哉さんは元々、東京生まれの東京育ち。
隆哉さんのご両親は隆哉さんが就職してしばらくしたら、早期退職して隆哉さんのおじいさんの老後を見ることになったようで、そこでペンションを開いたのだとか。現在は隆哉さんのお兄さん夫婦も一緒にやってるというお話だった。
莉奈ちゃんもそこにあずけられていたんだそうな。
「おじーちゃんちに行くの! 遥香おねーちゃんも、一緒!」
夏休みの家族旅行の時に、遥香ちゃんは行かないって以前隆哉さんに言われた時、莉奈ちゃんは「え? なんで?」って表情をしていたからな……。「今回は一緒だよ」と隆哉さんが言ったら、莉奈ちゃんのテンションは上がったようで、話を聞いてから毎日うっきうきだ。
逆に今度は遥香ちゃんが、「え、なんで?」になっている。
わかる~連れ子の彼女も一緒にとかなかなかないでしょ。
オレが逆の立場でも、あわわとかなるって。
でも、オカンが「遥香ちゃん、いて、絶対一緒に来て! 一緒にいてくれると心強いのよ~」と念を押してた。
オカン……緊張よな。
再婚先のご両親への初顔合わせだもんな、そりゃ緊張もするか。再婚する時は、電話やメールなんかでは何度かやり取りはしていたみたいだし……俺等がセミナー合宿の時だって、遊園地で遊ぶ莉奈ちゃんとオカンの動画を実家の方へ送ってたみたいで、年賀状でもお知らせしていたから問題ないみたいだけどね。
それに「ペンションだから大丈夫、スキー場も車でちょっと行けばすぐだから、以前は冬場は会社の人も付いてきちゃったこともあるし」と隆哉さんのお言葉もあって、遥香ちゃんも一緒に、行くことになったのだ。
そんなこんなで春休みのうち、一泊二日で隆哉さんのご両親がいるペンションへ。
で、車なんですが、隆哉さん所有は7人乗りSUV車なので、問題ないよ。夏休みの家族旅行もこれで行ったしね。
隆哉さんが運転しているのを見て、オレ、18になったら免許とろうかなと思った。
逆再生前は免許もってなかったんだよね。こうして隆哉さんが運転する車に乗る機会とか逆再生前にはなかったし、別に不便とも思わなかったけど。都内近郊だったら、別に電車移動で問題ないし。就職したけど職種的にも車なくてよかったし。
でもこうして家族で移動とかできるのいいよね。
「え、幸星、免許取るのか?」
「あったらいいかなと」
「うーん……まあそうかもなー俺もとろうかな」
家族に何かあったら、足があれば駆け付けられるのもいい。
こんなことも、逆行再生前には全然考えも及ばなかったことだけど。
「やあ、ようこそ、いらっしゃい」
隆哉さんのお父さんとお母さんが出迎えてくれた。
車から降りると一番で走り出していくのは莉奈ちゃんです。
「おじーちゃん、おばーちゃん!」
「莉奈ちゃーん、大きくなったわねえ」
「え、莉奈大きくなった!?」
「なった、なったあ、年賀はがきとか、動画とか、最初わかんなかったけど、隆哉やってくれるから見れたけどね。こうして会うのは初めましてだね、咲子さん」
「は、初めまして!」
……オカン、ガッチガチだわな。
オレ自身も緊張してますけども。
義理とはいえ、祖父祖母対面なんて、初めてだもんね。
いやーでも、一周目になんて、絶対会ってないですよ、隆哉さんのご両親。
隆哉さんとの会話だって、全然なかったもの。今回はちゃんとご挨拶するぞ。
「なんか初めましてなんだけど隆哉がいろいろ動画? 送ってくれてるから、初めまして感がないのよね」
割と気さくに声をかけてくれて、オカン安心したもよう。
オレにも声をかけてくれた。
「幸星君も、初めまして、よく来たね。お世話になってるね、料理が上手なんだって?」
「は、初めまして! 上手かどうかはわかりませんが、隆哉さんも優哉も莉奈ちゃんも食べてくれます!」
ごめん、オカン、オレも緊張だわ。
「動画で見てるよ~あと、水島さんね、莉奈にお姉ちゃんできたって、もう莉奈もラインで楽しそうに報告してくるよ」
おおう。そうなんか。遥香ちゃんも小さくお世話になってますって伝えてた。
おじいさん……。うん、なんか隆哉さんが年齢重ねるとこんな感じかっていう印象。
顔はね、おばあさんに似たんだな。隆哉さんと優哉は……。
ちょっと昔はバリバリやってましたよって雰囲気があるんだよな。
年齢重ねててもシュっとしてるとか本当に二枚目俳優さんにいるよね……。
莉奈ちゃん、小学生になる前にここに預けていたってお話だけど、これだけ莉奈ちゃんが懐いてるなら、きっといい人のはず。
莉奈ちゃんはオカンとオレと遥香ちゃんの傍にくっついて、ニコニコしてる。おじいちゃんとおばあちゃんに紹介してるのよって態ですな。ありがとうね、莉奈ちゃん。
「優哉も大きくなって」
「はい、御無沙汰してます」
優哉も言葉少ないな……まあ年頃の男子だからなーそういう対応だよな。優哉はオレを誘って車からみんなの荷物を運ぼうと言ってくれた。
「山ン中だから、雪もちらほら残ってるけど、温泉も近くにあるから」
もっと雪があったらスキー客が来たり、夏場だったらまあ避暑がてらこっちにきたりのお客様もいるけど、この春休みは微妙な感じだよね。
秋だったら予約でバーベキューとかも庭でできるみたいなんだけど、この外気温でバーベキューはちょっとな。
玄関をまたぐと天井が高い。
廊下の横の方がお客様のリビング兼ダイニングになっている。
「こっちこっちーコーセーお兄ちゃんにも見せたいの!」
「まって、莉奈ちゃん、荷物置いてくるから」
「早く早くー」
莉奈ちゃんにせっつかれて、荷物を置いて、そのリビング兼ダイニングに行くと、おお、暖炉だ!
廊下は季節柄、まだひんやりしてたけど、そこはエアコンも設備されているし、暖炉もあった。
物語に出てくる暖炉みたいで、莉奈ちゃんのお気に入りなんだとか。
「おー、莉奈ちゃん、よくきたねー」
「えへへ、パパと咲子ママと、優哉お兄ちゃんと、コーセーお兄ちゃんと、遥香おねーちゃんと、みんなできたよ! おじさん!」
「うんうん」
隆哉さんのお兄さん――優哉や莉奈ちゃんにとっては伯父さんが莉奈ちゃんを見てニコニコしてる。
俺達も挨拶すると「よく来たねー、なんもないけどーゆっくりしてってー」と言ってくれた。
「もっと雪があったら、スキーも楽しめたんだけど、今はなんていうかシーズンオフっていうか。もう少しあったかくなったら山菜取りとかも楽しめる、今もできるけど、ちょっと見つけにくいかもね」
ということは、山菜の天ぷらとかもやるんだろうな。ちょっと楽しそう。
厨房はちょっと奥だけど、手前にカウンター。
なんかいいな……。
キッチンの奥の扉が母屋……隆哉さんのお父さんと伯父さん夫婦の住む母屋につながってるとか。
はえ~広いな。
「莉奈ちゃん、はい」
伯父さんが莉奈ちゃんに、小さいバットを渡す。
中には串にさしたマシュマロがあった。
「おじさんありがと! これなの! 莉奈、これやりたかったの! おにーちゃんもおねーちゃんもやるの! こっちきて、こっちー」
バットを持って暖炉の前に座る莉奈ちゃんはオレ達に串を渡す。
「食べる時はあちちなの! 気を付けてね!」
暖炉で焼きマシュマロ!!
これは莉奈ちゃんが好きだろう。遥香ちゃんもわあーって呟いてる。
優哉も興味津々だ。
「莉奈、みんなに絶対教えたかったの!」
オレ達は食感はサクとろって感じの焼きマシュマロを堪能した。
「あと、離れに用意してあるから、莉奈ちゃん」
「え、こねこねたいけんもしていいの?」
「いいよ」
「わあい! 莉奈たち、お客様コースだね! おじさん!」
「でも、莉奈ちゃんが案内してね」
「はい!」
コネコネ体験とはなんぞや……と思ったら、陶器作成体験だった。
「粘土でコネコネして、お皿とかつくるの! ごよやくのお客様のオプションなんだよ!」
へー……そういうこともしてるのかー。
「莉奈、コップつくろうかな~優哉お兄ちゃんは?」
「皿とか無難だよな」
「コーセーお兄ちゃんは?」
「うーん……」
とりあえず、6人分のココット皿をつくることにした。側面の波が素人なので多分上手くできる気がしないから……。
「なんだ小鉢? 小鉢よりも小さいな」
オレがちまちまと作ってるとのぞき込む。
「ココット皿ですね! いいですよね」
遥香ちゃん、わかってるね!
「そのつもりで作ってるんだ」
「ココット皿?」
「カップケーキとかプリンとか入れるやつだよ」
オレがそう言うと、莉奈ちゃんと優哉も「ああ~」と声を揃える。
「コーセーお兄ちゃんが作ったプリン、おいしかった~」
はは、あれか、フレンチトーストの卵液で作った奴な。
「俺は基本大食なんだけど、ああいうのはあの量が適正なんだな、これでまたプリン作ってくれ幸星」
「うん」
問題は……大きさが均一に作れるかなんだけど……。
なんとかそれっぽく……均一に六個。小さいココット皿をつくることができた。
これは後日、東京に送ってくれるそうだ。
ほんとうはもっとゆっくりできたら、完成まで自分達でやるみたいなんだけど、今回は一泊二日だから。
なんで今回一泊二日だったかっていうと、オカンのお仕事の都合。
看護師さん……お休みなかなか取れないんだよ……。
あと隆哉さん自身も、再婚家庭の構築の為っていう感じで、落ち着いたらって先に話していたみたい。
おじいちゃんおばあちゃん、伯父さん伯母さん、莉奈ちゃんに会いたかっただろうに……。
その旨を伯父さんに伝えたら、伯父さんは「当初はちょっと寂しかったけど、莉奈ちゃんがみんなに可愛がられてるのがわかって嬉しいよ」って言ってくれた。
夕飯はやっぱり、山菜の天ぷらとかあって、春の味を堪能。
伯母さんの料理は美味しかった。
夕飯作ってる時に、ちょっと厨房を覗かせてもらって、莉奈ちゃん遥香ちゃんやオカンと一緒にてんぷら揚げを手伝ったりして、おばあちゃんも伯母さんも楽しそうだった。
夕飯が終わると、莉奈ちゃんがオレと優哉の分の上着を持ってくる。
遥香ちゃんは自分と莉奈ちゃんの上着を持ってる。
「バルコニーに行くの! お兄ちゃんたち、これ着て!」
「寒いのに?」
優哉の言葉に莉奈ちゃんは譲らない。
「いいの、寒くてもいいの、莉奈、お兄ちゃん達に、見せたいものがあるから!」
オレ達は莉奈ちゃんの言う通りに、上着を着て、バルコニーにでた。
「お空を見るの!」
莉奈ちゃんはピっと天空を指さす。
そこは満点の星空――。 そこは満天の星空ーー。
バイト先から帰宅する時に、見上げる東京の空とは違う。
オレはこんな星空、アラサーまで生きてきたけど、見たことはなかった。
どれが冬の大三角形でどれが北斗七星なのかわからないぐらいの、無数の瞬き――……。
オレも優哉も遥香ちゃんも「うわっ」と一言だけ発してからずっと星空に魅入ってた。
莉奈ちゃんもじっと見てる。
そして元気よくオレ達に言う。
「寒いけど、莉奈はここでお願いしたの。お星さまにお願いしたのよ。パパとママとお兄ちゃんと暮らせますようにって! ママはお星さまにいるって、おじいちゃんは言ってたけど、莉奈のお願いはかなったの! だっていま、パパと優哉お兄ちゃんと、咲子ママとコーセーお兄ちゃんと遥香おねーちゃんがいるもん! だからみんなもお願いしてみて! きっとかなうから!」




