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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆74 莉奈ちゃんのお誕生日会





 莉奈ちゃんの誕生日ケーキ。


 失敗はできないと思ったオレは、ここ数日放課後の部活で、試作をしてきた。

 先輩が言うには「どうせメインはデコレーションだから、当日スポンジ焼くよりも前日に作っておいた方がいいよ。時短だよ。今はスポンジも売ってるけどさー真崎少年は手作りの方がいいんでしょ? だったら放課後、こっちで作っちゃいな」とのことで。先輩達わかってらっしゃる……。

 なので、いろいろ作りました。ピンクのスポンジとプレーンのスポンジ。

 莉奈ちゃん、コネコネしたいって言うかもしれないが、クリームをコネコネしたい莉奈ちゃんのために、遥香ちゃんのお家から電動ハンドミキサーを借りてきている。


 遥香ちゃんのお家は、時々、遥香ちゃんがお掃除しに行くことで残しておくことになりました。

 いつ日本にご両親戻るかわからないということが、主な理由らしいけれど、遥香ちゃんが、真崎家で気を遣ってちょっとストレスとか感じたら、戻れる場所があるっていうのは、オレ的には賛成でした。

 おうちは近所だし。


 それはともかくとして、誕生日ですよ。

 前日まで部活ではケーキスポンジを焼いてました。

 スポンジは試作していて正解。

 最初綺麗になった~って思っても、へこんだりするんだよ。うまく膨らまない時があるから、当日ぶっつけ本番はやらないで正解。

 そういう失敗作とかスポンジの端切れで、カップケーキとか作ってごまかす技を習得したので、デコレーション案で、いろいろ試作とかもできた。

 そしてそれらの試作は部活の先輩達……だけでなく、キクタンや佐伯が部活の合間に脱走して食べにきたり、そこから話が広がって、クラスの女子がわさわさと放課後、調理実習室に押し寄せる事態に。

 これは後日のイベントの前振りだったが、そんなことは、その時のオレには知る由もない。


 そして当日


 この日は莉奈ちゃん自身もお手伝い。


「莉奈ちゃん、頑張って、白とピンクのクリームをつくろう!」

「はい!」


 お砂糖と生クリームとイチゴパウダーを用意して、遥香ちゃんのハンドミキサーも準備。

 大きめのボールに氷水を入れてセット。


「莉奈ちゃん、ハンドミキサーを回しすぎると、クリームが分離するから気を付けてね」


 オレがそう言うと、莉奈ちゃんは首をかしげる。


「ぶんり?」

「ポロポロになっちゃうのよ」


 遥香ちゃんがわかりやすく例えてくれる。

 オレはちゃっちゃとイチゴ洗って、へた取ってますよ。上にデコレーションする奴と、スポンジに挟むイチゴを分けて、挟み込むイチゴはカット。


「だから、美味しいクリームの状態を思い浮かべてみて、よしっと思ったら、ハンドミキサーをおしまいにするの」

「わかった!」


 莉奈ちゃん、ハンドミキサーのスイッチを入れて、生クリームを撹拌する。エプロンしてるオレの妹と彼女が尊いっ!! 


「わあ~ピンクのパウダーがとけて、クリームがなんかだんだんかたまってきたよ~」

「うん、そろそろいいかな」

「ピンクのクリームだ~!」


 莉奈ちゃん大喜びです。


「ちょびっと、あじみ!」

「莉奈ちゃん、ボールの中のクリームじゃなく、ハンドミキサーにくっついた方で味見してね」

「はう!」


 ボウルの中にあるイチゴクリームに、小さい指を突っ込もうとしているので、莉奈ちゃんにそう声をかけた。

 遥香ちゃんは、土台のスポンジを準備してくれた。


「莉奈ちゃん、こっちのスポンジにいちごクリームをうすーく満遍なく塗ってね。その上にイチゴを置いてまたクリームを重ねるよ」

「はあい」


 遥香ちゃんの指示通り、莉奈ちゃんは頑張ってクリームを薄く塗って、カットしていたイチゴを敷き詰めていく。

 遥香ちゃんがクリームをかさねて、スポンジをセット。

 土台は完成。さて、ここからまたクリームを重ねて、莉奈ちゃんにトップにイチゴを乗せてもらう。

 あとはもう、遥香ちゃんに監修をお任せして、オレは別の作業に入ろう。何もお誕生日はケーキだけではない。

 サンドイッチにから揚げ、フライドポテト、サラダ。

 餃子の皮の残りで作るチーズピザなんかも用意してみるか。これ、ほんと簡単なんだよね。ちょっとしたおつまみになるし、隆哉さんやオカンにも好評なんだよ。餃子の皮がサクサクしてるので一口で食べられるクリスピーピザみたいな感じになる。


「ケーキになったあ! コーセーお兄ちゃん見てみて! 莉奈と遥香おねーちゃんで『デコった』の!見て!」


 莉奈ちゃんの口から『デコった』とか単語が出てくると、ちょっと噴き出す。

 これからどんどん流行の言葉とか使うようになっちゃうのかな。


「どれどれ~」


 オレがケーキを見ると、莉奈ちゃんは得意そうに胸を張る。

 うん。

 ピンクのクリームの上にイチゴとブルーベリーとラズベリーが中央にギュってしきつめられて、外側はピンクのクリームで金口から絞ったクリームで点々と囲んで、イチゴと飾りのクリームの間にろうそく立てられる。


「上手にできたね、莉奈ちゃん」

「遥香お姉ちゃんと一緒に頑張ったんだもん」

「では、これで完成させよう」


 オレが取り出したのは遥香ちゃんと昨日作ったお誕生日おめでとうのチョコプレート。ケーキの飾りの仕上げだ。


「莉奈ちゃん、ケーキの真ん中に置いてね」

「はい!」


 莉奈ちゃんはそ~っと、ベリーの上にチョコプレートを置く。


「莉奈のケーキかんせい~!」


 ろうそくは一番最後に。

 みんなで食べる時に立てて、火をつけることにする。危ないので。

 あとは、お皿とコップと、スプーンやフォークを準備――……、優哉がやってくれてた。

 花まで飾ってる。

 窓にもティッシュのお花とか、モールとかも飾ってるし。

 あとは莉奈ちゃんのお友達を待つばかり……。


「お誕生日会の主役なんだから、可愛い服着よう! 莉奈ちゃん!」


 遥香ちゃんの言葉に、莉奈ちゃんはなんだか照れちゃったのか「えーいいよー」とか言う。


「でも、ご招待されたお友達は、莉奈ちゃんのお誕生日だから、おめかししてくるかもしれないし、莉奈ちゃん自身も可愛い服着てると気分もいいでしょ?」

「そ、そっか、みほちゃんたちも可愛いの着てくるかな?」

「うん。だって莉奈ちゃんのお話を聞いてると、そんな感じするもの」

「わかった! 莉奈もおめかしする! 遥香お姉ちゃん、おようふく、一緒にえらんで~髪の毛も可愛くする~」


 莉奈ちゃんに手を引っ張られた遥香ちゃんがオレを見る。

 こっちの準備は大丈夫かなって感じの視線だったので、オレは頷く。

 遥香ちゃんは安心したように莉奈ちゃんを見て笑顔で一緒にお部屋に行ってしまった。


「何だ今のアイコンタクトは、夫婦かお前等? あ、夫婦だったか。それはすまなかった」


 オニイチャン!! そのツッコミうちのクラスの連中と同じだよ!!


「オニイチャンにもそのうちアイコンタクトできる彼女があらわれると思うよ~」

「普通に切り返すか、お前は」

「人生何があるかわからないんだからね~」

「彼女と一つ屋根の下とかな」


 そんな風に、まだオレをからかう優哉だけど、本当に、人生は何が起こるかわからない。オレが人生二回目送ってるように、優哉にだって彼女はできる。

 むこうから寄ってくるんじゃなくて、ちゃんと優哉が大事にしたいなって思う子ができるはず。


「はいはい」


 そう言って小皿にから揚げを乗せると、もぐもぐと優哉は摘まむ。


「そうやって、はいはいって受け流すってことは慣れたのか?」

「オニイチャンの冷やかしにってことですか? それともこの状況にってことですか?」

「両方」

「うーん」


 切り替えたというか落ち着いたというか。

 人生二回目なんて奇跡を体験してるから、こういうありえない展開だって、ありなんだろうとか受け入れてしまえると言うか。

 何と答えていいものか悩んでいると、ピンポーンとリビングのインターフォンが鳴った。

 お着替えが終了の莉奈ちゃんが慌ててリビングに入ってきて、「今、開けるねー!」って声をかけて開錠ボタンを押してる。

 ほどなくして玄関の方のインターフォンも鳴った。

 莉奈ちゃんはパタパタと玄関の方へと走っていく。


「いらっしゃーい」

「お邪魔しまーす」


 ぞろぞろとちびっこ達がやってきた。

 子供達を案内してる莉奈ちゃんと遥香ちゃんですが、遥香ちゃんの髪に、クリスマスに贈ったバレッタがしてある。

 莉奈ちゃんが、「遥香おねーちゃんも可愛いのして!」とかねだったのかもしれないけれど、こういうハレの日とかに、つけてくれるの嬉しい。


「じゃ、オニイチャン、これをお願いします」


 さっきまで莉奈ちゃんと遥香ちゃんがデコレーションしてたケーキをカウンターに出すと、優哉がテーブルに運んでくれる。

 ろうそくに火をつけたら、莉奈ちゃんのお友達が目線を合わせて、バースデーソングを歌い始める。

 歌い終わると、自然と拍手が。


「莉奈ちゃんおめでとー!」

「ろうそく消すときはおねがいごとしながら消すんだよー」


 お友達の言葉に「おねがいごと……」と呟きながら莉奈ちゃんはふうっとろうそくを消した。

 7本のろうそくが立った、ピンクのケーキ。

 莉奈ちゃんのお願い事がかなうといいな。

 オレがケーキカットしてると、莉奈ちゃんのお友達は、ラッピングした袋を莉奈ちゃんに渡す。


「莉奈ちゃん、しゅげいにきょうみあるって言ってたから!」

「みほちゃんと一緒にえらんだの!」


「わ~ありがと~あけていい?」


「うん」


 お友達はビーズとテグスをくれた。

 ほほう……。キラキラしてる。

 

「きれい~きらきら~。ありがとう! みほちゃん、かすみちゃん!」

「じゃ、二人にお礼を渡して、莉奈ちゃん」


 オレが用意した小さな袋を莉奈ちゃんに渡すと、莉奈ちゃんはそれをお友達に渡す。

 優哉はこの様子をスマホで動画撮影をしてる。


「はい、みほちゃん、かすみちゃん。お礼です」


 莉奈ちゃんがそう言うと、女の子のお友達は、顔を見合わせて「ありがと~」と言う。


「ゆはら、渡しなよ」


 水瀬君が湯原少年をつつく。


「う、こ、これ、その……」

「え、ゆはら君と、みなせ君も、莉奈にプレゼントなの!?」


 湯原少年が頷く。


「二人で選んだんだ」


 ギクシャクした様子の湯原少年をフォローするように、水瀬君が言葉を足していた。


「わ~!! いい? あけてみてもいい?」

「うん」


 少年二人が選んだのは、リボンだった。

 ……髪飾りのリボンを選ぶとは……。

 オレとこの子達の差はあまりないということなのか!?

 つまり、オレのセンス、小学生レベル!? そういうこと!?

 オレは遥香ちゃんの方を見ると、かすかに笑って、小首をかしげるだけで、オレの意図するところを読んではくれていない様子だった。

 優哉にアイコンタクトで会話して夫婦か!? ってさっき突っ込まれたけど、ここは察してくれてませんか~いや、いいですけれどね。

 

「ありがとう、ゆはら君、みなせ君!」


 莉奈ちゃんの声にはっとして、莉奈ちゃんに二人のお礼の袋を渡す。


「これ、お礼です」


そしてまた、莉奈ちゃんはオレが渡した袋を二人に渡す。


「あ、ありがと」

「ありがとう、莉奈ちゃん」


 莉奈ちゃんからプレゼントのお礼を受け取った、小さな男子二人も嬉しそうに顔を見合わせている。


「それじゃ、コップを持って、莉奈ちゃん、7歳のお誕生日おめでとう!!」


 遠慮なくコップの縁を合わせて、子供達は「かんぱーい」と唱和した。

 それぞれが、ケーキにきゃあきゃあ言いながら、フォークで食べ始める。

その様子を見て、なんか安心したのか、ちょっぴり泣きそうになる。


 よかった。


 小さい頃のオレにはなかった誕生日を莉奈ちゃんにしてあげることができて。

 莉奈ちゃんのお誕生日が、にこにこした笑顔の記憶で残せて。

 莉奈ちゃんの笑顔が、小さい頃のオレにも笑いかけてくれてるようで、7歳の頃のオレが救われたような気もした。






3/4にアラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい2巻発売しました!

書店でみかけたら、よろしくお願いしますm(__)m

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