◆71 初詣
「どうかな、幸星君、帯、きつくない?」
「だ、大丈夫です」
ここはどこかといいますと、遥香ちゃんちのマンションです。そして今、何をしているのかと言われると、着物を着せられています。
……何を言っているのかわからないだろうが、オレもこの状況がわからない。
というのもですね、年末の家族会議中にキクタンからかかってきた電話は「初詣に行こうよ、行きたい~!!」という学校外でのクラスメートとの交流のお誘いでした。
家族会議の後に初詣をクラスメートと行くことになったと告げたら、遥香ちゃんのお母さんが、「あら~なら行く前にウチに寄りなさいよ、二人に着物きせてあげたいわ~」とか言われての、この現状。
なんでも、遠方にいる親戚筋が、着物を作る人らしく、そのツテで受け取ったようです。着付けもその時にハマったらしく、遥香ちゃんもすでにお着物をお召しですよ。
晴れ着みたいに華やかな感じではないです。普通の訪問着? みたいな。色もシックな感じで絣の模様。
遥香ちゃんのお父さんも若い頃は着ていたらしいんだが……「お父さんが着ると、なんかあの、怖い人的な感じになっちゃって……」小声で遥香ちゃんがオレにそう言った。
あ~う~ん。わかる。怖い人的な感じになるよね。
「あら~可愛い~」
……可愛い……?
姿見に映る自分を見ると、なんていうか~着物に着られてる?
そういや、逆再生前とか、着物、着たことなかった。
成人式だって普通にスーツだったし。
今着ているのは袴じゃないから……なんていうか、あれだ。
商家の若旦那的な。
「うふふ、お揃いで着物、息子がいたらこんな感じ? あ、待って、二人並んで、写真写真!」
遥香ちゃんのお母さんはテンション高くて、それに付き合う。
スマホで撮って、それをうちのオカンに流しているみたいだ。
「お母さん、もう時間だから出かけてもいい?」
「あ、そうね、これ遥香は巾着ね、二人ともコート羽織って」
着物にコートとかあるのか……あ、映画とかドラマとかでも見るやつだ。「インバネスコート」っていうんだって。明治、大正だったら、これが普段着なんだろうな。
コート羽織ったところでもパシャパシャと撮影される。
「幸星君、私物、この中に入れる?」
遥香ちゃんがそう言ってくれたので、預かってもらう。スマホと財布だけなんだけどね。
「おお、似合う似合う。気を付けて行ってこい」
遥香ちゃんのお父さんからもそう言われて、二人で遥香ちゃん宅のマンションから駅へ向かうことに。マンションのエントランスに出ると、遥香ちゃんに伝える。
「スマホで、遥香ちゃん撮影していい?」
「え⁉ え、うん」
夏の花火大会の日。浴衣姿の遥香ちゃんを撮影したことを思い出すなー。
散々撮りまくって、これはしばらくスマホの待ち受けにしよう。
ちなみに、ちょっと前まで待ち受け画面は七五三の晴れ着を着た莉奈ちゃんでした。
「よし、遅れるから、行こう。遥香ちゃん草履平気?」
「うん」
「オレ、雪駄とか初めてだよ。ビーサンと思えばいいんだけど、足袋が慣れないなー。夏の浴衣ももしかして作ってもらったヤツだった?」
「ううん。夏のは、わたし、帯が結べないから、すでに帯が形になってるヤツを」
「えー、そんな便利なの売ってるの!?」
「うん」
そんなことを話しながら、駅に向かう。
街中で人とすれ違う度に、視線が集まるのは気のせいだろうか?
いや、オレの彼女が可愛いですね!? そういうことですね!?
途中の駅で、今回の初詣イベントに参加する、草野画伯と同じ車両になると、彼女はおもむろにスマホをとりだす。
「真崎、そのまま遥香と一緒に、なんか話してて、あたしはいないものと思って」
「はい!?」
「和服の資料として残したい!」
ああ、資料ね、着物を着た人物を撮影したいだけなのね。
この人、そういうところはマメだね。
「わたしも! 幸星君撮りたい!」
「え? 遥香ちゃん!?」
「は、花火大会の時、甚兵衛さん着た幸星君も撮りたかったけど、撮れなかったから!」
そ、そうだったの?
「ふ~ん、遥香にしてはちゃんと夏のイベントはこなしてましたか~」
腐女子! 遥香ちゃんが真っ赤になってるから! あまり弄らないで!!
結局、駅に着いたら、ホームでパシャパシャされました。
いいんですかね。これ。
「ザッキー!? あけおめ~! ことよろ~! そして着物~水島とそろって着物~。お笑いを一席! ってやって! 山田くーん! ざぶとん持ってきてー!」
キクタン……予想通りのリアクションだ……。
「どうした~気合入って~」
「広義の意味ではペアルックじゃーん」
イインチョーと佐伯はうん。そうだよね。まあ普通かな。
みんなにあけましておめでとうと言葉を交わす。
「ちっちゃい妹はどうしたー『お兄ちゃんがいない!』とか泣いてんじゃね?」
莉奈ちゃんはそんな子じゃありません。
オカンと隆哉さんが一緒に近くの神社に行ってますよ。
ここだと迷子になっちゃうからね。お正月映画に行く約束とかもしたから、わりとご機嫌でしたけど?
「これは、遥香ちゃんのお母さんが着つけてくれたんだよ」
オレがそういうと、キクタンと佐伯とイインチョーが、がしっとオレの肩を掴んで、遥香ちゃんからそっと距離をとる。
「それってさ、牽制だぞ? 両親公認とかはこの際、置いておく」
「娘の帯を崩したら一発でバレるぞと、お前も帯結べないだろうと」
「お前に時代劇ごっこはまだ早いと、そういう意味合いだ」
……うん、高校生だもんね、もう思考がそっちに直結しちゃうね。実はオレも思った。
いいねーいつかやってみたいねー。
でもさ。
「……着物着付けOKのそういうところを探せばありそうだけどな」
オレがそういうと、三人とも打ちひしがれる。
「「「くっそうらやましいいいいいいいいい」」」
おいおい、実行には移しませんよ。
言ってみただけですって、お前等には話してないけど、年末、地味にプレッシャーかけられてるから信頼崩すことはしませんからね。
それにバイトしてるとはいえ、高校生の財布は限界ありますって。
「ほらほら、とりあえず、お参りしないと」
オレは三人を立たせると、
「えーもーやっちゃったの? やっちゃったの!?」
「余裕なの!? リア充爆発しろっ!!」
「うおおおお、オレにも、神様! 彼女ぷりーず!!」
してません!!
だから爆発しません!!
まったくもーお前等、普通に女子と付き合いそうなんだけどなー。
素直でいいけど。そういうところで、引かれちゃうんじゃね?
オレはとにかく家内安全、無病息災をお祈りしますけど、キミ達の分の恋愛成就をお祈りしよう。
あと優哉も!
とにかく、優哉を見た目だけじゃなくて、中身を理解してくれて、気立てがよくて、オカンや遥香ちゃん並に――とまではいわないけれど、オレ並には料理できて、そんで優哉のトラウマを払拭してくれるような、明るくて元気で……いやいや、あいつのことだから、同様に落ち着いた感じがいいのか?
ともかくも優哉と気の合う女子に出会えますよーにっ!!
あと、オカンと隆哉さんがいつまでも仲良くいてくれますよーにっ!!
莉奈ちゃんの彼氏はまだ全然早いから彼氏は除外で、いつもニコニコしてる学校生活がおくれますよーにっ!!
遥香ちゃんも同様に怪我とか病気とかしませんよーにっ!!
学業も、がんばりますのでテストでいい結果でますよーにっ!!
とにかく、家内安全、無病息災……。
「幸星君、みんな行くよ」
遥香ちゃんがオレの袖を引っ張る。
オレははっとして、祈願を終える。
しまった――! 遥香ちゃんともっと仲良くなりたいを忘れた――!!
「すごく長―くお参りしてたね」
遥香ちゃんがニコニコ笑ってそう言う。
そんな彼女を見て、人込みで離れないように彼女の手をとる。
「うん」
でもわかってる、初詣でいろいろお願いしても、結果はその時の自分次第なんだってことは。
でも、今が幸せだから、そういうのが、ずっと続くといいなってことで、ちょっと欲張りなぐらい、お願いしてしまった。
さっさとお参りしたキクタンたちは、おみくじを引きたいと騒いでいる。
おみくじひくのも初めてじゃないかなー。
どれどれ、吉か……へー学業、準備怠るべからずって予習復習ですかね。恋愛は気遣いを忘れずに……か……はい、そのとおりですね。
みんな中吉とか、末吉とかだったけど、意外だったのは、キクタンの大吉と、腐女子の大凶ってところか。
「YES! オレにもっ! 春がっ! くるっ!!」
ガッツポーズのキクタンの横で、腐女子はむっとしている。
「いや、迷信ですからね、べつにね」
「汐里、汐里、利き手じゃない手でおみくじ結ぶと吉を呼び込むらしいよ!」
「そうなの!?」
腐女子は器用に、おみくじを木に結ぶ。貴女、迷信とか言ってたのに、やはり気にするのか。
そして遥香ちゃん、何気にそんなおみくじのこと知ってるのか。
屋台が出てるので、みんな何か食べよーとか話になる。
着物着てるから、汚れないようにしないと。
とりあえず、甘酒でも飲もう。
そういや、買い出しいくスーパーでも甘酒の種類増えたよな。
オレの記憶だと赤い缶の甘酒が印象的なんだけど、最近はペットボトルとか、紙パックとか、パッケージもいろいろ。CMとかでも見るし。
帰りにスーパー寄って甘酒買って帰ろう。
オレ的には生姜を入れたいんだけど、この屋台は生姜入ってない。
子供でも飲みやすいようにってことなのかな。
「遥香ちゃん、甘酒飲める? 嫌いだとかアレルギーとかない?」
「ないです」
屋台のおじさんに甘酒を注文して、一つを遥香ちゃんに渡す。
その様子を見ていた腐女子はオレとキクタン達を見比べる。
「キミ達と真崎の違いはこーゆーところだ」
「はい!?」
「オレも水島さんレベルの可愛い彼女がいたら、やるよ!?」
「いや、好き嫌いを聞いてアレルギーないかまで確認するとか、ないでしょ」
それはうちに莉奈ちゃんがいるからですよ。でも黙っておこう……。
「幸星ー?」
聞きなれた声に振り返ると、優哉がいた。
今回の初詣に、優哉も誘ったら、冬休み前に学校の方で初詣の約束があったと言われていたんだけど……場所は同じだったか。
オレと違って普段着だし、時間も少し遅め設定だったから別々に家を出たんだけど、ここでばったりとは。
「幸星なに着物? 家出た時には普段着だったよな!?」
「遥香ちゃんのお母さんに着つけてもらった」
「おお~いいじゃねーの」
そんな優哉のお言葉ですが、オレの後ろにいるキクタン達も「お前のアニキ……いいポジションだな」と呟く。
クラスメイト達に囲まれてはいるが優哉の左右後ろに、数名の女子が群がってる状態だった。
「リアルハーレム……初めて見たぜ」
「すげーなお前のアニキ」
いつぞやの文化祭の時に遥香ちゃんに絡んできた女子は見当たらないあたり、何があったよ? こわっ!
そしてその周辺を取り囲むのはバスケ部の人達と文化祭でも見かけた優哉のクラスメイト男子。
人数的にはクラス半数ぐらいの人数か?
はー文化祭とか部活の練習試合では周囲は男子が囲んでると思っていたが、それはやっぱ時と場合によりけりなのか。
「えー、優哉君の弟?」
「着物着てる~かわいー」
「着物きてるの、弟君の彼女!?」
「優哉君も着物きてよー」
とりあえず、優哉のお友達に新年の挨拶しようとしたら、オレを押しのけてキクタンがずいっと前に出る。
「……お兄さん!」
優哉の前に出て両手を合わせて叫ぶ。
「是非、モテのご教授を!!」
おまえ、おみくじ大吉だったのに、何故そこでそういうことを……。
そして腐女子! 断りもなくそこで「リアルハーレムすげー」とか言いながら、撮影始めるんじゃありません!!




