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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆70 その信頼はプレッシャー!!





 オレと遥香ちゃんがダイニングに座ると、優哉も莉奈ちゃんも後をついてきた。

 オニイチャン的には心配なのか。そして莉奈ちゃんはリビングの方には誰もいなくなったから寂しくなっちゃった……というのはわかる。

 莉奈ちゃんはちゃっかり遥香ちゃんの膝に座る。

 ごめんね遥香ちゃん。うちの妹、安定の甘えん坊さんで。

 けど二人のツーショットに和んじゃう。


「実はね、先日、水島さんと話し合いをして、うちで遥香ちゃんをお預かりすることにしようかってことになったんだよね」


 我が真崎家の家長のお言葉に、オレと優哉は顔を見合わせる。


 遥香ちゃんは、ご両親が帰国してきたとき、車の中でそんな話とか出ていたみたいで、あ、決まったのか~的な表情をしてた。

 事情的にはまず、遥香ちゃんのご両親の海外勤務が延びそうなこと。

 そして遥香ちゃんの学校生活。

 高校は日本で今のままでいたい遥香ちゃんの意向。

 けど、今年、秋に台風があったじゃないですか。

 この一件がね。一人暮らしには早かったかと、ご両親は心配したそうです。

 そしたら隆哉さんが家でお預かりしますかと提案。

 今の世の中ネットで世界が近くなってきたけど、実際に行動できない歯がゆさはありますよね。まして大事な一人娘ですよ。いくらしっかりしてるって言っても。

 オレも莉奈ちゃんが一人で離れて暮らして、台風に直撃とか想像してみたら心配でしょうがないよ! ご両親の気持ちわかります!

 でも待って。

 隆哉さんもオカンも、遥香ちゃんのご両親も、それ待って。

 ちょっと考えましょうか?


「娘の一人暮らしと、同じ年の男子二人もいる家への下宿と、その二択とか本気ですか?」


 オレが言うと。遥香ちゃんのお父さんが言いましたよ。


「それを言っちゃうところが信頼できるよね。幸星君のその冷静さとかは遥香からも聞いていたし、台風の件や、日常の動画メールなんかでもわかってるから、安心してるかな」


 いやああああ! その信頼はプレッシャー!!

 オレだって普通の男子ですよ!?

 人生二回目だけどめっちゃ普通よ? チートでも天才でもない普通の男子だよ!?

 そりゃヘタなことはしませんけども!

 で、で、でも彼女ですからね? 夢とか理想とか……ごめん、ぶっちゃけ正直いろいろ妄想とかもいろいろありますよ! 

 視界に入る遥香ちゃんの顔を見て、ちょっと息を飲みこんで止める。

 うん。

 今、この子が何を考えているのかわかるよ。大丈夫、そんな「やっぱり迷惑かな」的な表情しなくても。

 正直嬉しいよ。

 ほんとこんなこと、ありえないじゃないか。自分の彼女と一緒に暮らすなんて。

 そういうフワフワした浮ついた気持ちとかとは別に、一番に思うのは、毎日の心配がなくなるってことだ。

 うちで食事して、送り届ける時、心配なんだよ。

 遥香ちゃんを送り届けても、彼女が一人っていうのがね。

 うちは賑やかだから、一人になった時の静寂さが沁みるだろうなって想像できる。

 オレが昔ボッチだったから余計に。

 オレは望んでボッチになって、その静かな時間をオレは簡単に受け入れてたけど、どこか物足りなさみたいなものがあった。寂しいと言えば寂しいって気持ちなんだろうなと今ならわかる。

 だから遥香ちゃんを送り届けて、エレベーターに乗り込んでいく後ろ姿を見る度に、そういう気持ちをこの子が持ってるんじゃないかと思っていた。


「遥香ちゃんはそれでいいの? 我が家はうるさいぞ」


 遥香ちゃんは頷く。


「隆哉さん、オレと優哉の部屋を一緒にしますか?」


 オレがそう尋ねると、遥香ちゃんの膝に座った莉奈ちゃんが顔を上げた。


「え? 莉奈とはるかおねーちゃんと一緒の部屋じゃないの? 莉奈、はるかおねーちゃんと一緒のお部屋がいいのに~!」


 あら。そうなの?

 オレは莉奈ちゃんと隆哉さんと遥香ちゃんのご両親の顔を見る。


「莉奈ちゃん、遥香と一緒でいいの?」


 遥香ちゃんのお母さんが尋ねると、莉奈ちゃんは首を縦に振る。


「一緒にお洋服選んでもらったり、ぬいぐるみさんと遊んでもらったりするの!」

「その方がいいかもしれないわねえ」

「莉奈ちゃん、いいの?」


 遥香ちゃん自身が莉奈ちゃんに尋ねると莉奈ちゃんは答えた。


「はるかおねーちゃんは莉奈のおうちにきて一人はダメなの! 莉奈がいるの!」


 天使かうちの妹。

 そしてお花の形の人参をもぐもぐする。


「いいと思うけど? やっぱり秋口の台風みたいなことがあったら怖いし、地震大国言われる国だし」


 優哉は言う。

 そうだよね、台風だけじゃないか。


「それに幸星が何かしでかしたら、幸星に責任をとらせるということで……」


 オニイチャン! ヤメテ! 何かしでかすとか言うのヤメテ!

 今、いい雰囲気だったでしょうが!?

 そこでその発言はどうなのか!!

 ただでさえ、今、遥香ちゃんのご両親から「信頼してるよ」的な言葉でオレの忍耐縛り上げにきてるの、わかって言ってる? ねえ!?

 過去のトラウマで女子全般にあまり興味がない貴方とオレとでは全然違うんだよ。 

 いざとなったら、柔いこの理性が溶けちゃって、親やオニイチャンが心配してることになりかねないからね!?


「つっても、現状とあんまり変わらない感じじゃない? それよりさ、さっきから気になるのは幸星、お前のスマホ、着信がうるさいんだけど?」

「はい! すみませんね! 大事な家族会議中にうるさくて!」


 スマホをとりだして通知を見ると、キクタンからだ。

 この年末に何の用なのか……もういい、キミは後でね。

 通知音をオフにしておく。


「遥香ちゃん、一つお願いがある」


 遥香ちゃんはぴしっと背筋を伸ばしたままオレを見る。


「一緒に暮らすといろいろ不便も出てくるかもだし、その都度、隆哉さんやオカンに相談して、オレにも相談して、優哉にも相談してほしい。ちゃんと声に、言葉に出してね」

「幸星君……」

「遥香ちゃんのお父さんとお母さんにもだよ? 遠く離れても遥香ちゃんのことは大事な一人娘で心配なんだから、ちゃんと連絡は毎日とって」

「うん……」


 遥香ちゃんが控えめに頷いて笑ってくれた。


「こういうところがねえ」

「今時の高校生っぽくないところだよねえ」


 遥香ちゃんのご両親が口をそろえてそう言う。


「高校に入ってから、なんか悟りを開いちゃったみたいなところがあるんですよお」


 オカンがそう言う。


「幸星君はしっかりしてるよ?」


 隆哉さんも言う。


 ……あっれえ……オレもしかして自分でハードル上げちゃったのか?

 優哉はカウンターから離れてオレの肩をポンと叩く。


「幸星、蟹、もうないの?」

「ありますけど!?」

「蟹……」


 食いしん坊キャラ装ってるけど、話はこれでおしまいだよと、そう言ってる気がした。

 優哉そういうところがあるもんな。

 ここは優哉が作った雰囲気に便乗させてもらう。


「遥香ちゃんもわかってるよね? 食べられるうちに、蟹食べないと、優哉が食べちゃうよ!?」

「は、はい! 莉奈ちゃん行こう!」

「うん!」

 お嬢さんたちが立ち上がってホットプレートの方へ行く。

「チーズかたまってる~」

「さっきスイッチをとめたからだよ。今またあっためるね」




 そんな声を聴きながらオレは両家の親を見る。


「そういうことで、この後、費用の件はもちろん両家の家長で話し合うんですよね?」


 遥香ちゃんと莉奈ちゃんには聞こえない声で尋ねると、両家の家長が顔を見合わせる。


「だからそういうところがキミは高校生かなって思うんだよね」

「しっかりしてるでしょ? うちの息子」


「いや、金の話は大事でしょ、犬猫の話じゃないから……余裕があれば、遥香ちゃんのご自宅はそのままで賃貸に回さないであげて。もちろん水島家の事情もあるから、これはオレの一方的な願望なんで聞き流してくれても構いません」


「……」

「……」


「彼女が何かあった時に、逃げ込める場所、残しておいてあげたいから。もちろんそうならないようにオレ達、頑張るし。『うちのお父さん』が管理してくれると思います」


 うん。

 言いたいことは言った。

 オレがアラサーで経済力があったらそういうところもカバーできるだろうけど。オレは今、高校生で経済力はない。生意気にとられても、これは譲れません。


「幸星~」

「幸星お兄ちゃーん。カニさん~」


 優哉と莉奈ちゃんの声に答えて、オレは両親達に頭を下げてキッチンへ入る。

 遥香ちゃんがリビングからキッチンに入ってきた。


「幸星君……」

「ごめん、蟹ね、今ボイルするから」

「あの、迷惑……だったのかな……」

「何が?」

「その、さっきの……同居のお話」

「迷惑じゃないよ、嬉しいよ。心配かけちゃったか」

「……」

「彼女と同居なんて、どんなラブコメ漫画の展開だよとか思ってるよ。オレ的には浮かれてますよ。だからね、遥香ちゃん」

「はい」

「へんな感じになるのは、なんていうかわざとなんですけど……」

 周囲の信頼裏切るようなことはしたくないからって言っても……。

「よく……わかんない……」

 そっかーわかんないかー。

 照れちゃうな。改めて言うの。

 でも、遥香ちゃんもある程度、危機感、持ってほしいもんな。

 それにこういうことは言わないと伝わらなくて、拗れそう。オレ自身がさっき何かあったら声に言葉に出してって言っちゃったもんなー……。

 照れちゃうけど、仕方ない。


「オレ自身が、いきなりオオカミになりそうなのを戒めないとダメってことだよ」


 オレの呟きが聞こえたみたいで、遥香ちゃんは真っ赤になった。

 はーもーどうするよ、オレも、真っ赤だよ多分。


 このボイルした蟹の殻みたいに。






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