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◆64 誕生日、お祝いされました。





オレが玄関のドアを開けると、莉奈ちゃんが仁王立ちしてパンっとクラッカーを鳴らして出迎えてくれた。

クラッカーの音に「わあ」とオレが言うと莉奈ちゃんは、嬉しそうにオレに飛びついてくる。

誕生日……してくれるって、遥香ちゃんから聞いていたけれど、玄関のドアを開けて早々に莉奈ちゃんのクラッカーには微笑ましくなる。

「コーセーお兄ちゃん! お帰りなさい! おたんじょうび、おめでとう!」

クラッカーのパンって音がまだオレの耳に響いて残っていた。

莉奈ちゃんのキラキラの笑顔を見て、こっちもつられてしまう。

「莉奈ちゃん、びっくりしたよ。ありがとう。手を洗ってうがいしてくるね」

「うん」

なんせ、外からインフルとか持ち込んだらやばいでしょ、うちの莉奈ちゃんまだ6歳。手を洗ってうがいしてから、莉奈ちゃんを抱っこする。

そしてドアを開けると、パンパンとまたクラッカーが鳴る。これには驚いた。クラッカー鳴らすのは莉奈ちゃんだけだと思っていたから。

隆哉さんと優哉がクラッカーを鳴らして、オカンがテーブルに夕飯を載せて待っててくれた。

リビングの周りには優哉の誕生日の時と同じように、飾りつけられていた。

「お誕生日仕様なのよ、先に莉奈ちゃんは食べさせたから」

それでも莉奈ちゃんがこの時間でも食べられるものも用意してくれてた。

「遥香ちゃんがケーキ作ってくれてね」

オレは遥香ちゃんを見ると、遥香ちゃんは照れくさそうにしていた。

テーブルの上に出されたケーキはすごくキレイで、遥香ちゃんの力作。フルーツタルト。

キウイ、ストロベリー、オレンジ、桃、ブルーベリー、すごいな……ジュレがかかって、室内の明かりでキラキラしてる……。

そして優哉の時と同じで1と6のろうそくが刺さっていた。

「幸星?」

「あの、ケーキが、もったいない」

遥香ちゃんの作ってくれたケーキにろうそくって、いや、気持ちはすごく嬉しいけど。

「だろうな、俺も今年の誕生日の時のケーキにこのろうそくが立てられているのを見て、それは思った」

優哉の時の誕生日はチョコレートケーキ。 

つやつやとしたチョコレートのテンパリングにこのろうそくをぶっ刺したのが記憶に新しい。テンパリングの表面に16本のろうそくとかはやめて良かったけど、遥香ちゃんが作ってくれたケーキにぶっ刺してるろうそく自体がダメな気がしてきたよ。

生まれて初めてかも、みんなに祝ってもらう誕生日。

多分赤ちゃんの頃は祝ってもらった……はず? でもこれは記憶にないので。

物心ついた時には家庭内はアレだったし。

莉奈ちゃんが元気よく手拍子してハッピーバースデーを歌ってくれる。

可愛いなあ、オレの妹。

オカンも隆哉さんもちゃんとノリ良く付き合ってくれて……。

泣きたくなるぐらい、オレのいるこの場所は暖かくて……。

この年齢でハッピーバースデーの歌とか、照れくさくてやらなくていいよとか、普通の高校生男子なら言うな。優哉もそうだった。

でもオレにはなんだか新鮮で、ただただ嬉しいだけなんだけどな。

逆に優哉なんかはノリノリだ。自分の時もそうだったから、お前もこの状態がどんなものか身をもって知るといい! 的な雰囲気すらある。


「おめでとーコーセーお兄ちゃん! ろうそく、ふーってして!」


ろうそくを消す時は願い事をしながら、消すとか。

テレビや漫画でなんで誕生日にろうそくを吹き消すのか、意味があるのかと思った。

家族が健康でありますように、世界が平和でありますように、そして最後の三つ目は、自分の願い事を思いながら消すと、叶うらしい。

世界平和はオーバーだけど、家族が健康でありますようにとか幸せでありますようにとかは、オレの願いなんだけど、やっぱりこれしか思いつかない。


「できれば、この幸せが、オレが死ぬまで続きますように」


ろうそくを吹き消して、室内の電気がつけられた。


「莉奈ちゃん、寝る前にちゃんと歯磨きしてね」

莉奈ちゃんはちゃっかりオレの膝に座ってる。

「ケーキたべたい」

「いいよ、でも寝る前だよ、オレに半分頂戴」

 オレがそういうと、莉奈ちゃんは頷く。

「半分かよ」

優哉はそう言うけれど、ちゃんとみんなで誕生日用のパーティ―料理作ってくれたのに。オレはなんかちょっとずつしか食べられそうにもないし。燃費が良すぎるのも考え物だな。

莉奈ちゃんはオレの顔をちらちらと見上げる。

わかってるよー、ケーキの上に乗ってるジュレ掛けのイチゴが食べたいんだね。

でも、オレの誕生日のケーキだから遠慮してる。

オレがフォークでジュレ掛けのイチゴを刺すと、莉奈ちゃんは、はっとしたようだ。

「莉奈ちゃん、遅くまで起きててくれてありがとうね」

そして「あーん」と莉奈ちゃんの口にイチゴの載ったケーキを一口を放り込むと、莉奈ちゃんは目がキラキラしてる。

美味しい時の表情って子供はわかりやすい。

もぐもぐしてごくんと飲み込んで、オレを仰ぎ見る。

「コーセーお兄ちゃん、なんで莉奈がいちご食べたかったの、わかったの!?」

いやわかりますよ、それは。オレだけじゃなくてこの場にいるみんなだいたいわかりますって。

「おいしい?」

「莉奈、いちごすき!」

うん。知ってる。

つぶつぶいちご○ッキーがお気に入りのお菓子でしょ、絶対イチゴとかベリー系は好きだろ。

莉奈ちゃんのお誕生日の時は、オレがベリーのケーキを作るんだ。


「クリームとふわふわのスポンジと、いちごが、お口の中でぱあってなって、おいしーの!」


莉奈ちゃん、食レポすげえ。可愛さだけでなく美味しさが伝わるコメントですね。

「コーセーお兄ちゃんも食べてみて」

莉奈ちゃんに勧められて、オレも一口ケーキを食べた。

うん、美味しい。

幸せの味です。

遅い夕食だったけど、みんな食べて、莉奈ちゃんはうとうとし始めた。

オカンが莉奈ちゃんを歯磨きさせて、その間にオレは洗い物や部屋を片付けようとしたら、優哉と遥香ちゃんが「主役は座ってて」とソファに座ることに。遥香ちゃん、うちのキッチンにいるのが全然違和感がないです。

もうこれ、普通の日常の風景ですよね。

隆哉さんから、紙袋が渡された。


「はい、幸星君、お誕生日おめでとう」


え⁉ 誕生日プレゼント!?

資金はオカンと隆哉さん持ちで、莉奈ちゃん優哉と遥香ちゃんがセレクトしたそうです。

えー、洋服ですか! トップスからボトムまでトータル一式ですか! アウターもインナーもついてるよ。すげえな。奮発したね。

わあ、センスないからなあオレ。ありがたい。


「あ、ありがとうございます」


はーオレ以外みんなお洒落さんだからな~。

今度遥香ちゃんと、デートする時に着よう……。デートでいいんだよね? オレ告ったし。遥香ちゃんからOKもらったし、一緒におでかけってことはデートでいいはず。


「ほんとは、パソコンがいいかなって思ったんだけど……」


今、確実に呼吸止まったよ。


「それだと優哉も欲しいだろうし。幸星君も拘りありそうで実物見た方がいいかなって思って、今度秋葉原に一緒に行こう」


そ、そんな! オレ、バイトしてますから! 週に二回だったけど、秋の台風後はシフトびっちり入ってましたから! 時々日曜日とかも出勤してたし! 型落ちのパソコンならもうちょいで手に入れる金額にきてるんですよ!

いや、でも、嬉しい。

えー何ー、みんなでお買い物って、しかも、オレの趣味の買い物ですよ!

あ。もしかして隆哉さんも欲しいのがあるのか。

こういうの、以前の時は全然なかったから、知らなかったよ。

だって家でもパソコンとかタブレットとか使ってお仕事してるっぽいし。

そしてゲームも時々してるっぽいし! 

オレは何度も無言で頷いた。

高校生でパソコンのスペックとか割と熟読して見る子って少数派だからね、おまけにオレの周りはキクタンも委員長も佐伯も、皆体育会系です。あんまり興味がないというか。

この逆再生で意外にもこの手の話が合いそうなのが、実は隆哉さんかもしれない。


「そうだよなー俺は服とかは普通に悩みなく選択できるけど、スマホ以外のそういった家電とかは動けばいいじゃんだから、よく見てないんだよね。幸星は好きだろそういうの」


優哉も紙のモールやティッシュの花を取り外しながら言う。

そうだね、もうそういうの大好き、文房具系もそうだよ。ハ○ズやロ〇トに入ったら、長時間楽しめるタイプですよオレは。

えーみんなでアキバ行くの? 一人じゃないの?

女子はつまらないんじゃないの? あ、男性陣だけで行くの? それはそれで楽しそうかも! 

本屋さんにも寄りたい! デジタルじゃなくて紙でページをめくる感覚が好き! 買い過ぎないようにしないとダメだけど。

隆哉さんの本とかどうなの? オレにも刺さるジャンルなの? 同じ家に住んでるけどあまり突っ込んできいたことないし! 優哉の部屋には時折お邪魔してるので、だいたい本棚はわかってるし、たまに貸し借りしてますけど!


「じゃあ、僕はそろそろ寝ようかな。みんなも夜更かしはほどほどにね」


優哉もオレも頷く。


「で、水島さんはどっちの部屋で寝るの」

「はい?」

「莉奈と幸星と」


遥香ちゃんは、真っ赤になってた。


「莉奈ちゃんのところです、この家で遥香ちゃんがお泊りの時は莉奈ちゃんのお部屋です。オレが今決めました」

「ふーん」

「遥香ちゃんも、そこは安心してね」

遥香ちゃんは真っ赤になったまま首を縦に振った。

「それと、ありがとね、遥香ちゃん優哉、オレ、こんな誕生日初めてだよ。すごく嬉しかった」

「幸星君……」

「莉奈ちゃんがベッドから転げ落ちないように、見守ってね」

遥香ちゃんを莉奈ちゃんの部屋に送って、オレも紙袋を持ったまま自室のドアを開けると、優哉に呼び止められた。

優哉は自室から小さくラッピングされた箱をとってきてオレに渡す。

「え、何、これ」

ラッピングしてあって、リボンシールまでついてる。

えー、優哉は個人的にこんなのまで用意してくれちゃったの!?

「あっても困るもんじゃないだろうから」

何コレ何コレ!!

「じゃ、オヤスミ~明日は朝食、和食でよろしく」

「う、うん、ありがと優哉」

ドアを閉めて紙袋を置いて、デスクの前に座る。

何かな~これ。

長方形で掌よりもちょっと大きめ? 持つと軽いよ?

でもラッピングが丁寧。なんだろ。

ちょっとわくわくしながら、ラッピングされてる包装紙を外して、オレは固まった。


「……」


今から優哉の部屋に突撃してきてもいいかな?

そんなリアクションしたら、また優哉がニヤニヤして「遠慮なく受け取れ」って語尾にハートマークついてる感じで言うに決まってる。

莉奈ちゃんが予告なく突撃してくるこの部屋のどこに、これを隠せというのだ!

ていうか、どーすんのコレ!

なんてものをよこすの!?

コレ絶対、優哉自身がラッピングしたんだよな⁉ そうだろ!!

お前、どんな顔でこれ購入した!? お店の人だってめっちゃイケメンがこれ買ったらビックリすんだろ! 

オレは箱を手にしてデスクに突っ伏した。

その箱はオレがアラサーまで生きて死ぬまで使用したことのない……うすうすとか0.02ミリとか書いてある箱だった。






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