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◆63 やっぱり告白、できなかった。(遥香視点)




幸星君に、告白しようと思ったのに……告白できなかった。

でも、すごくすごく嬉しい。

わたしね、今、幸星君と手を繋いで幸星君のおうちに向かってます。

幸星君はコートのポケットに私の手を入れて。

恋人つなぎ。

手をつなぐことはあったけど、これは初めてだ。

幸星君は童顔で、可愛い感じの男の子だけど、手は男の人の手だ。絡めた指にあたる幸星君の指が骨っぽくて硬い。

わたしは告白できなかったけれど、幸星君が、さらーっと言ってくれた。

もう、幸星君のこういうところ、信じられない。いつもびっくりさせられる。そのたびにドキドキする。




期末テスト期間中、幸星君のおうちにお邪魔するのはやめようと思った。

テスト頑張ろう。幸星君のおうちにお邪魔すると、楽しくなっちゃって、勉強が手に着かなくなりそうだし。

でも。莉奈ちゃんの「おねーちゃん、きてくれなくて、りな、さみしいの」というスタンプつきの可愛いラ○ンがきたり、幸星君のお母さんから「ごはんの支度がアレだったらいつでもきてね」のラ○ンがあったり、嬉しかったけれど、一番嬉しかったのは、幸星君からのラ○ンだった。

嬉しくて電話しちゃった。

登下校は一緒だし、クラスも一緒だけど、幸星君とお話するのほっとするの。

テスト頑張らなきゃって思った。

そしてテストは無事に終了。

幸星君がいつも一緒にいる菊田君と富原君と佐伯君、そして汐里も一緒に幸星君のおうちで打ち上げすることに。幸星君はおうちのことをいろいろしてるし、バイトもあるから、これまで体育祭や文化祭の打ち上げなんかには参加してなかった。

幸星君が着替えている間、みんなにお茶とか用意してると、なんか男子がヘンな顔をし始めていた。

それもそのはずだ。


「お前等、やっぱ付き合ってるの? 水島さんがすげえキッチン周り把握してて、俺等、チョーびびったんですけど」


富原君に言われて、わたしだけじゃなくて幸星君もはっとして、ふたりであわあわした。

莉奈ちゃんが帰宅すると莉奈ちゃんはわたしに「おねーちゃーん!」って懐いてくれたけど、幸星君が友達とはしゃいでるのを見て、ムっとしたらしい。

莉奈ちゃんにとって身近な高校生は幸星君と優哉君だから、こんなふざけあってる幸星君とか見たことないだろうし、ショックだったのかな。

莉奈ちゃんに一喝されて幸星君はしょぼんとしていたけど、莉奈ちゃんはわたしを自室にひっぱりドアを閉めた。


「莉奈はおねーちゃんとお話したかったのに、お友達の人うるさいの」

「莉奈ちゃんのクラスの男の子もあんな感じでしょ? 高校生もだいたい男の子は何人か集まるとあんな感じなのよ」

莉奈ちゃんはお気に入りのウサギのぬいぐるみを持って、わたしの手を引っ張ってラグの上にふたりで座った。

「あのね、莉奈ね、ママにきいたの、おねーちゃん知ってた?」

「うん?」

「コーセーお兄ちゃん、来週、お誕生日なの」

「え!?」

 莉奈ちゃんは頷く。そして手でウサギのぬいぐるみも頷かせている。

「莉奈は、コーセーお兄ちゃんお誕生日おめでとうってしたいの、ないしょで準備して、びっくりさせたいの、おねーちゃんに手伝ってほしいの」

莉奈ちゃん……なんていい子なのかな。

「うん、莉奈ちゃんありがとう、誘ってくれて、幸星君をびっくりさせたいね」

「よかった~絶対おねーちゃんなら、手伝ってくれると思ったの~」

さっそくスマホをとりだして優哉君にもラ○ンで相談したら、「俺の時みたいに幼稚園仕様でよろしく」って返信がきた。

お部屋を紙のモールで飾ったり、紙のお花で飾ったり、クラッカーを用意したりしろってラ○ンで指示が飛んだ。

そしてドキリとした。最後の文。


「幸星は小さい頃、いろいろあって、そういう誕生日を一度もしたことがないから」


100円ショップで飾りつけの材料とかを購入していた時、優哉君が教えてくれた。

真崎家は再婚家庭で、それまでは咲子さんと幸星君の二人暮らしだったけど、実のお父さんとは離婚しているらしく、離婚の原因はその実のお父さんにあると、さらりと教えてもらった。詳しいことは幸星君からいずれ言われるかもねと優哉君はそう言ってくれた。


「幸星が莉奈をメチャクチャ可愛がったり、家族のイベントを率先して大事にしたりするのは、それが原因かもしれないと俺は思ってる。幸せな家庭の風景で過去を上書きしたいのかもしれない。だから俺は幸星のやることに手を貸してる。実際、一般的な再婚家庭よりもうちは円満な状態だし、それは幸星の頑張りによるところが大きいと思う。俺は幸星みたいには料理できないから」


優哉君は料理ができないのではなく、しようとしないだけなのでは……。頑張れば幸星君ほどではないけれど、普通にできそうだけれど……。

それに、優哉君は幸星君やわたしと同じ年だけど、すごく大人っぽいし、しっかりしてると思うけどな。

共働きの両親を持って、小さい妹がいるおうちの中で、幸星君をフォローしてたりするの、優哉君だと思うし。


「そういう過去がなくても幸星の誕生日なら、あいつが喜ぶことしてやりたい」


それはわたしも同じです。

幸星君の誕生日、頑張ってケーキも焼いちゃおう。どんなケーキがいいかな。

それに誕生日プレゼント、どうしよう。どんなのがいいのかな。

手作りとかは重いかな……最近の男の子は手作り重いとか聞いたことあるし。

でも、こんな風に、いろいろ考えるの楽しい。幸星君が莉奈ちゃんや優哉君のこと考えてたりするの、こんな気持ちなのかな。

優哉君は、ケーキは水島さんが手作りなら、間違いない。幸星が「わー」とかいうヤツ作ってやってって言ってくれたので、もういろいろ考えた。

やっぱりフルーツがいっぱいのタルトケーキにしよう。上にジュレ掛けしたら反射でキラキラしそうだし。いろんな味が楽しめるし。


「優哉君、誕生日プレゼントはどうしよう」

「あいつ冬生まれだからなーいろいろ小物系を選び放題だろ。マフラーや手袋や……もしかして水島さん手編みとか考えてる!? 」

「それはクリスマス用にすでに作り始めてるんですよ……幸星君の誕生日を教えてもらったのつい最近だし……」

そうなの、いつもお世話になってるから、真崎家の皆さんの分のひざ掛けとかマフラーを作り始めているのです。汐里に相談して色も決めてもらったし。真崎家みなさんになら手作りでも重いとか……ないかなって。

「あー間に合わないか……彼女からならなんでも喜ぶと思うけど」

「彼女……」

わたしが首を傾げると、優哉君もわたしを見て首を傾げた。

「え?」

「……」

「ちょ、待って、もしかしてまさかキミ達、まだ付き合ってない?」

「は……はい」

優哉君は片手で顔を覆って、「あほか、あいつは何やってんだ」と呟く。

「あの、優哉君……あの、えっと、その、わたし以前、幸星君に友達って言ってしまったんです……照れちゃって、本当のこと言ったら気まずくなりそうで……」

「本当の事?」

「友達なんかじゃなくて、その、その……」

わたしがもじもじしてると優哉君が生温い視線をわたしに向けていた。

「彼女になりたかったと? そういうこと?」

そうなの……幸星君はきっとわたしのこと、友達としては好きって思ってくれるかもだけど。か、彼女とか……でも彼女……に、なりたいな……。

その他大勢の友達の一人じゃなくて。

うん、決めた。

幸星君の誕生日、わたし、告白します。

あいにく誕生日の当日は幸星君アルバイトに行ってる予定だから、わたし、幸星君をお迎えに行く。そこで告白する!


「わたし、幸星君に告白します」


優哉君はうんうんと頷いた。

「是非、お願い。アイツはこっちから動かないと遠慮しちゃうから」

そして優哉君は「はー妹増えたわー」とか呟いていた。

いきなりそっち!? そ、それはいくらなんでも早くないですか!?




幸星君に内緒でいろいろ準備を進めていたけれど、さすがに、優哉君と莉奈ちゃんとわたしでなんだか隠し事をしているなっていうのは気が付いてて、何してるのか聞かれたけれど、莉奈ちゃんが「おねーちゃんとひみつのおはなしだから、幸星お兄ちゃんはダメなの」とか言われて、傍目にもすごく落ち込んでいた。

びっくりさせたいだけなんだけどな。

そして幸星君がバイトに出かけてから、優哉君と莉奈ちゃんがわたしを真崎家に呼んでくれた。ケーキを持ってお邪魔する。そしてリビングをモールで飾って、ティッシュで作ったお花も飾って、みんなプレゼントを用意して……優哉君はクラッカーも用意してて。

なんだか一足早いクリスマスみたい。

そうこうしてると優哉君のお父さんと幸星君のお母さんが帰宅。

「とうとう本番だね」

「まあまあ、遥香ちゃん、わざわざケーキまで用意してくれて……ありがとうね」

そして幸星君のお母さん莉奈ちゃんと一緒にパーティー料理を作っていたけど、そろそろ

時間だと優哉君がわたしに知らせてくれた。

「じゃ、幸星君を迎えに行ってきます」

「えー寒いわよ、ここで待っててもいいのに~」

「幸星がうすうす気が付いてるからな、俺が水島さんを幸星のバイト先まで送ります。送り届けたらダッシュでこっちに戻るんで」

「え! コーセーお兄ちゃんにバレちゃったの!?」

莉奈ちゃんが声をあげると。優哉君がクスクス笑う。

「バレてないけど仲間外れで寂しん坊な感じだった」

「そ、そうなんだ、よかった~」

「だから誕生日おめでとうを水島さん最初に言わせてあげてな、莉奈」

「いいよ! でも莉奈が一番にクラッカーをパンってするよ!」

「おー。派手にやってくれ。じゃ、行こうか水島さん」


コートを着て優哉君の付き添いで幸星君のバイト先までいく。

街はもうクリスマス一色。

イルミネーションが綺麗。幸星君とこれを見ながらもう一度真崎家に戻るの、その間に告白しなきゃ……ドキドキするなあ。

優哉君はわたしを送り届けると「健闘を祈る」とか言って、本当にダッシュでおうちに戻って行った。

幸星君のバイトのお店の前で深呼吸すると、お店の人がでてきた。

優哉君と同じ学校の人だ。西園寺君って言われていた。

西園寺君は最初わたしを見てお客かと思ったようだ。でもはっとして「店、閉めるから、すぐに真崎の弟、帰らせるよ」と言ってくれた。そしてお店にクローズの札を出した。

お店のドアの中に入ると、幸星君がすぐに出てきてくれた。


「遥香ちゃん⁉ ちょ、風邪ひくよ⁉ どうしたの、何があったの?」


幸星君が慌ててお店のドアを開けてわたしに声をかけてくれた。


「お迎えにきました」


わたしがそう言うと、幸星君は慌てて帰り支度をしてお店の外で待ってるわたしの前にきた。


「ごめん、寒いのに待たせて」


全然、そんなことないのに。

というかわたしは告白するのに、自分の恰好がおかしくないかな、髪とか跳ねてないかなとか、リップ塗りなおしておけばよかったかなとかいろいろ思ってたので、全然、待ってない。

ドキドキはしたけど。


「ううん。バイト中だったのにごめんね。そろそろ終わるかなって思って……」

「どうしたの、こんな時間に……」

「うん。あのね、莉奈ちゃんの秘密のお話をしにきたの」

幸星君はもうわたし達がいろいろ準備してるの、気が付いてるって優哉君は言ってた。

わたしもそう思う。

「莉奈ちゃん、ほんとは幸星君にお話したくて、ずっと我慢してたの」

「ちょっと待って!」

幸星君が慌てたようにわたしの言葉を遮る。

「はい」

「あの、先に質問していい? それっていいこと? 悪いこと?」

ああ、もう、幸星君いろいろ考えすぎちゃったのね。

「なんで悪いことなのかな? いいことですよ。莉奈ちゃんが言い出して、悪いことのはずないじゃないですか」

幸星君はほっとしたように息を吐く。寒くて、その息が白い。

「遥香ちゃん」

幸星君はわたしに手を差し伸べたので、わたしは迷わずにその手をとった。

間違ってないよね? 幸星君の手を握ると幸星君は嬉しそうだった。

まるで小さい子になったみたいな気分。

「幸星君、手、冷たいね」

「うん」

さっきまでお仕事してたからかな? わたしも手袋していないから、幸星君に負けないぐらい手が冷たい。ポケットにカイロいれておけばよかったかな……。そしたら、幸星君の手、温められたのにな。

幸星君はわたしの手を繋いだまま幸星君のコートのポケットに入れた。

「わ」

幸星君と距離が近づいて、ドキドキする。

この距離で、こ、こ、告白!?

わーどうしよう、緊張する。顔が絶対赤くなってるよね。

でも、こうしてると、あの台風の日を思い出す。

幸星君が、わたしの家にきてくれて、みんなと一緒にいようって言ってくれたこと。

すごく、嬉しかった。

幸星君が私の顔を見る。

あの日みたいだねと思って、自然に笑顔になってた。

告白しなきゃって思ってたのに……。

そしたら幸星君が真剣な表情でわたしに言った。


「オレね、遥香ちゃんの事、好きだよ」


え?

わ、わたし、告白まだしてない……。


「だから、どうかオレの彼女になってください」


うそ……。わ、わたし、幸星君から、今、告白された……? 告白された!!

何これ……すごい偶然……。もう、びっくりする。

わたし、あの夏の日、ずっと後悔していた。告白したかったのに、チャンスだったのに、「友達」なんて言葉に置き換えちゃったこと。

本当は「幸星君のことが好き」って言いたかったの。

でも「ごめんね」って言われたくなくて、勇気がなくて言えなかった。

気まずくなって、幸星君と一緒にいれなくなっちゃうのが嫌だった。

それなのに、幸星君は、告白してくれた。

嬉しくて泣きそう。

幸星君は歩くのをやめて私の顔をのぞき込む。。

うれし涙なんだよ、そんな心配そうな顔しないで。


「はい。わたしも幸星君が好きです」


言えた……。言っちゃった。でも、今度は後悔しないよ。

答えが決まってなくても、わたしは告白したかったから。


「……ほんとはね、今日、わたしが幸星君に告白したかったの。その為にわたし、お迎えに立候補したの。優哉君は女の子は危ないからって送ってくれたの。優哉君は先に走って帰っちゃった。今頃はおうちについてると思う」

 

幸星君は驚いた顔をしていた。

照れちゃって、恥ずかしくて、でも嬉しくてちょっと体温が上がったかも。

わたしの手の方があったかくなってる。


「あのね」

「うん」

「莉奈ちゃんが考えて、準備したいから手伝ってって言われたの。優哉君が、この日は幸星君がバイトだからって言われて、莉奈ちゃんはしょんぼりしてたけど、まだ頑張って起きてるはず」

幸星君はなんの準備なのかわかってないみたい。

「幸星君、まだ気が付かないのね」

「え……ごめ、わからない。なんの準備かわからないけれど、早く教えてくれたらオレが手伝ったのに……とは思うけど……」

「そういうわけにはいかないの、だって幸星君が主役なんだもの」

幸星君は首を傾げている。

「幸星君」

「うん」


「16歳、おめでとう」


わたしがそう言うと幸星君ははっとしたみたいだ


「あ! え⁉ うそ、え、オレ誕生日!」


わたしはその言葉に頷く。

莉奈ちゃんの「秘密のお話」は幸星君の誕生日をお祝いする準備だったことを明かした。

莉奈ちゃん。成功だよ。わたしは笑顔になってた。


「幸星君すっごくビックリした顔」

「まじかよー」


幸星君は空いてるもう一つの手で顔面を覆う。


「でも、わたしもビックリした。この日に幸星君に絶対告白しようって決めたのに、幸星君が言うんだもん」


わたしがそう言うと、幸星君はポケットの中のわたしの手を握り直した。

恋人つなぎに。

わたし、彼女にしてくださいって、彼氏になってくださいって、告白できなかったけれど。

でも伝えられたよ。


わたしも幸星君が好きですって。


恋人つなぎの手が、だんだん温かくなって、あの日みたいに、幸星君のおうちにつくまでずっとずっとつないでいた。





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