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◆59 11月のイベントは莉奈ちゃんが主役でしょう。






「それでね、莉奈ね、おきものきるんだって! おしゃしんもとるの!」

 莉奈ちゃんは、遥香ちゃんに一生懸命お話している。

 いつもの通り、朝の登校風景だ。

「ハロウィンまじょっこのつぎはおきものなのね……莉奈、おきものきるのしってたら、遥香おねーちゃんにまじょっこのふく作ってなんて、わがままいわなきゃ、よかったな」

「魔女っ子莉奈ちゃんダメだった?」

「ううん、すごくすごーくうれしかった! でも遥香おねーちゃんおじかんかけちゃったからわるかったなって……」

「わたしも、莉奈ちゃんの魔女っ子見れて嬉しかったからいいの」

「ほんと!?」

「うん」

「お写真、できたら見せてね?」

遥香ちゃんがそう言うと、莉奈ちゃんは「え⁉」って表情をしている。


「遥香おねーちゃんも一緒じゃないの⁉ パパ、お兄ちゃんたち!!」


莉奈ちゃんがくるりとオレ達に振り返ってそう叫んだ。

オレと隆哉さんと優哉はどう説明していいものか悩んだ。

お着物来て写真を撮る……もうお分かりですね。そう、莉奈ちゃんは七五三なのです。

家族そろって写真撮影とかも予定してるとか。

オレがバイトで忙殺されていた時に、真崎家のトップ会談(隆哉さんとオカン)で着々とこのイベントの準備は進んでいたようだ。

着物レンタルなんかはもっと以前、夏休みぐらいからあったみたいで……。

遥香ちゃんと花火大会観に行った時にオカンが莉奈ちゃんを連れだして、着物レンタルの予約なんかをしていたようです。

浴衣と着物はちょっと違うけど、大きく括れば和服なので、夏の花火大会行きたい~からの、遥香おねーちゃんの浴衣のお写真撮って~は、なんていうか着物の柄って他にどんなのがあるだろうという莉奈ちゃんの好奇心からきていたと、オレは今隆哉さんから聞くことになった……。

ま、まあね、末っ子、しかもお子様のイベント七五三なら、そのくらいから準備だよね。

莉奈ちゃんの七五三、隆哉さんとオカンの再婚、オレと優哉の高校入学もあったから、記念に写真館で莉奈ちゃんの撮影に合わせて家族写真も一枚とっておこうって感じらしかったんだけども……。


「幸星と水島さんが結婚すれば家族写真に入るけどな」

「ハイ⁉」

「優哉、それは法律的に無理」

「知ってる。莉奈、水島さんは真崎家の家族になる時にお写真撮ることになるから。今回はなしなんだよ」


莉奈ちゃん……無邪気なだけに、とんでもない発言。そんでもって隆哉さんも優哉もそれに何を被せるようにぶっこんでくるんだよ⁉

遥香ちゃんに申し訳ないでしょうが!


「えーそうなのー? いつなるのー?」

「り、莉奈ちゃん、わたし、その日は前からお友達と約束してるのよ」


遥香ちゃんもあわあわと答える。

……動揺しつつも、上手く切り返すとは……さすがだ。遥香ちゃん。

我が家の男性陣は、この遥香ちゃんのナイスな受け答えをリスペクトして下さい。

莉奈ちゃんは小首をかしげて考え込んでる。


「うーん……わかった~。おともだちとおやくそくしてるなら、ざんねんだけどしかたないのね」

「うん。お写真出来たら見せてくれる? 莉奈ちゃんの可愛い七五三の写真みたいな」


遥香ちゃんの言葉に、莉奈ちゃんはぱあと笑顔になった。


「はい! みにきてください! じゃ、お姉ちゃん、お兄ちゃんたち、パパ、行ってきまーす!」


そして莉奈ちゃんはオレ達に手を振ってから、元気よくタタっと学校の正門を通って行った。

ごめんね、オレ、何も言えなかったよ遥香ちゃん。キミのメンタルがとんでもないことになったこの朝の登校時間、オレは成す術がなかった。

もしも、遥香ちゃんがオレの彼女だったとしても、オレは彼女を上手くフォローしてあげられたかな? 


「ごめんね、遥香ちゃん」

「家族写真ですから、当然ですよ」


……そっち!? 今のオレのごめんねを家族写真に入れてあげられなくてごめんねという、そっちで受け取っちゃったの⁉

オレが驚いてると、遥香ちゃんはオレの顔を見て、みるみるうちに真っ赤になった。

何、え⁉ 告白しても大丈夫なわけ!?

っていうか義父と義兄がいる目の前では告れないからね!


「いや、莉奈ちゃんが……無邪気に言うもんだから、ほんと申し訳ないというか」

「あ、はい、その、はい」


隆哉さんと優哉の生温い視線が突き刺さる。

絶対オレと遥香ちゃんの反応見てニヤニヤしてる! 振り返らなくてもわかるよ!

ツーショット写真ならオレ、夏の花火大会の日に撮ってある。今日はそれを待ち受け画面に設定しておく。

ちなみに、遥香ちゃんの用事って、腐女子につきあってイベント参加らしい。

頑張れ、遥香ちゃん、前日にお手製のクッキーでも焼いて差し入れます。




そして当日、朝からバタバタしてました。主にオカンが。

莉奈ちゃんを着物レンタル屋さんに連れて行き、着付けやメイクを。これはオカンと隆哉さんが莉奈ちゃんを連れて行って、オレと優哉は自宅待機。

七五三の記憶なんてないなあ。

ちなみに、オレはリビングのソファに座って優哉の七五三の写真を見せてもらっている。

うむ。幼少のみぎりより、オニイチャンはイケメンでした。まあ、袴が似合うこと。

隆哉さんとその前妻さんの姿も一緒に映っている。

そう優哉のお母さんです。お写真で見る限り線の細い儚げな美人さんでした。莉奈ちゃんを出産してから、すぐに亡くなってしまったそうで、身体の弱い人だったようだ。

オカンとはタイプが違う。オカンは童顔だからな。まあ、年より常に若く見られがちだからそれはそれでいいんだろう。

そして職業柄、オカンはパワーはあるから。メンタルも強いし。若い頃はわからないけれど。

いや今も若くは見えるんですけれどね。


「幸星、親父からラインきた、先に神社に行くって」

「ういーっす」

パタンと皮表紙のお写真を閉じて優哉に渡す。

「記念写真が先かと思ってたんだけどな」

「混んでるらしい」

ちなみにオレ等は休みだけど制服着用です。


「咲子さんが大変だよな、こういうイベントって。着物着せて神社に行って、記念撮影とかそのあとお祝い料理とか、外食にしてもいいところを、おうちでお祝いゴハン作るとかさ」


レンタルした着物を汚しちゃうかもだから、今回お外でのお食事会とかはなしでってことになったんだよね。莉奈ちゃん着物着ても多分お行儀いいし、大丈夫とは思うんだけど。

ただ子供にやってやりたかったんじゃないかな……こういうお祝い。オレの時は多分できなかったんだろうし。七五三の記憶ねえから。

それにおうちでお祝いゴハンは、オレも手伝いたかった。外食で緊張しちゃうのは、莉奈ちゃんよりむしろオレかも。


「うーん、でも、本人張り切っちゃってるから。いいんじゃね? あ、優哉は外食にした方がよかったか?」

「オレも外より家がいいけど、お前が大変じゃね? あと咲子さん」


オレは別に手間でもなんでもないし慣れてるし、それにオカンと二人がかりでやれば別に問題ないし、それより外食だとオニイチャン、注目されっぱなしで思いっきり食えないもんな。家帰って小腹減ったとかありそうだし。

今日は気兼ねなく、たらふく食うといい。

オレもオカンも頑張るよ。お祝い料理。

とは言っても、『おつくり』と『鯛の塩焼き』はいつものスーパーの鮮魚コーナーで予約してきたんだけどさ。この二つがあればハレの日感がでるだろ。

天ぷらとサラダは帰宅してとりかかる。

炊飯ジャーの中身を確認してオレはタイマーをセットした。

お赤飯ですよー。お祝いですからー。

お肉はローストビーフ。デザートのケーキこの二点はもう仕込んである。


「問題ない」


ゲン○ウ風にキリっと言うと、優哉は苦笑していた。




祈祷の予約も事前にいれていて、オレ達が神社につくと、莉奈ちゃん達もほどなくしてやってきた。

隆哉さんの車から出てきた莉奈ちゃんの可愛さといったら。

もう車から出てきた瞬間スマホを構えたね。


「幸星! ステイ! 写真はご祈祷終えてから!」

「一枚だけ! 一枚だけ取らせて!」

「どこのカメコだお前!」

「莉奈ちゃん、千歳あめの袋持って! にこにこしてー! はい!」


は~可愛いな~もー。

莉奈ちゃん赤いお着物が似合うねー。いいねー。

七歳までは神の子とか言うけど、まじ天使だね! うち以外の数組の七五三の子がいるけど、うちの莉奈ちゃんが一番可愛いからね!

あとから莉奈ちゃんに訊いたけど、オレのリアクションは隆哉さんやオカンとまったく同じだったそうだ。

莉奈ちゃんが着付けとメイクが終わったら、隆哉さんとオカンはスマホを片手にとにかく一枚だけでも撮る! 状態だったらしい。

ご祈祷を終えると、今度は写真館へ。

そこでも七五三衣裳をきた子供達がわらわらといた。

どのご家族の人も忙しそうというか。

そうだよねー、普通は大人しくしてないよねー。

ましてやその下に赤ちゃんがいるところとか、中には子供三人でちゃんと七五三になってるご家族とかもいて、すごいよ。

そんな状態の中でも莉奈ちゃんは大人しく待ってて、偉い!


「莉奈ちゃんお着物、苦しくない? 大丈夫?」

「うん、だいじょうぶ」

オカンが何かと世話を焼いている。

「はー莉奈ちゃんが大きくなって成人式とかになったら、オレ泣いちゃうかもなー」

七五三で感動して泣きそうな状態なんですけど、オレ。

「動くな、幸星、お前、毛先跳ねてるから」

オニイチャンがオレの髪を直してくれている。

後ろは見えないからいいじゃん。莉奈ちゃんは帯の形も写すから全体的にチェックする必要があるけど。

「ダメ、親父は多分、これを年賀ハガキ用にするから」

おっふ、そうですか。


「お待たせしました。真崎様~こちらへどうぞ~」


撮影をするスクリーンの前に莉奈ちゃんを立たせて最初に莉奈ちゃんだけで撮影。

カメラの連写すげえ。

普通に立って撮るだけなのに、まるで動いているスポーツ選手撮るカメラマンの連写みたい。自動連写なんだろうけど。

オレは学校行事の集合写真を撮るのを想像していたから……、ほら、あれって、結構一枚、二枚じゃん? それとはまた違うんだね。

そして単体の莉奈ちゃんを撮っている横でオレと隆哉さんとオカンがスマホを構えて撮りまくってます。

その後、家族全員でスクリーンの前に立つ。

もうこのシーズン、かき入れ時で何組という撮影をこなしてきたであろう、カメラマンの人も隆哉さんと優哉を見て、はっとしていた。

どこのモデルさんだよ、と思ったに違いない。


「じゃ撮りまーす」


そして、家族写真を撮り終わった後、優哉を除くみんなが「ちょっとだけちょっとだけこのままで!」と各々のスマホで莉奈ちゃんを撮りまくったことをお伝えしておきます。








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