◆58 ハロウィンってアレだなと思ってたけど。良き。
「おにーちゃん、もうすぐハロウィンなの。でもハロウィンってなにをするの?」
コスプレ!
脊髄反射で答えそうになるのをぐっと堪えた。そうじゃないだろ。
「ハロウィンは~日本でいうところのお盆です」
「おぼん」
オレはスマホに指を滑らせて調べる。
へー、アメリカが発祥とか思ったけど、ケルト民族発祥だったんだなー。
どう説明するかなー。難しいところを端折って簡単に……。
「お祝いなの?」
「お祝い……っていうかそういうと華やかな感じになっちゃうけど、亡くなった人の魂が、こっちに来るから、みんな元気だよってお知らせするというか」
「なんでこすぷれをするの?」
……莉奈ちゃんから「こすぷれ」とかいうワードでたよ! 情報化社会だから、そういったワードは耳にするだろうし、使うだろうが、ヲタなお兄ちゃんはドキドキだよ!
「あの世とこの世が繋がって、亡くなった人の魂だけじゃなくて、悪い魂も一緒にくるから、それを寄せ付けないように怖い恰好をしてみたらしいよ」
「そうなの……かわいいかっこしてはだめなの?」
「元々はそういうはじまりで、今はいろいろな仮装をしてるみたいだけどね」
そんで街を練り歩くコスプレイベントになりましたけどね。
莉奈ちゃんはもじもじする。何か言いたいのかな。
「あのね、あのね、コーセーお兄ちゃん……莉奈ね、クラスのおともだちとね、ハロウィンパーティーしたいの……」
「じゃあ、隆哉さんにおうちでやってもいいですかって聞いておくね」
「莉奈のおうちでしていいの?」
「人数によるけど、たくさんなの?」
「ううん、まえにおうちでいっしょにゲームした子たち」
じゃあ大丈夫でしょ、昼過ぎからやっても、最近は秋も深まって日が落ちるのも早くなったから、早めに終了できてしまうし。お菓子をいろいろ用意しないとね。
イベントっぽいのを考えた方がいいかな。遥香ちゃんにラ○ンで相談してみよう。
優哉も相談にのってくれるかな。
まず先に、隆哉さんとオカンにうちでやっていいか聞かないと……。
そう思ってると莉奈ちゃんがスマホの画面をポチポチして、オレに画面を見せる。
「パパもママもいいって!」
……速いよ、莉奈ちゃん……。よっぽど楽しみなんだな。
玄関で優哉の「ただいまー」の声がする。
莉奈ちゃんはぴゅーと優哉の傍に行った。
「おかえり、優哉お兄ちゃん! あのね、莉奈ね、ハロウィンパーティーするの」
「わかった、わかったから! まって、着替えたいから!」
玄関先からそんな声が聞こえてくる。
オレはキッチンで夕飯の支度にとりかかる。
今日はオレの秋メニューです。メインはさんまの塩焼きですが。
このさんま生食用で売っていたので、ちょっと試してみたい。
やってみたことないけど、やり方は動画で見たからいける気がする。
あとは遥香ちゃんから教えてもらったしいたけのチーズ焼き。
レシピ聞いた時、絶対、お弁当のおかずになると思った。これはできるだけ作ろう。
洋食っぽくて莉奈ちゃんは好きそう。
あとは具沢山みそ汁で。豚汁の具はもう冷凍でも水煮でもいいかと。ただ、具沢山にしたいので安めの食材をなんでも入れる。お豆腐も賽の目にしていれちゃえ~。
毎度思うけど、オレ一人だったらこれを完食するのは無理だけど、優哉がだいたい食べてくれるからな~。あとは今日夜勤のオカンが、帰宅したら、食べてくれるし。
オレはキッチンでさんまをさばきながら二人の会話を聴いてた。
さんまは軽く包丁の先でうろこ落として、水で洗って、頭を落として、ハラワタを出す。これで塩焼き用。これを人数分。グリルに入れたいけど、このあと集中する作業が待っているので、さんま焦がしそうだから、バットにいれてあとでね~。
あと二尾。
ワタを出すまでは同じだけど、ここからがやったことがないので勝負。
切り落としてある頭があった部分の中骨に包丁を入れる。中骨に刃を入れて、一気にしっぽの方まで包丁を滑らせた。
よっしゃああああ、いったあああ! うわーなんか気持ちいいね! いいさんまなのかなこれ?
そして反対も同じように骨に刃を入れて骨と身を剥がす。これが三枚おろしというやつです。三枚におろしたさんま、これの皮を剥がす。皮薄いな……。お魚売り場の人が、「カツオに比べたらさんまの皮はまだ剥がしやすい」とか言ってたから、いける。頑張れオレ。
包丁でちょっと皮だけ指先でとれるようにして……おもむろに手でこれも一気にピユーっと剥がしてみた。できた! あと三枚分。
これで皮を剥がしたやつをスライスすると、さんま刺し身になるのですが、オレはこれを包丁で叩きに。これだと身に残ってる小骨、取れるやつはとるけども、残っちゃってたら粉砕できていい。叩きにしたやつと、予めみじん切りにしていた薬味、小葱、みょうが、オオバ、ショウガ、あと味噌。これで和える。もうおわかりですね。さんまのなめろうです。
なめろう、作ってみたかったんだ~隆哉さんよろこんでくれるといいなあ。
オカンにはこれを焼いたやつを出す。ナマはちょっとね、時間経っちゃうからね。
なめろうを小鉢にとりわけたところでラップして冷蔵庫へ。
「今日は何?」
「メインはさんまの塩焼き。遥香ちゃんに教えてもらったシイタケのチーズ焼きと、さんまのなめろうと、具沢山みそ汁」
作業をしていた場所を片付けるついでに、オレは優哉の手にしている弁当箱をよこせと手でジェスチャーすると、優哉が渡してくる。
「なめろう!? 楽しみだな」
「莉奈は、ハロウィンパーティーがたのしみなの!」
「莉奈の言うそれは、うちでやるのか?」
「うん」
「……そんで幸星がいろいろ用意するのか?」
「ダメなのか?」
「いいや……お前、マジ付き合いいいなと思って……最近そういうのをやる親も少数派な感じがするんだよね」
そりゃ今のご時世、親も忙しいだろう。
「莉奈ちゃんぐらいだとさ、そういうイベントって楽しいじゃん。オレあんまりそういう楽しい思い出ないし」
オレがそういうと、優哉は「しまった」と思ったらしい。左手で口元を抑えて明後日の方向に視線を飛ばしていた。
いや、もう過ぎたことだし、こうやって莉奈ちゃんにおねだりされて、準備するの楽しいからいいんだけど。
「ねえオニイチャン、ベランダの窓にハロウィンシールとか貼りたいなー」
ガラスに貼る透明のシール。
イベント感でるじゃん、あれ。
「でも、オレ、センスないんだよねー、誰かやってくれないかなー」
「……俺が莉奈とやります」
はい、お願いします。莉奈ちゃんと優哉ならセンスいいから、可愛く飾りつけをしてくれる。
オレはそういうセンスがまじでないからな。
そのかわりいろいろ作りますよ、お菓子。
なんたってトリック・オア・トリートなんだから。
「莉奈は、かそうもするの!」
……そっちはオカンに頼むしかないかな……。
お菓子は作れるけど裁縫はできないんだよ。
「ハロウィンパーティー……楽しそうです」
放課後、遥香ちゃんと帰宅しながら、莉奈ちゃんのハロウィンイベントをしたい話を語っていた。
「莉奈ちゃんがやりたいんだって。以前家で遊んだお友達と。だから、お菓子とか作りたいんだよね。そしてできれば手伝ってもらいたいんだけど……ダメ?」
「はい、一緒に作りましょう。わーたくさん作るの楽しそうです」
よかった……遥香ちゃんも友達からそういうお誘いがあってもおかしくないからな。
「どんなレシピがあるかな~秋……」
「そうですね、秋はもうかぼちゃのケーキでは? 色も秋っぽいですし、旬ですよ。栗も秋っぽくていいですよね」
「栗……確かに秋だけど、どうやるの? 難しくない?」
「フードプロセッサがあればマロンクリームも……」
「マロンクリーム! だが……うちにフードプロセッサはない……」
まあ包丁で刻んで……ってやればいいか? 栗って茹でる? どうやるよ、マロンクリーム……。
オレはその場でスマホを取り出し検索する。
は~、甘栗でもいけるんだコレ。生クリームと砂糖のみ? そういうやり方もありなのかよ。煮ながら潰す!? 結構大胆なレシピもでてきたが、素材は集めやすいし、この場合は裏ごししたらクリーム滑らかになるような気がする。うん。いけそう。
「いいねマロンクリーム」
「あとはチョコと組み合わせれば色は秋っぽいです。クッキーやカップケーキ、フィナンシェとかもそのまま小分けできるし、いいですよ」
「カップケーキとかフィナンシェはまだ作ったことないよ、クッキーならあるけど、そのままならマカロンとかもありだよね、何気にたくさんじゃん」
全部は無理だな~やっぱメインのケーキに、お土産用のカップケーキとかかな。あ……!
「ね、ねえ遥香ちゃん、オレのバイト先にもいろいろあるけどそれはどう?」
「いいと思います! 幸星君のバイト先にはもう、ハロウィン商品は入ってきているでしょう?」
「メインのケーキは頑張って、お土産用はバイト先の商品をいろいろ詰め合わせで、ハロウィンっぽい袋で包んで~あとは……莉奈ちゃんの仮装だな」
「仮装?」
「ハロウィンの仮装をしたいらしいんだよ」
「あ~……あの、よければそっちも手伝いましょうか?」
「え⁉」
「汐里がね、その、イベントで付き合いでコスプレするからって、頼まれたこともあるし」
汐里とは……草野さん…漫研所属の腐女子、二次創作BL絵師。
ま、まあ、あの人ならそういうの(コスプレ)も付き合いでやるんだろう……。
「本当⁉ 助かる! ありがとう、遥香ちゃん!」
そういや体育祭の創作ダンスの衣裳を遥香ちゃんが率先して手伝っててくれてたし。
何、この子、お料理だけじゃない、お裁縫もいいレベルなのか!
ちなみに家に帰ってオカンにきいたら、実は学芸会の時のドロシーの衣裳も手伝いをしててくれていたとか。
遥香ちゃん、マジ神!
遥香ちゃんの両手をギュっと握ると、遥香ちゃんはみるみるうちに真っ赤になって俯いた。
そういう反応って伝染するのか、なんかオレも耳まで赤くなってる気がしてる。
もう、お前、今更かよ⁉ さんざん、手を繋いだろって言われても、遥香ちゃんの反応が可愛すぎて、照れますって。
「あーあの、手を繋いで帰ってもいいですか?」
ほんとにほんとに、今更なんだけど。
これで拒否られたらオレ、一週間ぐらい引き込もっちゃうかもしれない。
女の子慣れしてるヤツだったら、何も言わずに、どさくさに紛れてこのまま手をつないだままなんだろうけど、どうにもオレはそんなスマートなことできない。ヘタレです、ほんとごめん。
でも、遥香ちゃんは首を縦に振ってくれた。
それがすごく嬉しかった。
そんなこんなで、莉奈ちゃんお楽しみハロウィン・イベントの準備を進めて当日を迎えた。
「おじゃましまーす」
莉奈ちゃんお友達が我が家にやってきた。
みんな仮装を~っていってもうちの空いてる部屋でお着替えなんですが。
衣装はだいたいみんな学芸会につくった衣裳を持ってきていた。
女の子達は魔女だから、ハロウィンっぽいよね。
遥香ちゃんが手伝って(ほぼ一人で作ってくれた)莉奈ちゃんの衣裳も魔女モチーフなのでお揃い感。
男の子たちは魔女の帽子だけ被ってたりマントだけだったり。でもそれだけなのにハロウィンしてますって雰囲気はあった。
TVゲームもボードゲームも盛り上がったけど、一番盛り上がったのは、下準備が万全だったお菓子探しゲームのようでした。
暗号片手に部屋に隠されたお菓子を探せ! というもの。
ちびっこがはしゃいでるの、なんか可愛いな。
最後は遥香ちゃんと優哉とでご招待した子を送り届けて終了。
「コーセーお兄ちゃん、優哉お兄ちゃん! はるかおねーちゃん、莉奈、とっても楽しかったの!」
参加した子供達のおうちからもお礼の電話があって、なぜかオカンや隆哉さんではなく、オレが対応することになったのは、まああれですが、うちの天使がご満足の様子なので、概ね大成功といったところでした。
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