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◆56 遥香ちゃんに秋メニュー作ってもらった。






朝、いつものように学校に登校。

遥香ちゃんはオレ達と一緒に登校する。

莉奈ちゃんは遥香ちゃんがマンションのエントランスから出てくると、「はるかおねーちゃん! おはようございまーす」って挨拶してちゃっかり遥香ちゃんの手を取る。

可愛い妹と可愛いガールフレンドがお手てを繋いでる組み合わせ。

朝から眼福ですよ。


「こーせーお兄ちゃんは今日もバイトなの。それで、咲子ママはやきんなの。莉奈はばんごはんがしんぱいなの」


普段なら……朝から晩御飯の心配なのかと突っ込みをいれるところだけど、ここ二週間ほどバイトフル日程で入ってる状態。

莉奈ちゃんのその一言で、オレは優哉と隆哉さんに視線を向けると、二人はなんとなーく気まずそうな表情になる。

昨日、オレは夕飯の支度してからバイトに出ようとしたんだけども。「適当になんとかするから」とか隆哉さんも優哉も言ったんだよね。


「きのうは『サッポ〇いちばんラーメン』だったけど、ラーメンだけでおねぎもなかったの」


……おい、どういうことですか。お二人とも……。

オレの視線を受けた隆哉さんと優哉がオレに小さく「ごめんなさい」と呟く。

なんでも完璧に見える二人なのに、何故料理だけが残念なのか。確かにここでこの二人がメシウマだったら、隙がなくて嫌味かもしれないが。


「そっかあ、ちょっと寂しいゴハンだよねえ」

「そうなの、『サッポ〇いちばんラーメン』はおいしいけどちょっと、さみしかったの」

「じゃあ、わたしが作りに行こうか莉奈ちゃん」

「え! ほんと!?」


遥香ちゃんのそのセリフに、莉奈ちゃんだけではなくて、優哉はもちろん、隆哉さんもぱっと表情を明るくさせている……。ダメだこりゃ……。

いや、バイトフルになってるオレが悪いんだけど。


「ここで僕としては、他所のお嬢さんにそこまでさせてはとか思うけど……」

「本音は絶対嬉しいんだよね、親父。俺も同じ」

「幸星君と咲子さんのゴハンが美味しすぎて、ただでさえ自炊に自信がなかったので……水島さんがご迷惑じゃなかったらもう素直にお願いしたい」

隆哉さん、めっちゃ申し訳なさそうな感じでそう遥香ちゃんに言う。

そーだよなー息子のクラスメイトの女子に作ってもらうとか……そこは作れないなら外食とかコンビニとか冷食とかに……いや、オレがそれはいやなんだよ。この人達はそういうのさんざん食べてきたはずだし。

スーパーのお惣菜否定派じゃないよ、むしろ肯定派だよ? 今時のスーパーの総菜はいいよ? 単身者だったらそれ一品で終わるし。手早いし。オカンも買ってくる時あるし、オレも買う。ただ、ウチはよく食べる人がいるから、コスパが悪い。そういうところでも出来合いモノだけっていうのは抵抗があるのだ。ゴハンだって、この二人サ〇ウでごはんにしちゃうだろ? お惣菜のゴハンだと優哉の食べる量が満たされないから。

「莉奈は、はるかおねーちゃんとおりょうりする!」

遥香ちゃんはオレを見る。

「ごめんね……遥香ちゃん」

「ううん。幸星君のおうち、みんな好き嫌いないし、よく幸星君が言っていた『食材たくさん使って料理すると料理してるって感じがする』って、わたしも同じです。それにお世話になってるのはわたしの方ですから」

そんな遥香ちゃんの手を握ってその手を軽く振りながら「おりょうり、おりょうり~」と即興で歌を歌ってる莉奈ちゃん……スキップで飛び跳ねそうな感じでご機嫌。

遥香ちゃん本当にごめん、いや、どうもありがとうございます。

「ありがとう、遥香ちゃん」

「なら今日は、はるかおねーちゃんはおとまりだよね!」

「え?」

「おとまり、おとまり~うれしーなー! わーい!」

 莉奈ちゃん以外のその場にいるメンバーは顔を見合わせた。


莉奈ちゃんは小学校に到着すると、スキップしながら正門をくぐって行った。そのうしろ姿を見送って駅につくと、親御さんにもお伝えするから、水島さんはお泊りでいいんじゃないかと隆哉さんが言った。

遥香ちゃん……迷惑なら断るように言おう。大丈夫、オレが説得するからね!

改札を抜けたら優哉が目の前ののっぽ君の背を軽く叩く。

「おう真崎か、おはよう……」

西園寺君の後ろ姿だったのか……、西園寺君は優哉の後ろにいるオレ達にも気が付いて挨拶してくれた。

「うちのオトウトのシフト、元に戻るまで、あとどれぐらいなの?」

「来週まで」

西園寺君の返事に、優哉が悲しそうな顔をする。イケメンの憂い顔の原因が晩御飯の心配だとか誰も思うまい……。

背の高い学生二人、羨ましい。一応オレも170㎝ちょいあるけど、優哉も西園寺君も背が高いんだよなあ。

そんでもって西園寺君は……多分店長のことを好きなんだろうな。

乗り換えの駅で降りて、遥香ちゃんと二人で学校までの路線に乗り込む。


「幸星君どうしたの? バイトのこと?」


ちょっと西園寺君のことを考えていてぼんやりしていたオレに遥香ちゃんが声を掛けてくれた。


「うん……あ、遥香ちゃん、迷惑なら迷惑だって言ってね、オレ、説得するから。オレの家の事情だしね」

「え、迷惑じゃないけど……むしろ、莉奈ちゃんと一緒だからわたし嬉しいですよ?」

「そう?」

「莉奈ちゃん、可愛いから」


莉奈ちゃん、オレだけじゃなく遥香ちゃんの心も鷲掴みですか!


「それに、幸星君のおうちのみなさんにはお世話になってるし、全然」

「本当?」

「うん、幸星君が、莉奈ちゃんとお料理するとか一緒に宿題するとか言ってるの。すごく羨ましいなーって。わたし一人っ子だから妹欲しかったし」


遥香ちゃんしっかりしてるから、妹気質よりも姉気質なんだよなー。

いやいや莉奈ちゃんがしっかりしてないってわけじゃないよ?

うちの莉奈ちゃんはしっかりさんだよ? でも甘えんぼさんなのが末っ子気質なんですよ。


「だから、晩御飯は任せてください」

「じゃ、えっと、改めてお願いします」

「うん。わー、何を作ろうかなー秋っぽいメニューがいいですよね」

オレも一緒に遥香ちゃんとゴハン作りたい。

片岡さん早く復帰してほしい。

「あ、服とか教科書とかも帰りに用意しないと、でも、普通のなんでもない日にお泊りとか、わくわくしますね」

いい子だ……。天使か……。

「幸星君は、何が食べたいですか?」

「食べたいというよりも作りたいなー」

「じゃあ、作りたいものは?」

「うーん、うーん、炊き込みご飯系。あとね、秋っぽく、さんまとか鮭とか」

なんか肉というよりも魚が食べたい。でも単価が高い~。

「あーいいですよねーどっちがいいだろー」

「悩む時は価格で決めて、OKなんで」

「はい」


もしかして……先日、キクタンが言っていたのはこういうことなのか?

この間の昼休みキクタン達と話していて「自分に声を掛けてくれる子は絶対自分のことが好き!」とかキクタンが例のごとく言い始めちゃって、いやいや、お前、女子って違うからとオレが否定しても納得しなかったが……。ごめんなさい。あの根拠のない断言、もしかして実は真理なのか……。


「よし、いろいろ試してみますね、でも。失敗したらどうしよう……無難なものがいいかな」

「もしさ、失敗したら、オレと一緒にまた同じメニュートライしてみようよ」


オレがそう言ったら、遥香ちゃんは嬉しそうににっこりと笑ってくれた。

この子のこういう笑顔本当に好きだ。

そしてオレは休み時間に夜勤シフトのオカンにこの件を伝えて、買い物は明日の弁当分とか遥香ちゃんと相談してとラ〇ンを送ったのだった。




そんで放課後はバイト直行。お客さんも通常どおり。商品を品出ししてる方がカウンター入って接客よりも気が楽なんだけど、そうも言ってられなくて。カウンターに入ることも多かったよ。コーヒーフィルター用に挽いたやつがよく売れました。秋だからね。オレも入荷したばっかの季節限定豆が欲しくなってしまった。

コーヒーの匂いがすごくいいんですが。

カウンター業務しながらそんなことを思った。

「店長~こんばんは~」

ようやくお客さんもいなくなって、前陳作業をしていたら、ドアが開いて、片岡さんが入ってきた。

西園寺君が事務所にいた店長を呼び出すと、店長もカウンターに出てきた。

「片岡君。大丈夫?」

「はい。なんとか~。和希君に連絡もらって、引っ越しも考えてます。でも先立つモノが必要なんで、バイト復帰したいんですけど」

 

後から聞いたところによると、本当ならそのまま工事清掃済みになった元のアパートに戻る方が家賃がちょっぴり安くなるそうなのですが、一か月後に更新がくるのでそこでやっぱりお金は取られるし、そして何よりも、片岡さんを張っているらしい例のストーカーさんの監視を逃れるという意味もあって引っ越しを決めたとか。

明後日土曜日からまた片岡さん復帰なので、予想よりも早くバイトフル出勤はお役御免になりそうです。今週で二週間目だったけど長かった……。

学生バイトなんて、実生活でごたごたしたり、個人の性格でそのままフェードアウトしちゃう人もいるのに、片岡さん、よく戻ってきてくれました。

「いや~、もっと稼げるバイトは他で探してるし、実際やってるけど、ここはここで居心地はいいんだよね。小売店なのに野郎ばっかで話しやすいし、お客さんは女性っていうのも気構えしなくて安心だしな。飲み屋系とか飲食バイトは、アルコール入った客が多いから大変よ。時給はいいんだけどさ」

……確かに、このオレが初めての接客業ができてるバイト先で、職場の雰囲気はいいんだよな。

なんにせよ、片岡さんが戻ってきてくれそうで一安心です。

バイトが終わって、莉奈ちゃんに帰るよとラ〇ンをしてみた。

莉奈ちゃんが可愛いスタンプをいっぱい押してるようだ。画面が可愛いスタンプで流れていく。

『はるかおねーちゃんとおりょうりつくったの! おいしかったの!』と最後にそんな文字が送られた。ポケットにスマホを押し込んで、オレは自転車のペダルを踏んだ。




「ただいまー」

玄関のドアを開けると、流行のロングカットソーのルームワンピースを着た遥香ちゃんと、パジャマ姿の莉奈ちゃんがリビングのドアを開けてお出迎えしてくれた。小学一年生にとって21時はお休みのお時間だもの。

……莉奈ちゃんはオレの足にくっついてまたコアラになってしまった。


「莉―奈―ちゃーん。おうち帰ってきたら手洗いうがいですよー。コアラはあとでね」


そう伝えると離れてくれた。洗面所のドアを閉じるとオレは洗面台に手をつく。

元アラサーのオレにはなかった光景だよ、今の。

可愛い嫁と娘が仕事から帰ってきたオレを出迎えてくれる的な光景でしたよ!

オレ結婚してた? 可愛い嫁と娘いた? なんて馬鹿な事、光の速さで脳内駆け巡ったさ。

遥香ちゃん……うちにいるのが初めてってわけじゃなくて、莉奈ちゃんが攫われそうになった時とか台風の時とかは、緊急事態的なことでうちに常備してるスウェット姿だったんだけどさ。うわーうわー。遥香ちゃんのルームウェアワンピ姿、可愛いんですけど!

いやいや、お前、箱根合宿の時一緒だったじゃんって言われても、学校行事は制服の印象が強いんだよ。

勢いでぎゅうしそうだったオレ、よく我慢した! 

リビングダイニングのドアを開けると、隆哉さんがダイニングテーブルでごはん食べてた。残業だったんですね。

「ただいま、隆哉さんも残業ですか?」

「うん」

「おにいちゃん、早く早く~ここ、ここに座るの」

莉奈ちゃんが椅子を叩く。

「はいはい」

レンコンのきんぴらとキャベツのおひたし、あとメインはなんだろ、ホイル焼きは鮭ですか! えーちゃんと秋メニューで作ってくれたの? ホイル焼きはね、鮭の上に玉ねぎとエノキとピーマンが載ってる。わーピーマンの緑と鮭のコントラストがいいし、ピーマンの香りがあるからなんとなく洋風っぽいですよ、コレ。やっぱり女子お洒落だ。いや、ただの女子ではない。遥香ちゃんだからできるんだな。

莉奈ちゃんがオレのお茶碗をもってきてくれた。

わ、サツマイモの炊き込みご飯! 秋っぽい! しめじも入ってる。鮭とキノコ類とサツマイモで秋っぽさを出してる! そしてエノキはお味噌汁にも入ってました。

「きのこがやすかったの。莉奈もいっしょにおかいもの行ったの」

「それでちょっと試したのがこれです」

もいっこ副菜でてきた! 充填豆腐の上に、シメジとかエノキとかのきのこの餡が乗ってる!

「遥香ちゃんすごい!」

「優哉君がたくさん食べるから、副菜も多めに作ってみました」

「そして美味しそう!」

隆哉さんも美味しいと何回も呟いている。

すぐ食べるのもったいなくて、思わずスマホで撮影しちゃったよ。隆哉さんが料理撮影してる気持ちがわかった気がするね。

「ありがとう~遥香ちゃん、あと、これ」

オレは小さくお店のロゴが入った袋を遥香ちゃんに渡す。

お礼兼お土産です。

「え? プレゼント? はるかおねーちゃん、なにそれ」

「うん。なんだろうね」

「あけてみて、莉奈にもみせて~」

莉奈ちゃんにせがまれて遥香ちゃんは袋の中を取り出す。

「わー紅茶だ」

「こうちゃ……」

「香りがいい紅茶だよ、莉奈ちゃん、明日、朝飲もうね」

「莉奈もいいの?」

「みんなで飲むとおいしいよ」

いやいや、おうちに帰ってまったりしてる時にでもって思ったんだけどな。

でもそろそろ莉奈ちゃんおやすみの時間じゃないのかな?


そしてさつまいもの炊き込みご飯を一口食べる。

もちろん美味しゅうございました。






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