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◆55 バイト先にもちょっと台風が……。

「……それで、ココだけの話、お前、とうとう告ったのか?」


昼休みの時、オレの目の前にずいっと食い気味で質問するキクタン。


「何が?」

「すっとぼけるなよ!」

何この迫力。ギラギラしてるし鼻息荒いし……。

「だって、だって、気になるじゃんよ、いつ告ったの? てかもうトントン拍子にやっちゃった!?」

オレ、多分、自分の瞳のハイライト消えてる気がする。

お前、なんでそうなの? 頭の中、わりと恋バナ比重多いよね? 女子かよ? とかツッコミたいぐらいその手の話を振ってくるよね?

夏休みのボランティア課題の時もそうだったけど。

そんなに恋をしたいお年頃なの? ごめんそうだね、そういうお年頃だね。

オレ結構、高校生に馴染んだけど、どこか冷静なのはやっぱり30までそういった経験がなくて、魔法使い初級のアラサーだったからですかね。

「キクタン。お前は彼女が欲しいの? 女の子といちゃいちゃしたいだけなの?」

「両方!」

「キクタン……お前さ……よーくよーく考えて発言しようね、そして声のボリュームは落とそうな? キクタンは彼女、欲しいのか……じゃあ、キクタンには具体的なプランがあるんだな?」

「え……」

オレが真顔でキクタンに言うと、佐伯と委員長が「でた、真崎のオカン説教モード」と小声で呟く。

「キクタンの想像してる楽しいコトに到達するまでにいろんなプロセスが必要なのはわかるかな?」

「……え? なにそれ」

「彼女ができたらすぐにイチャコラ楽しいコトができるとでも?」

「え、できないの?」

……うーん……キクタンはあんまり考えないタイプなんだなー。

「彼女がいたらどうしたいああしたいの前に、彼女は自分以外の誰かなんだよ、わかるな?」

「……はい」

「例え彼氏彼女でも、楽しいコトをしたいと合意がなければ犯罪なのはわかっているかな?」

「……そうなの?……」

「そうなの法律でも決まってるの。だから自分だけ暴走しちゃダメだぞ? ……彼女が欲しいなら、あの子も可愛いとかこの子もいいとかだけじゃないんだからな」

「オカン、オカン、キクタンは感覚派だから、実践にはちゃんと手順は踏むから」佐伯がオレをオカンと呼びながらとりなそうとする。

「きっと「好きな子出来た、告りたい! どーすればいいの!?」そう、バタバタするに決まってるから、真崎が心配するような一足飛びに犯罪めいたことはしない。スマホのお宝フォルダを覗いて解消する術は持っているだろ」

委員長も頷きながらそう言った。

……そうか、ならいいか。そか、高校生にはスマホの中に若いリビドーを制するお宝フォルダがあるんだな……オレの時にはなかったよ。

自分でパソコン買ってからなんとなく収納していった記憶がありますけどね。

ちなみに現在のオレのお宝フォルダは超絶癒し系よ?

最新版は莉奈ちゃんのドロシー衣裳ですよ。わざわざお着替えしてくれたんだよ。

今週末は本番の学芸会、頑張ってほしい。オレはバイトですけど。


「ちょっと待って、話がおれの話になってるけど、おれはザッキーに質問してたの、なんで流れが変わるの? オレは気になるの、今後の参考に訊きたいの。で、どうなの告ったの? 水島さんに」

「告ってないし、何言ってんの?」


キクタンがカターンと右手から箸をすべり落とした。

ばっちいな、洗ってこいよ。なんで洗ってこないんだよ。しょうがねーな、オレは弁当バッグに入ってる予備の割りばし取り出してキクタンの手に握らせる。もう世話が焼けるなー保育園児ですか、お前は。

弁卓を囲んでいた委員長もギョとした目でオレを見てるし、佐伯はブリックコーヒーを咽ていた。


「ねえトミー、オレの聞き間違いでなければザッキー告ってないって言ったよね?」

「言った……」

オレはむせている佐伯に「ダイジョブかー」と声をかける。

というかキクタン、会話の音量、今ぐらいの感じでお願い。お前の声でけーんだよ。

「じゃ、なんで名前呼びなんだよ」

むせていた佐伯がなんとか通常に戻って、オレにそう尋ねる。

「オレは見た……登校中の真崎と水島さんを……。電車から出てくるところから一緒で手を繋いでいた……」

佐伯ー! お前! 何見てんの!?

通勤ラッシュだったし! 遥香ちゃん小柄だから人に押されて潰されそうだったし!

「改札抜けたところで手を放してたけど」

「電車から降りてホームに出て階段降りて改札抜けるまで手をつないでた……だと……?」

だと? までを息継ぎなしで言ったな、キクタン。

「正直それで付き合ってないとか、お前、なんなの?」

三人の視線が痛い。


「……すみません」


なんかバイト先でクレーム受けたみたいな気持ちになった。

「いやいや、待て、なんでオレが謝ってんの」

はっとして言い返す。

「いや、謝るところだろ」

委員長が問答無用で切り捨てるように言う。

えー! なんでだよ!?


「こういうのは外野がわいわい言わないで『そっと見守ってください』じゃね?」


「なんだよ、お前、何様だよ! 芸能人様かよ!?」 

「悠長すぎるんだよ、余裕なのかよ!?」

なんで委員長も佐伯も前のめりだよ。

「オレの話はどうこうよりも、お前等の恋バナ晒せや、オラ」

「なんで俺等が昼飯中に修学旅行の夜みたいな話しなきゃなんねーんだよ?」

うっわ~すげえ理不尽~。

そのセリフまんま返す。




「まあ『当人同士の問題だからほっとけや』っていう気持ちもわかるけどな。羨ましいっていうのが本音なんじゃね?」


 バイト先で昼間の会話をちょろっとしたら、西園寺君がそう言った。

「これで、その彼女が幼馴染だったりなんかしたら、属性てんこ盛りでトドメだな」

……そうかも。

だって可愛くて頭良くて、大人しめ(これは個人的に好みが分かれるけどオレは好き)ちょっと頑固だけど(これは芯がしっかりしてるからって思ってる!)真面目で素敵なお嬢さんですよ! オレ、そんな子にぎゅうまでしちゃったけど!

花火大会にも行ったし、博物館デートもしたし(そこは最後、アレな感じで終了しちゃったけど)アラサーの時だったら絶対無理なこと、今やってるし、もう周囲がやいやい言わなくても告るしかないとも思うんだけど、タイミングが、が、が!


「西園寺君は彼女いるの?」


キクタンじゃないけど、参考までに訊きたいですわー。今時の高校生ってどんなんだよ!?

オレがそういうと、西園寺君はちょっと息を飲んだ。


「……いない」


なんか『いない』っていうまでに間があったけど……。

うーん……好きな子はいるけど、彼女じゃないとか……そういうやつか?

うちの学校の連中と違って、優哉とか西園寺君とか大人びてるからなあ。

優哉はまあ、あれはなんていうか特別枠なんだけどね。

ミネラルウォーターの品出しをしていたら店のドアが開いた。


「いらっしゃいませー」


オレが反射的にそう声をだして顔を上げると、ドアの傍に立っていたのは女子大生ぐらいのお客様……。

顔を上げたオレとばっちり目線が合った。

あ、何か訊かれる。答えられるかなオレ。だいぶこの店に慣れたけど。


「ねえ、片岡さんいる?」


うん? 片岡さん? ここのバイトの? 台風で床上浸水していまバイトにこれない片岡さんですか? オレがここにいるのはその代りってことなんですけど?

オレが答える前に西園寺君が後ろの棚から顔を覗かせていたのかオレの腕を引いて小さい子を隠すように西園寺君がお客さんの前に出る。


「従業員の個人情報は教えられませんけど?」

「アンタに訊いてないわよ! だいたい高校生のクセに生意気なのよ!」


気の強い人だった……怖いよ!

「片岡さんに連絡つかないの!」

「アンタ、まだ、片岡さんおっかけてんのか、ストーカーだな」

「はあ!? 客にストーカーとか言うわけ!?」

「アンタ今、この店入って何も買ってないから客じゃないし、迷惑にも大声出しているし、あまつさえ従業員の個人情報聞き出そうとしているんだから、もう警察呼んでいいかな?」


すげえ、西園寺君負けてない!

なんか会話のところどころから把握してみたけど、この若い女性のお客さん(?)片岡さんをおっかけまわして店長に迷惑かけたっていう元従業員か?


「そこのアンタ店長呼んでよ‼ コイツじゃ話になんないわ!」


アンタ……オ、オレですか!?


「呼ぶな、真崎弟!」


西園寺君がそう叫ぶと、事務所の奥からカウンターにひょっこりと顔を覗かせる店長。

店長を見るなり店長の方へ向かうのを西園寺君が両手を広げて止める。

正面から行けないと踏んだ女性は西園寺君に背を向けて反対側の通路を通ってカウンターに突進していく。

オレも方向転換したのを見てたので反対側の通路に回り込んで通せんぼしてみる。

が……。


「どきなさいよ!」


パワーで押し切られそう!?

この女性、身長オレよりないけど、ウエイトありそうとは思ってたけどね!


「梓! 警察呼べ!」


そう叫ぶ西園寺君の言葉を聞いて、オレがなんとか防波堤になっている隙に、店長は店の固定電話の受話器を取り上げた。


「もしもし、警察ですか!?」


店長がそう警察と連絡を取ると女性はオレをどついて、カウンターの中にいる店長につかみかかるかと思ったけど、ドアの方へ身をひるがえした。

そしてドアの方を塞いでいる西園寺君も突き飛ばして、女性は「覚えてなさいよ!」と悪役丸出しのセリフを残して店から出て行った。


台風より台風な出来事でした……他のお客さんもビックリだろ。幸い店の中にお客さんは二人連れの女性客が一組だけだったからよかったけど。

お騒がせしちゃったお詫びにフレーバーティーのティーバッグ(昼間のイートイン用の)を一枚サービスでお渡ししたら、嬉しそうだった。お騒がせしちゃったけど、よければまたお越しください。

お客さんと入れ替わりで制服着たお巡りさんがやってきた。

店長と西園寺君がお巡りさんを事務所の方に通していく。多分防犯カメラのチェックなんだろうな。器物破損はなかったしケガもなかったから、現場の確認と軽い事情聴取みたいなものを済ませてお巡りさんは帰って行った。


「今日はありがとな、真崎弟」

「いや、オレも非力だから」

閉店作業を終えて制服のエプロンをロッカーにしまうと、西園寺君に声をかけられた。

「カウンターに突進するかと思ったからさ……」

いや、突き飛ばされた時、オレもそう思いました。

「えーっとあの騒ぎの人、片岡さんを追っかけてた人?」

「そう」

「片岡さんに連絡とった?」

西園寺君は頷く。

「あれもう、ストーカーでいいだろ、片岡さんに連絡したらブルってたわ」

片岡さん、彼女はいないけど、あの人を彼女にする気はなくて、当たり障りない態度を通していたらしいけど、あのエキセントリックぶりから察するに、相当片岡さんを推してて店長が防波堤になったら、店長に「年増があたしの片岡さんに色目つかってんじゃないわよ!」的な発言をかましパーンと平手でやったらしい過去が。

店長……気の毒……。

片岡さん電話を受けて「え、オレの住所特定されてるって思った方がいいの?」的な発言があったらしい。だって、片岡さんあの人がここを辞めてから一回も会ってないのに、あの人「片岡さんと連絡つかない」って言ったんだよ? 住所特定されて、そこ張ってるってみていいんじゃないの?

この世界線のイケメンってそういう苦労があるの? それともそういうことがあるってオレがずっとアラサーまでボッチだから知らなかっただけなの?


「片岡さんはどうすんの? 床上浸水が直ったらアパート戻るとか言ってたけど……それってやばくない?」

「引っ越した方が無難じゃない? 片岡さん痛い出費だよねえ」

売上金を金庫に収めにきた店長も呟く。

「うち系列の不動産紹介したほうがいいか。連絡しておく。北根さんなら相談にのってくれそうだ」

「いいよ、あたしがやるから!」

まあ冷静に考えたら、高校生のセリフじゃないもんなあ。もしかして西園寺君、人生二周目どころか三周目ですか?

店長に、売上金を金庫に入れろとか指示をだして、西園寺君はため息をつく。店長の後ろ姿を見てる西園寺君がなんか……。


「……なんにせよ、梓が無事でよかったけど。真崎弟も帰り気をつけてな」


西園寺君がそう言ったけど……うん? あれ? そういうこと⁉ 

従業員用のドアを閉めてもう一度店舗に振り返る。


ええええ⁉ もしかしてそういうこと!?






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